Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Saturday, October 28, 2006

英国における過重債務者に関する信用情報機関と銀行等の口座情報の共有化問題

わが国で個人情報保護法が全面施行されて約1年半が経過し、最近時では国民生活審議会個人情報保護部会が2006年9月21日に公開した「個人情報保護に関する主な検討課題」について、内閣府国民生活局企画課個人情報保護推進室が10月27日を期限としてパブリック・コメントに付していた(筆者注1)。
一方、海外に目を向けると英国の貿易産業省(DTI)が10月11日に過重債務者問題(筆者注2)の対応を目的として金融界や個人信用情報機関(Credit Reference Agencies(Experian等))、消費者保護団体に対して銀行と個人信用情報機関との間における預金名義人の口座情報の共有に関する諮問書(コメント期限は2007年1月11日)を公表している。
EUの個人情報保護指令(1995 EC Data Protection Directive)に基づき改正された同国の「1998年データ保護法(Data Protection Act 1998)」は個人情報のダイレクト・マーケティングの利用につき「オプト・アウト権」を明記しているが、共有について明確な規定はない。ただし、エクスペリアン(大手信用情報機関)等に見られるとおり個人信用情報機関と加盟金融機関等における相互利用主義原則(Principles of Reciprocity)や信用情報の公正取得条項(Fair Obtain Clauses)については同国の個人情報保護委員(ICO)や英国不正防止サービス(CIFAS)の校閲に基づく詳細な取決めがある(筆者注3)。
英国の取組みは社会的弱者保護を政府全体の施策といえるものであるが、法律専門家からはDTIの提案内容につきデータ保護法に抵触するといった異論もある。他方、エクスペリアン自身も自らのサイトでDTIの提案に意見を述べている(筆者注4)。
わが国における過重債務問題は貸出金利の引下げや消費者信用団体生命保険等金融の仕組みの見直しだけでは解決しない問題であり、わが国の取組課題を考える上で無視し得ない重要な問題点を示唆しているといえよう。

1.対象銀行口座
DTIの考えた案は次のような内容である。過重債務者対策として考えた4案のうち2つがこの共有方法の導入を取込んでおり、関係金融機関や信用情報機関等にコメントを求めている。銀行が取引口座情報について信用情報機関と共有するにつき口座名義人の同意を取る方法を導入する以前、すなわち1990年以前に利用されていた約4千万(現在も利用されている口座数はうち約3,300万と見込まれている)の銀行口座が対象になるとされている。このままでは、これらの口座名義人は信用情報からの一般的な信用調査を受けることがないという理由である。

2.政府の説明
 DTI大臣イアン・マカートニーは諮問書において、これを実行することは貸手にとって貸し倒れリスクを最小化し、他方、借り手を過重債務禍から救う唯一の手段と考えると述べている。

3.口座情報の共有命令に関する提案内容
1つ目は口座名義人にデータの共有について「オプト・アウト」権(登録拒否権)を認めるもの、もう1つは名義人にそのような選択権を一切認めないものである。
しかし、この諮問書にはDTIに都合のよい方式として第三案(オプション3)がある。すなわち、すべての口座情報の共有を認めるものの、名義人にオプト・アウト権を認めるもので、諮問書では当該オプションについて法的に認められるためには立法上の手当てが必要であるとしている。

4.英国の弁護士の見解例
政府が金融取引の詳細情報の共有化に伴い、同国のデータ保護法との抵触を避けるため、制定法上の規定の根拠を確立しようとしているとしている。特にオプション3は政府に都合のよい文言である(ウインドウの中だけで着飾るようなもの:見栄えだけ)。

(筆者注1) パブリック・コメントに関するURL(10月27日が期限)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=095060570&OBJCD=100095&GROUP=
なお、内閣府国民生活局のサイトを見ると、最近の海外向けの施策としてわが国の個人情報保護法の関係省庁や認定団体の施行状況(概要)について英語版を公開している。従来公表済のわが国の保護法令の英語版(この英語訳の内容については筆者として一部異論があるが)とともに好ましい方向ではあろう。
(筆者注2)英国のDTIの過重債務者問題への取組み(Tackling Over-Indebtedness Task Force(
過重債務問題作業部会))については、わが国大手消費者金融会社から構成される「消費者金融連絡会(tapals.com)」サイトで同国が2001年7月から2003年1月の間に公表された報告書の内容につき早稲田大学金融サービス研究所を詳しく紹介している。
http://www.tapals.com/dictionary/repo16.html
しかし、過重債務者問題は、英国がかかえる社会問題の一部である。すなわち、DTI、OWP(Department Work and Pensions:雇用年金省)およびDCA(Department for Constitutional Affairs:憲法事項省)の3省が中心となって、同国政府の「過重債務者問題」への取組みをまとめた「政府2006年度報告書(第3次報告)」が公表されている(全108頁)。
http://www.dti.gov.uk/files/file33134.pdf
すなわち、英国政府は特に低所得者世帯が銀行口座の開設、低利与信等主たる金融サービスを受けられないという社会問題に対して社会共同体として問題を共有し、解決すべく(社会目的の共有化と財政面の包含(支援):Promotion Financial Inclusion)、具体的優先分野として、①銀行取引へのアクセス、②手ごろに入手可能な与信サービスへのアクセス、③無料の対面による金融アドバイスサービスへのアクセス権の確保を確約した。このため同政府は3年以上にわたり1億2千万ポンド(約261億6千万円)の基金を用意するとともに、その推進役として2005年2月21日に「財政支援作業部会(the Financial Inclusion Taskforce)」を設置、関係機関との調整、勧告などを行っており、また政府全体の取り組みを推進するため2006年4月20日には財務省副大臣、DTIやDWPの事務次官級による会合を開催している。
http://www.financialinclusion-taskforce.org.uk/default.htm
また、議会の動きとしては下院財務委員会(House of Commons, Treasury Committee)が2003年12月10日に公表した報告書の第3編で「過重債務問題と責任ある貸出(責任ある借金もふくまれる)」について論じられている。
http://www.publications.parliament.uk/pa/cm200304/cmselect/cmtreasy/125/12502.htm

(筆者注3) http://www.experian.co.uk/corporate/compliance/datasharing/index.html
英国では、信用情報機関(現行、①the Experian CAIS database、②the Equifax Insight database、③the Callcredit SHARE databaseである)と銀行等特定の範囲の貸し手グループ間の信用情報の共有について「相互利用原則(Principle of Reciprocity)」のガイドラインを定めている。このガイドラインを作成、監督するのが前記3情報機関(英国での免許を得た信用情報機関:CRA)および英国銀行協会(the British Bankers Association)、金融・リース業協会(the Finance and Leasing Association)、不動産抵当ローン融資業協議会(the Council of Mortgage Lenders)、メールオーダー取引業者協会(the Mail Order Traders’ Association)、消費者信用取引協会(the Consumer Credit Trade Association)から構成される「相互利用運営委員会(the Steering Committee on Reciprocity:SCOR)」である。この運用ルールは適宜改訂されており、Q&Aとともに確認が出来る。
http://www.experian.co.uk/downloads/compliance/scorrules_101204.pdf
(Q&AのURL)http://www.experian.co.uk/downloads/compliance/por_qa_finalv26april06.pdf

(筆者注4)エクスペリアンの主張は次の通りである。基本的に公益の立場ならびに貸し手の正当な利益保護の観点から共有を肯定するものであり、また貸し手が借り手に対して過去にさかのぼって同意を得ることを義務付けることは実際的でない、つまり通知による同意の取得方法としては、毎月の月次計算書によって同意を得る方法をすでに憲法事項省が十分と認めているのであり、「公正かつ合法的」方法として認められるべきである。
http://www.experian.co.uk/corporate/compliance/datasharing/index.html

〔参照URL〕
http://www.out-law.com/page-7393-theme=print

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Sunday, October 08, 2006

オーストラリアにおける「美しい日本」の紹介

筆者が愛読しているオーストラリアのクイーンズランド大学(The University of Queensland)の学報(557号)で面白い特集に出会ったので紹介する。安部新総理が書かれた同題の本「美しい国へ」はまだ読んでいないので標題の意味は単なる言葉の比喩である。
要は海外で日本文化のある一面がどのように見られているかについて紹介したかっただけである。
同号のカバー・ストリーでありタイトルは「silk degrees」である。筆者は始めに日本の伝統技術である「絹」を褒め称えた表現と思ったが実際は違うようだ(筆者注1)。記事の内容とタイトルの意味を以下の通り簡単に要約しておく。
「美しい日本」の文化や伝統を海外に正確に広める努力を我々は真に行っているのであろうか。さらに世界に通用する「美しい日本語」の普及にどれだけ努力しているであろうか。オーストラリアの大学の取組み例を紹介する。

○8月末に同大学の日本語・比較文化研究所(UQ’s School of Language and Comparative Culture Studies)の協賛のもとで、同大学の日本語教育の40周年を祝う式典がアベル・スミス階段教室で行われた。まず、手の込んだ髪型、人目を引く化粧で魅了する花魁(courtesans)(筆者注2)の伝統的舞踊で始まった。
また、花魁道中と5人の踊り手による日本舞踊が行われ、また一方で社会科学・人文科学資料館が保有するものの展示や日本語コンテストが行われた。

○ 下関伝統舞踊協会による道中や舞踊の後に、ジェームズ・メアリー・エミリア・メイン・センターで招かれた過去の卒業生や大学の現スタッフ等によるカクテルパーティが開かれた。

○同大学における日本研究は、日本との貿易関係の再構築を目的として始まった。1960年代の終わりまで日本の3大商社(三井、住友、三菱)がクイーンズランド州ブリスベン(Brisbane)に現地事務所を開設し、また1966年には日本領事館が開設され、さらに1972年には総領事館に格上げされた。

○ ジョイス・アクロイド教授(Prof.Joyce Ackroyd)(以前は、オーストラリア国立大学の准教授)は日本語及び文化基金の理事長に指名されており、彼女は女性教授の第一号で、また他州に先んじてクイーンズランド州の高校の外国語教育のなかで日本語教育に寄与した。

○ 同教授の監督下において、日本語・文化プログラムはオーストラリアにおける主要日本文化研究の1つとなっている。同教授は1983年に退官したが、最後の業績の1つが1980年に行った画期的な日本語通訳の適用と移入に関する修士コース(MAJIT)の導入であった。このようなコースはオーストラリアの大学で唯一であり、2001年同プログラムはスイスに本拠を置く国際会議同時通訳協会(the International Association of Conference interpreters:AIIC)(筆者注3)が管理する同時通訳プログラムの第二位にランキングされている。

○ アクロイド教授の承継者は、アラン・リックス(Alan Rix)教授である。同氏は現在副学長(Pro-Vice-Chancellor)で、日本の他の専門分野との学位の統合について推進を行っている。

○ 同大学において現在提供されている日本プログラムは9本で、日本語・比較文化研究所が主催している。

(筆者注1)silk degreesとは名誉学位のことである。オーストラリアの大学の卒業式に博士号、修士号等また専門分野に応じて絹のガウンやフードを着るのである(各大学に詳細な着用規則がある。どうもこれがsilk degreesの語源のように思えるが、あくまで筆者の自己流の解釈である。

(筆者注2)筆者も初めて知ったのであるが、花魁(おいらん)(a courtesan)とは、遊女の最高地位で性風俗の世界のことなので舞妓・芸者とは位置づけが違い高級娼婦であると説明されている。大学の記事の筆者が、このような意味を知った上でこの言葉を使ったかどうかは定かでないが、正確な文化の継承や海外への伝達がわが国の国際化の大きな課題であろう。

(筆者注3)AIICは1953年に設立されて、現在80カ国2,600人以上のプロの同時通訳が加入している。その具体的な役割についてはサイトで確認していただきたいが、国際会議等において隠れた重要な機能を果たしていると言えよう。
http://www.aiic.net/ViewPage.cfm/article8

〔参照URL〕
http://omc.uq.edu.au/news/557UQNEWS.pdf

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Saturday, October 07, 2006

オーストラリアにおける消費者金融教育と年金問題(その1:金融クイズ)

預金金利の低迷と株価等の高騰を背景として「貯蓄から投資へ」と言う言葉が一般的になってきた。しかし、問題は2007年問題と言うより大量の退職金をターゲットとする銀行、証券、生損保等各金融機関の売込みが今後急速に拡大し、それに伴う金融トラブルがますます広がることが懸念される。
さらに、少子化時代を迎え公的年金制度の限界も取りざたされている。本ブログはこれら社会問題を真正面から取り上げるのではなく、金融商品のリスクや年金問題について消費者教育における海外との比較を行うことが目的である。
わが国で金融教育サイトといえば、まず思い出すのが「金融広報中央委員会」のサイトであろう。一方、本ブログでも、過去紹介してきたオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission)の消費者向け専用サイト「fido」(筆者注1)で最近掲載された金融クイズがある。この両者のサイトの内容の比較を通じて、これからの消費者金融教育(あまり直訳過ぎるこの言葉は好ましくないが、とりあえず使用する)についての課題を数回にわたり提起する。
なお、当然のことながらわが国と豪州では消費者金融の商品スキームや税制なども異なるし、また年金制度もわが国の公的年金を基本(筆者注2)とするものより確定拠出型個人年金を主たるスキームとする等、単純な比較は無意味である。
しかし、それらの差異を含めても消費者金融教育の社会的重要性は変わらないと考える。
 今回は、fidoサイトから「金融クイズ」6つの質問を紹介する。回答方法は簡単なので、多少英語(豪州英語の知識も必要)に自身のある人は直接サイトのアクセスされたい(筆者注3)。正解と解説が直ちに戻ってくる。その他の人は、次回の本ブログで正解と筆者の補足説明を見ていただきたい。

質問1:あなたは年利7.5%の住宅ローンの広告を読みました。その数字の次に「比較利率(comparison rate)」として7.85%と書かれていました。この「比較利率」はどのようなことを意味しますか。
①現在提供されている類似の住宅ローンの平均金利のこと。
②広告されている住宅ローンについて金利プラス各種手数料を加えた金利のこと。

質問2:アレックスはちょうど自宅の改築工事を終えました。改築後の家は従来付保していた家の2倍の価値があります。改築後の家に住宅保険付保のため彼はどのくらいの費用がかかるでしょうか。
①一般的に、保険料は2倍となる。その理由はアレックスは2倍の保障を得るのであるから。
②一般的に、厳しめに見て保険料は2倍以下である。

質問3:キムは決済用残高の金額に拘らず6カ月間特別定低利の金利を適用するという理由から新しいクレジットカード手に入れました。キムは3,000豪ドル(約258,000円)を決済口座に移しました。その後、キムはこのカードで600豪ドル(約5,200円)使い、カードの月次計算書が着き次第600ドルを支払ったとすると、特別低利は残高で残っている3,000ドルになお適用されるのでしょうか。
①はい
②いいえ

質問4:サムは年利16.5%のクレジットカードで3,000豪ドルのキャッシングをしました。サムは毎月の支払額につき月次計算書に表示された「最低返済額(minimum payment due)」で返済します。サムが全額を返済し終えるのに何年かかるでしょうか。
①約31年
②約4年

質問5:23歳のナッツは今仕事を始め、年間45,000豪ドル(約3,870,000円)の収入があります。もしナッツが退職後の収入確保のために老齢退職年金(super;superannuationのこと)として1,000豪ドル上乗せして積んだ場合、65歳(受給開始年齢)までに上乗せしない人と比較して総受給額はどのくらい差がつくでしょうか。
①約83,000豪ドル(約7,138,000円)
②約145,000豪ドル(約1,247,000円)

質問6:典型的な55歳の女性が95歳以上で生存している確率は。
①3人に1人
②10人1人

(筆者注1) 2006年1月11日付ブログ「オーストラリア証券投資委員会(FIDOサイト)が新年早々金融詐欺をめぐる「絵に描いた餅賞」を公表」参照。

(筆者注2)海外の主要国においても公的年金を補完する個人・企業年金において確定給付型から確定拠出型のへのシフトが起っていることは周知の通りである。わが国におけるこれらの問題を論じた公的審議会や論文が多い一方で、金融広報中央委員会のサイトでは個人確定拠出年金や企業年金の解説等は行われているが(ただし、執筆者がすべて外注とはいかがか)、年金計算書シュミレーションの対象は公的年金のみである、次回以降詳しく紹介する豪州の場合は計算シュミレーションだけでも大分類で「年金計算」と「その他」に区分、さらに「その他」では①老齢退職年金、②合同運用ファンド、③複利、④リスクとリターン、⑤収入に応じた予算計画、⑥クレジット・カードの返済計算、⑦クレジット・カード等複数のローンを受けている場合の計算、⑧年金生活でどこまで耐えられるかの計算、⑨持ち家担保融資(リバース・モアゲージ:最近わが国でも話題となりつつある)がどこまでもつかの計算である。欧米流の自己責任を基本としながら、社会として協力する姿勢が見られる。

(筆者注3)直接fido サイトからチャレンジされる方は次のURLを開き、次に「Money quiz」を開くこと。
http://www.fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/FIDO+Questionnaires?opendocument

〔参照URL〕
fidoの退職老齢年金専用サイト(あくまで年金基金が中心になっているが)
http://www.fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/HeadingPagesDisplay/Superannuation?OpenDocument

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Friday, October 06, 2006

EU加盟国における電子政府の税申告・納付・還付システムの取組の最新動向

わが国では2000年11月29日に「高度情報化通信ネットワーク社会形成基本法」が成立し、電子政府の取組みの要請・期待が高まるなかで、以降、毎年「E-Japan 重点計画」が策定され、最近では「政策パッケージ2005」「重点改革」が決定されている(筆者注1)。一言で「電子政府」、「電子自治体」といっても範囲が広すぎて国民には理解できない点が多かろう。これはEU加盟国でも例外ではない。しかし、少なくとも電子政府に関する「政府の専用ウェブサイト」を比較してみると、行政(国や地方自治体等)が提供する市民生活に密着したサービス機能一覧や説明の平易さ等に差があるといいえよう(筆者注2)。
全体的な比較は改めて行うこととして、今回は最近公表されたEU加盟国6カ国の個人向けeTaxationの特徴について紹介する(筆者注3)。

1.スェーデン
2005年に、210万人以上の市民が国税庁(the National Tax Board)が用意した所得税(income tax)の電子納税申告を利用した。この数字は2004年比で約2倍である。スェーデの納税者は国税庁から送信されてくるあらかじめファイル化・計算された電子納税申告書を受け取る(このときに、「soft electronic ID(国税庁が指定した暗証番号とパスワード)」が必要であるが、電話やSMS(ショート・メッセージ・サービス)でも確認可能である。インターネットで申告する時に納税者は、この国税庁が定めたsoft IDまたは電子IDを使う。210万人の利用に伴い国税庁は経費節減額を約275万ユーロ(約4億700万円)と見込んでいる。国税庁は今後5年間でさらに電子申告件数とそれに伴う経費節減が増加すると期待している。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/4296)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/se/index_en.html

2.ベルギー
同国は国税システムのプログラムの近代化と統合に現在まで約1,250万ユーロ(約18億5,000万円)を費やしてきている。このプログラムは税管理のあらゆる分野すなわち、①税計算、②申告、③登録、④徴収、⑤早期払い、⑥クレーム処理に関するものである。主な目的は以下の通りである。
(1)膨大な納税者情報の統合を通じてサービスの改善、すなわち手続の簡素化、処理時間の短縮、納税センターのマニュアル処理を排除する。
(2)徴税機関の官吏の税務会計処理を簡素化し、内部事務処理の効率化が可能となる。
(3)近代的なIT環境を取り込んで維持コストを削減する。
今日まで、ベルギー政府は異なる納税システムにより所得税、法人税、付加価値税(VAT)等を別管理してきた。このため納税者は申告時に納税に必要な基本情報につどついて異なる様式に記載しなければならなかった。単一データベースへの再構築により、納税者は複数の納税申告に際し、たった1度の登録で済むことになる。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/4060)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/be/index_en.html

3.フランス
フランスは2006年でオンライン申告の稼動2年目となる。第一段階では電子申告は税当局により完成され、納税者は単にその内容をチェックし、署名後、税当局に返送するのみであった。オンライン納税者は特定の月に申告利用することが認められ、その場合に毎月の銀行の引落し命令(bank order)または直接引落し(口座引落し)(direct debit)により納付する場合、20ユーロ(約2,960円)の税額免除が行われるというという特典が認められた。
申告の的確性とオンライン納税を行うため、フランス市民は「電子的承認(electronic certificate)」を行わねばならないが、がすでに100万人のユーザーがその適用を受けている。その他、2006年の目玉はすべての公的な納税様式のためサーバーを立ち上げることにある。行政が定める様式の3分の2のは2006年末までにはオンライン化が進み、2008年までには100%切り替わる予定である。
 フランスでは電子申告の原則が急速に拡がっており、2005年には370万人が利用し、2006年中にはその数は1,000万人に上ると予想されている。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5460

4.ポルトガル
会社やその他法人に対し年税のインターネットによる進行の要請に引続き、同国の政府は個人の所得表の電子的提出を促進する各種手段を採用した。これらの新たな手段は納税にかかるエラーの早期発見でありこれは納税者の申告内容について可能なミスを修正しひいては税返還の遅延回避を実現するものである。
このサービスの基幹システムはすでに稼動しており、残りのシステムもまもなく稼動予定である。さらに、新たに「オンライン・ヘルプデスク」や電子様式にかかるガイドラインの見直し、納税者に申告提出の状況を知らせる「eTax alert」サービス、納税者との間の通信のセキュリティ対策としてパスワードの導入などが含まれる。
2005年中に、170万の申告がインターネット経由で行われ、その数字は2004年比増である。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5373)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/pt/index_en.html#1329_2

5.アイルランド
アイルランド歳入委員会事務局(Ireland‘s Office of the Revenue Commissioners)は2005 年の早い時期に、SMSによる新たな納税照会サービスを開始した。これは納税者からの携帯電話による、①税額控除(tax credits)、②テキスト(text)形式による納税様式やパンフレットの請求である。呼び出し手は、個人ID番号と必要なサービスコードを入力するのみでよい。
納税徴収機関もまた、税額控除の進捗状況の確認のためテキストメッセージ形式を使用することが出来る。この新SMSサービスが始まって最初の2週間の間に同事務局は電話での件数と同じ約8,000件の請求を受け付けた。
同サービスの立ち上げの成功は、「モバイル政府(m-government)」の未開発部分への可能性を確認出来たことになる。最近の調査では、アイルランド国民の回答者の48%が電子メールの送信やウェブサイトを都度開けることよりもSMSによる情報の請求を熱望しており、15歳から25歳に年代層でみるとその数字は61%になる。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/3996/)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/ie/index_en.html

6.ハンガリー
2006年3月以来、「e-tax提出」「義務的申告(duty return)」は、同国の「ハンガリ電子政府センター」で運用が行われている。同プロジェクトの開発費用は、750万ユーロ(約11億1,000万円)以上であるが、これにより同国の納税の大部分並びに月間・四半期ごとの税申告が電子的に行えるようになった。同国では広い範囲の納税者が法的に毎月、納税申告を行わねばならず、2006年3月には、約5,000の異なる事業所で働く200万人がこのシステムに登録した。2007年には義務的なこの電子的提出件数は120万人の雇用者に広がり、ユーザー・データベースがさらに増えると予想されている。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5603)

(筆者注1)わが国のIT戦略の全体的な取組のサイトのURLは次の通り。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/enkaku.html

(筆者注2)一例として英国の電子政府サイト(Directgov)とわが国の電子政府サイトのURLを記しておく。実際の使い勝手で比較していただきたい。
1.英国:http://www.direct.gov.uk/Homepage/fs/en
大分類として4つに区分される。(1)調べたいテーマ別(教育・学習、不動産売買や地域社会とのかかわり、貯蓄・金融サービスや納税・還付手続等の問題、旅行や輸出入手続、犯罪阻止・被害者としての裁判手続、雇用、健康管理や医療問題、レジャーや趣味・リクリエーション、人権やプライバシー保護等の社会問題)、(2)人々が関心を寄せるテーマ(両親と子供、家族、ハンディのある人々、50歳代、海外での仕事等)、(3)地域行政機関からサービスの受け方(中古本の再生、粗大対策ごみ、違法駐車の罰金対策)、(4)トピック(若者の技術研修支援、地域の医療サービスの受け方)。またこれらとは別に、①(事業者向け起業情報・政府電子入札等)、②スコットランド、北アイルランド等自治政府、③中央政府、④地方自治政府へのリンクが可能となっている。
また、各テーマの中身を一部見ておく。今回取り上げる「税」のコーナーを見てみよう。「金融問題、税及び給付金(benefits)」から入り、さらに「税金」は所得税の申告納税手続きのイロハから始まり申告書の作成方法(オンライン)、納税申告用ソフトウェアの使い方、支払い方法等についての説明がある。
2.日本(電子政府の総合窓口):http://www.e-gov.go.jp/index.html
個人向けサービスの「納税」や企業・事業者向けに「税」の項目があるが、ここでは「e-Tax(国税電子申告・納税システム)(URL:http://www.e-tax.nta.go.jp/gaiyou/gaiyou1.html)」、「eLTax(地方税ポータルシステム)(URL:http://www.eltax.jp/outline/index.html)」、「ペイジー(国庫金電子納税システム)
(URL:http://www.boj.or.jp/type/exp/kokko_denshi/kokko_a.htm)について、まったく触れられていない。一般市民に総合窓口のページ検索でこれらの内容まで行き着く作業を求めるのか。

(筆者注3)電子政府の現状を正確に理解するうえで最も大事な点は、目的・範囲の明確化ならびに開示原則の徹底であろう。無駄な予算の支出はどこの国でも許されないし、行き過ぎたかたちは国家による国民の監視強化につながる。その意味で、民間の機関であるが「better Europe practices(beep)」が電子政府の取り組みの評価を客観的かつ丁寧に行っている。政府発表の記事だけでない客観性が求められるのは世界共通であろう。なお、beepは電子政府について、4つの主要目的のもとにさらにキー・ファクターを整理したマップを作成している。機会を見てbeep独自の各国の電子政府の評価について 詳しく紹介するが、同マップにも極めて基本的かつ重要な視点が整理されて盛り込まれている。ぜひ読んでいただきたい。
http://www.beepgovernment.com/Map.asp

〔参照URL〕
http://ec.europa.eu/idabc/jsps/documents/dsp_showPrinterDocument.jsp?docID=5965&lg=en

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Wednesday, October 04, 2006

AOL 9.0バージョン(Free version)はスパイウェアの要件を正確に再現

8月28日に筆者が加入しているハーバード・ロースクールのバークマン・インターネット研究センター(Berkman Center for Internet & Society)等が協力して活動しているNPO組織、StopBadware.org(筆者注1)が、標記AOL 9.0(フリーウェア版)をバッドウェア(スパイウェア)としてAOLに対し公開質問状を提出した。この件は、わが国でも8月30日付けで複数の関連ニュース(といっても内容はまったく同じであるが)(筆者注2)で紹介されているが、そこで 指摘されている問題点は必ずしもスパイウェアの問題点についてセキュリティの専門的視点から述べているとはいえない。
そこに隠された問題点は記事内容の不正確さである。IT分野での曖昧・正確性を欠く記事は消費者の混乱を招くだけで、行わないほうがまだ良いといえる。
やや時間がたってしまい紹介に躊躇していたが、9月27日付で同センターからテスト結果に基づく新たな「Badware」の警戒を指摘する報告があった(筆者注3)。スパイウェア問題は実は単純なハッカー対策では不十分である。つまり、ビジネスと非ビジネス(倫理観を持たない企業の経営活動)の境界線上の問題なのである。これは超大企業であっても例外ではない。その点で果敢に取組んでいる同オルグにエールを送る意味と、わが国のこの分野での取組みの重要性(筆者注4)を指摘する意味で紹介する。
なお、同オルグの「Badware reports」画面の右欄に注目して欲しい。世界のBadware名と非Badware名が具体的に記載されている。一般のユーザーに優しくかつ有効な情報提供といえよう。

1.AOL 9.0がSpywareたる具体的要件
(1)開示説明なしに追加的ソフトウェアをインストールする(いい加減なインストール)。
(2)ユーザーに一定の行動を無理強いする(コンピュータの自由な使用を妨げる)
(3)Internet Explorer上にAOLのツール・バーを追加する(開示なしにブラウザソフトの変更を行う)。
(4) Internet Explorerのツール・バーにアイコンを追加する(開示なしにソフトウェアの変更を行う)。
(5) Internet Explorerの「お気に入り」に勝手に追加する(開示なしに他のソフトを変更する)。
(6)AOL Deskbarをユーザーのタスクバーに追加する(開示なしに他のソフトを変更する)
(7)自動的にソフトウェアをアップデートする(いい加減なインストール)

2.悪意のかつ非開示に関するスパイウェア行為の具体的問題点
(1)AOLのソフトに添付されて「RealPlayer」「QuickTime」「AOL You’ve Got Pictures」「Screensaver」「Pure Networks Port Magic」「Viewpoint Media Player」がインストールされるが、この点についてユーザーはなんら明確に通知されない。ただし、「QuickTime」と「Viewpoint Media Player」はAOLソフトウェアの権利に関するページで言及される。しかしながら、ユーザーが「AOLソフトウェア」のページにたどり着くにはAOLのプライバシー・ポリシーをクリックして、さらに2番目の「ソフトウェア」の言葉をクリックしなければならない。すなわち、ユーザーはこれらのソフトについてOSの追加・削除の機能を使わない限り、これらのソフトがインストールされていることさえ知らないのである。
(2)ユーザーに一定の行動を強いる点である。テスト中であるインストール後1日後にAOLのポップアップ・ボックスが表示される。そこではアップデートを無理強いされる。すなわち、ユーザーはダイアログ・ボックスを見るとアップデートしか選択肢がなく(×印がない:クローズできない)、かつ多数のウィンドウズの中でスクリーン上の一番前面に表示される。
(3) Internet ExplorerにAOLツールバーを半強制的に追加する。「はい」をクリックするか「アンインストール」してくださいとあるが、「はい」をクリックすると関連のサイトにリンクするのみで、その間にユーザーが拒絶する機会について
明示しない(インストール後にアンインストールの説明をするのは適切な開示方法とはいえない)。
(4)AOLのセット商品である「AOL Deskbar」では、自動的にアップデートするか否かの選択肢があり、初期値設定時にこのオプションがチェックされるが、最初の画面上でユーザーはこのオプション権にもかかわらず自動的にアップデートされてしまう。

3.AOLへの勧告
StopBadware.orgは以下の勧告をAOLに対して行った。AOLの広報担当者はユーザー・インターフェイスについて改善を約束しているが、さらにウォッチしていく必要があろう。
(1)AOL 9.0のインストールの間、追加ソフトのインストールについてのユーザーの同意を求めるよう十分説明する。
(2)ユーザーが自主的に閉鎖できないダイアログボックスの使用によって一定の行動を強制しないこと。
(3)AOLのインストールの間に追加的なコンポーネント・ソフト(ツールバー、お気に入り等)がインストールされることをユーザーに開示すること。
(4)AOL Deskbarがタスクバーにインストールされることや自動的なアップデートについてユーザーへの説明を十分行うこと。

(筆者注1)StopBadware .orgの構成メンバーは、ハーバード・ロースクールのバークマン・センター(Berkman Center for Internet & Society)(サイバー法の専門家集団)、オックスフォード大学インターネット研究所(Oxford Internet Institute)(インターネットの総合研究機関)、消費者報告WebWatch(Consumer Reports WebWatch)であり、スポンサーはGoogle、Lenovo、Sun Microsystemsである。
http://www.stopbadware.org/
同機構の報告書の特徴は、丹念なテスト結果に基づき(1)Badwareとしての特徴(スパイウェアとしての行動の特性を分析)を簡潔に整理、(2)非公開の部分である具体的な違法性分析、(3)ソフトウェアの製造者への改善勧告とフォローである。

(筆者注2)今に始まった話ではないが、翻訳の原典とした記事自体がStopBadware.orgが公表したものではなく、海外のメデイアが要約した記事をもとにいわゆる翻訳専門家が訳しているので、コンピュータセキュリティの専門知識が求められる問題であるにも拘らず、内容について具体性・正確性に欠ける。

(筆者注3)9月27日に公表されたBadwareは「WinAntiSpyware 2006(Unregistered Version)」
である。このソフトは唯一完全なバージョンへのアップグレードを誘導する「nagware」「extrotionware」と呼ばれるソフトである。また、同ソフト同プログラムが何時自動起動するのか、プログラムのバックグラウンドで継続的に実行しているのか、ユーザーの同意なしにアップデートをダウンロードするのかなどについて開示しないという問題がある。なお、同報告書は同ソフトのBadwareとしての特徴を次の4点にまとめている。
(1)コンピュータの適正な使用を妨害する:雑音を交えたポップアップ広告を表示してユーザーの冷静な判断を麻痺させる。
(2)いい加減な機能説明:大げさにコンピュータの機能の脆弱性を指摘して危機感を煽る。
(3)いい加減なインストール:ユーザーの同意なしに自動的にアップデートする。
(4)開示なしにコンピュータの使用を妨害する:自動的にプログラムを起動させる。
http://www.stopbadware.org/reports/reportdisplay?reportname=winantispyware

(筆者注4)例えば、警察庁の@policeの「世界のセキュリティ事情」コーナーは現在準備中である。筆者の記憶では一時期はレポートが載せられていたように思うのであるが(ただし解説の精度と言う点では今一番であったが)、StopBadware.orgのレベルを期待したい。

〔参照URL〕
http://www.stopbadware.org/reports/reportdisplay?reportname=aol082706

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