EU加盟国や米国等で急増するスパム被害と規制立法や業界自主規制の状況(前編その1)
スパム問題は、単なる「迷惑なメール」(筆者注1)問題ではすまない経済的損失、企業のセキュリティの脆弱性への脅威および個人のプラバシーの著しい侵害行為として、その違法性が大きな社会問題と感じているのは筆者だけではあるまい。
また、スパムメール問題はマーケティング活動と裏腹の問題でもあり、規制立法のみでなく業界の自主規制による対策の限界も見えてきたといえる。さらに、各国の法規制の例外規定による不整合さもうかがえるし、技術的な対策の限界も指摘されている。
今回のブログではこれらの点を概観しながら、スパムに関する社会的・経済的な損失を危惧しかつ新たな詐欺問題に取組んでいるEU加盟国や米国の現状を紹介する。
わが国ではスパムに対する法規制として、(1)送信事業者に対する「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(筆者注2)、(2)販売事業者に対する「特定商取引に関する法律」(筆者注3)があり、それぞれ新たな違法行為に即して法改正が行われているが、その一方で特定商取引法施行規則により義務づけられている表示の効果や罰則についての効果を疑問視する声が多い。この点は、個人情報保護法(プライバシー保護法)の規定を明確な根拠にしてスパムの法規制を行っているフランスの取組等が法規制の在り方を議論するうえで参考になろう。
また景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年五月十五日法律第百三十四号))に関し、公正取引委員会が平成14年6月5日付けで「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」 を公表しており、これもわが国のスパム対策法規制といえる。
わが国の関係者が懸念するとおり、インターネット先進国ほど議会、司法・法執行関係者、関係省庁間で危機感をもって取組む重要課題となっている点を改めて紹介し、今後一層混乱するであろうスパム対策において効果を上げるべく施策の導入と消費者の問題認識の向上に注目したい。
なお、本テーマについては当初2回くらいでまとめるつもりであったが、EUの主要国をまとめるとなるとさらにブログへの登載が遅れるため、前編の2回分に引続き、ドイツ、スェーデン、ノルウェイ、英国、米国の取組の現状およびわが国の取組むべき課題については、後編で述べることとした。
1.EUにおけるEmailマーケティングに対するアンチ・スパム法規制
(1)2002年7月のEU指令
EU議会および理事会はスパム等規制に関し、2002年7月12日に「個人情報の処理および電子通信部門におけるプライバシー保護に関する指令(Directive 2002/58/EC)」 (筆者注4)を採択している(施行日は2002年7月30日)。
同指令の主な内容について簡単に紹介するが、同指令に基づき加盟国は各国の国内法の立法をもって実際的な機能を果たすものであり、「指令」と言う加盟国共通の基準が作成されたに過ぎない。各国の国内法化の期限(deadline)は2003年10月31日であった。しかし、加盟国の法整備は大幅に遅れており、以下述べるとおり、法規制の在り方も国により異なるのが実態である。
(2)2006年3月の改正EU指令
EU議会および理事会は、2006年3月15日に「公的に利用可能な電子通信サービスまたは公共の通信網サービスに関する規定におけるデータの発生または処理したデータの保持に関する指令(Directive /24/EC)」 を採択した。本指令は、データの保持に関し電子通信サービス・プロバイダーに課せられている現行の義務に関し、加盟国間の調和を図ることを求めている。その目的は、違法行為の調査、検出および起訴におけるデータの有用性を確実にすることである。このため同指令は、①保持されるべきデータのカテゴリー、②データ内容の品質保持(the shelf-life)、③保持すべきデータの格納要件、④データの機密保護に関し遵守すべき諸原則からなる。本指令の遵守期限は2007年9月15日である。
2.EU加盟国等におけるEmailマーケティングに対するスパム法規制の現状
EU加盟国ほか欧州に位置する各国別のスパム規制立法の状況について関心が高い割には一覧性を持ったデータは意外と少ない。EUのSPAM専門公式サイトである「EuroCAUSE」 でも意外に情報が古い。筆者もこだわって調べた結果、OECDの「スパム対策諮問委員会(Spam Task Force)」 の情報が最も新しくまた簡単な解説がなされており、本ブログでも引用した(筆者注5)。なお、筆者の個人的判断で取り上げる国を限定した。
(1)オーストリア
「2003年電気通信法(Telekommunikationsgesetz 2003 : TKG 2003)」 の107条(Unerbetene Nachrichten)および109条(罰則規定)がスパム関連規制に関する規定である。
【107条】1項:テレマーケティング(ファクシミリを含む)目的の通信について、事前に受信者の同意を要すると定めている。この同意は何時でも撤回可能である。
同条2項:ダイレクト・マーケティング目的を有し、かつ送信先が50先以上である場合において、事前の同意のないマーケティング目的の電子メール(SMSを含み。「消費者保護法1条1項2号」(筆者注6)に定義がなされている」)の送信を禁止する。
同条3項:次の「同意不要」の例外規定を定めている。
①送信者が、その顧客から販売やサービスに関する通信上の詳細な連絡方法について受取済である場合。
②通信が送信者における同様の製品やサービスに関するダイレクト・マーケティング目的である場合。
③顧客に対し、明確かつ明らかな方法で無料、簡単な方法により意義申立てを行うかまたは自ら保持する電子的契約の細目を適用できる機会が与えられている場合。
【109条】108条に違反した場合は3項19号から21号により37,000ユーロ(約574万円)以下の行政罰(Verwaltungsstrafbestimmungen)が科される。
(2)ベルギー
ベルギーは、EU指令に基づきEU加盟国で初めてスパム規制法を制定した国である。すなわち、受信者たる消費者が特に「オプト・イン」を選択している場合を除き、あらかじめ受信者の同意のない商業メールの送信を禁止した。受信者からの同意を得る前に商業電子メールの「subject lineの冒頭」に広告の略語である「AD」表示が義務付けられ、また接続時に受信拒否に関する有効な情報の提供も義務付けられる。
「2003年情報社会のサービスにおける司法特別法(Loi sur certaines aspects juridiques des services de la société de l’information)」 の14条および26条(刑事罰規定)がスパム関連規定である。
【14条】1項:広く広告する目的の電子メール(courrier électroniaue)の使用は、当該メッセージの名宛人による自由、特定されかつ関連する情報が提供されたうえでの事前の同意がない限り禁止される。
前節に関し、国王(le Roi)は権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、禁止の例外とする場合をあらかじめ定めることができる。
同条2項:電子メールによるすべての広告の送信時に送信者は次のことを行わなければならない。
①広告受信後における明確かつ包括的な申込みの撤回権(droit de s’opposer)に関する情報の提供 。
②電子的手段による当該権利の効果的な遂行のための適切な方法について規定上の手筈の指定かつ明示。
権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、国王は発信者に対し受信者がさらに電子メールによる広告の受信しない旨の意思を尊重するための方法を決定する。
同条3項:電子メールによる広告の送信時には次のことが禁止される。
①第三者の電子メールアドレスまたは識別情報の使用。
②電子メールの通信内容の原本性や通信過程の確認を可能とさせるすべての情報の偽造または隠蔽。
同条4項:電子メールによる広告を求める文字による証拠保全義務は発信者が負う。
【26条】3項:14条の規定に違反して広告電子メールを送信した者は、250ユーロ(約39,000円)から25,000ユーロ(約390万円)の罰金に処する。
(3)デンマーク
A.デンマークでは「2000年市場活動の適正化実施法(The Marketing Practices Act:Lov om markedsføring)」(筆者注7)の6条および30条(罰則規定)がスパム関連規定である。なお、同国の消費者保護オンブズマン(forbrug dk)のホームページ にはスパム規制に関するボックス(@)があり、問題意識の高さがうかがえる。
【6条】1項:業者は関係する消費者がそのような要求を行った場合を除き、電子メール、自動的架電・ファクシミリシステムにより商品、不動産その他の商品、ならびに労働やサービスの販売を売り込んではならない。
同条2項:(事前同意の例外規定)前記オーストリア法107条3項とほぼ同内容のため略す。
同条3項:取扱事業者は、1項に関し次に掲げる場合に、販売目的をもって1項に定める以外の間接的通信手段を用いて特定の自然人に働きかけを行ってはならない。
①関係する受け手が事業者からの通信を拒否している場合。
②四半期ごとに更新される市民登録中央局(CPR-Kontoret)(筆者注8)が作成するリストについて関係者がマーケティング目的の利用を拒否した場合。
③事業者が中央局との相談時において、関係者がそのような通信の受信について拒否することを予め認識していた場合。
電話によるマーケティングについても、「特定の消費者の同意に関する法律(Lov om visse forbrugeraftaler)」に定める要求されない通信に関する定めに従う。
同条4項:3項は問題となる個人が予め事業者からの通信を要求していた場合は適用しない。
以下略す。
【30条】3項:3条1項から3項、4条から6条、8条2項(中略)の規定に違反した行為に対しては他の法令によりさらに重い罰金刑の定めがない限り罰金に処する。
B.最近のデンマークのスパム有罪判決例
forbrugのサイトでは、消費者保護に関する具体的な裁判例が紹介されている。その中でスパムに関するものを紹介する。
① 2005年10月31判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:10,000デンマーク・クローネ(約20万5,200円)
〔事案の概要〕IT企業であるN社が約100通の迷惑広告メールを拡散的に送信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、起訴に持ち込んだものである。
② 2006年4月7日判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:40,000デンマーク・クローネ(約82万円)
〔事案の概要〕2004年にワイン業者P社が約100通の迷惑広告メールを発信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、警察に持ち込んだものである。この事案では950通のメールが発信されたとされたが、これはデータベースのリンクの誤りであると被告会社は説明した。しかし、受信者がオプトアウトした後も受信したとの苦情が出ていた。
(筆者注1)UBE(Unsolicited Bulk Email) もしくは UCE(Unsolicited Comercial Email(下線部はIPAのスペル・ミステイクである:筆者) Email)は、宣伝や嫌がらせなどの目的で不特定多数に大量に送信されるメールであり、俗にspam メールと呼ばれている。特に嫌がらせの場合には、その送信元を隠蔽する目的で、送信元を詐称したり、第三者中継を利用することが多い。また、送信先をロボットで収集したり売買されているアドレスリストを使用するほか、ツールで生成したアドレスを用いるなど、実存するアドレスかどうかを確認せずに送り付けることも多い(独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) サイトより引用)。また、経済産業省や総務省の解説パンフレット もspamを「電子メールによる一方的な商業広告(いわゆる迷惑メール)」としている。
ところが、法的ならびに技術的にみてこれらspamの定義はあまり正確とは言えない。ちなみに最近スパム等の専門家である高崎真哉氏の「迷惑なメール」 と言うカテゴリー分類を読んで目のうろこが落ちた気がした。スパムは頓珍漢な(とても顧客のニーズに即したマーケティング情報に基づくものとは思えない、ただフリーランス・アルバイター等が顧客リストや電話帳などをもとに電話をかけまくっているだけで、同一の代理業者から同一内容の電話が1日に何回もかかってくる。スパムよりさらに「迷惑」である。)電話セールス以上に社会的影響が大きい問題である。高崎氏の分類は、(1)大分類(①迷惑なメール、②ゴミメール(自嘲メール))、(2)中分類(迷惑なメール)(①嫌がらせメール(ストーカーや悪戯メール)、②ジャンクメール)、(3)小分類(ジャンクメール)(①ウイルスメール、②チェーンメール、③スパムメール)、さらに(4)スパムメール(迷惑メール:Unsolicitated Bulk Email:UBE)は①一方的広告メール(Unsolicitated Commercial Email:UCE)、②不特定向詐欺spam(内容は詐欺情報)に分類されている。同氏の指摘はこの中の(4)スパムメールを狭義の「スパム」として論じている。「スパム」の国際的に見た法的な定義は現状必ずしも明確でないが、ドイツの法律事務所のサイト で述べられている次のような定義が参考になろう。
①広告的な内容を持つこと(慈善目的の非商業目的の電子メールについては認められうる場合があり議論の余地がある)。
②受信者が欲していないこと:受信者(Empfänger)により事前の明確な要求が存在しないこと。
③あらかじめ送信者と受信者間で、例えば広告宣伝用emailニュースの申込等の商業取引契約関係がないこと。
(筆者注2)同法(平成14年4月17日法律第26号)は、これまで3回改正されており、最新の改正は平成17年7月26日第27号(平成18年5月1日施行)である。
(筆者注3)同法(昭和51年6月4日法律第57号)は、旧「訪問販売等に関する法律」の改正法である、これまで9回改正されている。同法の対象となる取引類型は、①訪問販売、②通信販売、③電話勧誘販売、④連鎖販売取引、⑤特定継続的役務提供、⑥業務提供誘引販売取引、である(平成14年4月28日に「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律」が成立し、①悪質な訪問販売等に関する規制強化および一定の場合に契約の取消やクーリング・オフ等民事ルールの整備、②連鎖販売取引等に関する返品・返金ルールや誤認による契約取消等・クレジット支払の拒否、③誇大広告・勧誘事業者に対する資料の提出など法執行手続が整備された)。
両法律は平成14年に改正され、同年7月1日に施行された。その内容は、通信販売事業者による電子メールによる消費者(受信者)からの請求に基づかない(Unsolicitated)広告の送信時における「表示義務」の内容(①メールの件名欄の冒頭に「未承諾広告※」の表示、②メール本文の最前部に企業者(送信者)の氏名・名称および受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスの表示、③任意の場所に送信者の住所および電話番号の表示)が追加された。アダルトサイト等は「受信拒否」を行うとかえって受信の事実が分ってしまうため、情報提供先である「日本データ通信協会」や「日本産業協会」のへの情報提供時に注意するよう警告が行われている。
(筆者注4)同指令の日本語訳文は「インターネットプライバシー研究所(代表 高木 寛氏)」サイト を参照されたい。
(筆者注5)OECDのスパム対策諮問委員会は、2005年3月に開催した会合で議論した文書「スパムの法執行の在り方に関する報告書」 を 4月23日に完成し、OECDの「消費者政策委員会(CCP)」および「情報コンピュータ通信政策委員会(ICCP)」に機密解除(declassfication)勧告を行っている。同報告書は越境におけるスパムに対する法執行の在り方が中心であるが、加盟国の国別公的機関の取組み方について3つに分類している。(1)消費者保護機関(日本では公正取引委員会と経済産業省が取り上げられている、欧米ではオンブズマンが一般的)、(2)個人情報保護機関(日本は該当機関なし、欧米では個人情報保護委員会またはオンブズマンが一般的)、(3)通信規制機関(日本では総務省、欧米では通信委員会や監督機関が一般的)である。国際化するスパム問題を論じるうえで、参考となる報告書であろう。
(筆者注6)同法(1979年KSchG)第1編(企業と消費者間の契約に関する特別規定)第Ⅰ編(適用範囲)の1条1項1号および2号 において「本編に定める法的な取引における「取引」は、一方で事業を行う個人企業家(Unternehmer)を含み、他方「消費者(Verbraucher)」個人には適用しない」と定めている。
(筆者注7)同法は2005年12月21日付で改正され(ACT No.1389 of December 2005)、2007年1月1日に施行された。
(筆者注8)デンマークの市民登録制度は内務省登録中央局が管理している。なお、根拠法は
「Act No. 426 of 31 May 2000 on the Civil Registration System (Lov om Det Centrale Personregister)である。
〔参照URL〕
http://silicon.fr/fr/silicon/news/2006/12/28/france-93-mails-spams
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また、スパムメール問題はマーケティング活動と裏腹の問題でもあり、規制立法のみでなく業界の自主規制による対策の限界も見えてきたといえる。さらに、各国の法規制の例外規定による不整合さもうかがえるし、技術的な対策の限界も指摘されている。
今回のブログではこれらの点を概観しながら、スパムに関する社会的・経済的な損失を危惧しかつ新たな詐欺問題に取組んでいるEU加盟国や米国の現状を紹介する。
わが国ではスパムに対する法規制として、(1)送信事業者に対する「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(筆者注2)、(2)販売事業者に対する「特定商取引に関する法律」(筆者注3)があり、それぞれ新たな違法行為に即して法改正が行われているが、その一方で特定商取引法施行規則により義務づけられている表示の効果や罰則についての効果を疑問視する声が多い。この点は、個人情報保護法(プライバシー保護法)の規定を明確な根拠にしてスパムの法規制を行っているフランスの取組等が法規制の在り方を議論するうえで参考になろう。
また景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年五月十五日法律第百三十四号))に関し、公正取引委員会が平成14年6月5日付けで「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」 を公表しており、これもわが国のスパム対策法規制といえる。
わが国の関係者が懸念するとおり、インターネット先進国ほど議会、司法・法執行関係者、関係省庁間で危機感をもって取組む重要課題となっている点を改めて紹介し、今後一層混乱するであろうスパム対策において効果を上げるべく施策の導入と消費者の問題認識の向上に注目したい。
なお、本テーマについては当初2回くらいでまとめるつもりであったが、EUの主要国をまとめるとなるとさらにブログへの登載が遅れるため、前編の2回分に引続き、ドイツ、スェーデン、ノルウェイ、英国、米国の取組の現状およびわが国の取組むべき課題については、後編で述べることとした。
1.EUにおけるEmailマーケティングに対するアンチ・スパム法規制
(1)2002年7月のEU指令
EU議会および理事会はスパム等規制に関し、2002年7月12日に「個人情報の処理および電子通信部門におけるプライバシー保護に関する指令(Directive 2002/58/EC)」 (筆者注4)を採択している(施行日は2002年7月30日)。
同指令の主な内容について簡単に紹介するが、同指令に基づき加盟国は各国の国内法の立法をもって実際的な機能を果たすものであり、「指令」と言う加盟国共通の基準が作成されたに過ぎない。各国の国内法化の期限(deadline)は2003年10月31日であった。しかし、加盟国の法整備は大幅に遅れており、以下述べるとおり、法規制の在り方も国により異なるのが実態である。
(2)2006年3月の改正EU指令
EU議会および理事会は、2006年3月15日に「公的に利用可能な電子通信サービスまたは公共の通信網サービスに関する規定におけるデータの発生または処理したデータの保持に関する指令(Directive /24/EC)」 を採択した。本指令は、データの保持に関し電子通信サービス・プロバイダーに課せられている現行の義務に関し、加盟国間の調和を図ることを求めている。その目的は、違法行為の調査、検出および起訴におけるデータの有用性を確実にすることである。このため同指令は、①保持されるべきデータのカテゴリー、②データ内容の品質保持(the shelf-life)、③保持すべきデータの格納要件、④データの機密保護に関し遵守すべき諸原則からなる。本指令の遵守期限は2007年9月15日である。
2.EU加盟国等におけるEmailマーケティングに対するスパム法規制の現状
EU加盟国ほか欧州に位置する各国別のスパム規制立法の状況について関心が高い割には一覧性を持ったデータは意外と少ない。EUのSPAM専門公式サイトである「EuroCAUSE」 でも意外に情報が古い。筆者もこだわって調べた結果、OECDの「スパム対策諮問委員会(Spam Task Force)」 の情報が最も新しくまた簡単な解説がなされており、本ブログでも引用した(筆者注5)。なお、筆者の個人的判断で取り上げる国を限定した。
(1)オーストリア
「2003年電気通信法(Telekommunikationsgesetz 2003 : TKG 2003)」 の107条(Unerbetene Nachrichten)および109条(罰則規定)がスパム関連規制に関する規定である。
【107条】1項:テレマーケティング(ファクシミリを含む)目的の通信について、事前に受信者の同意を要すると定めている。この同意は何時でも撤回可能である。
同条2項:ダイレクト・マーケティング目的を有し、かつ送信先が50先以上である場合において、事前の同意のないマーケティング目的の電子メール(SMSを含み。「消費者保護法1条1項2号」(筆者注6)に定義がなされている」)の送信を禁止する。
同条3項:次の「同意不要」の例外規定を定めている。
①送信者が、その顧客から販売やサービスに関する通信上の詳細な連絡方法について受取済である場合。
②通信が送信者における同様の製品やサービスに関するダイレクト・マーケティング目的である場合。
③顧客に対し、明確かつ明らかな方法で無料、簡単な方法により意義申立てを行うかまたは自ら保持する電子的契約の細目を適用できる機会が与えられている場合。
【109条】108条に違反した場合は3項19号から21号により37,000ユーロ(約574万円)以下の行政罰(Verwaltungsstrafbestimmungen)が科される。
(2)ベルギー
ベルギーは、EU指令に基づきEU加盟国で初めてスパム規制法を制定した国である。すなわち、受信者たる消費者が特に「オプト・イン」を選択している場合を除き、あらかじめ受信者の同意のない商業メールの送信を禁止した。受信者からの同意を得る前に商業電子メールの「subject lineの冒頭」に広告の略語である「AD」表示が義務付けられ、また接続時に受信拒否に関する有効な情報の提供も義務付けられる。
「2003年情報社会のサービスにおける司法特別法(Loi sur certaines aspects juridiques des services de la société de l’information)」 の14条および26条(刑事罰規定)がスパム関連規定である。
【14条】1項:広く広告する目的の電子メール(courrier électroniaue)の使用は、当該メッセージの名宛人による自由、特定されかつ関連する情報が提供されたうえでの事前の同意がない限り禁止される。
前節に関し、国王(le Roi)は権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、禁止の例外とする場合をあらかじめ定めることができる。
同条2項:電子メールによるすべての広告の送信時に送信者は次のことを行わなければならない。
①広告受信後における明確かつ包括的な申込みの撤回権(droit de s’opposer)に関する情報の提供 。
②電子的手段による当該権利の効果的な遂行のための適切な方法について規定上の手筈の指定かつ明示。
権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、国王は発信者に対し受信者がさらに電子メールによる広告の受信しない旨の意思を尊重するための方法を決定する。
同条3項:電子メールによる広告の送信時には次のことが禁止される。
①第三者の電子メールアドレスまたは識別情報の使用。
②電子メールの通信内容の原本性や通信過程の確認を可能とさせるすべての情報の偽造または隠蔽。
同条4項:電子メールによる広告を求める文字による証拠保全義務は発信者が負う。
【26条】3項:14条の規定に違反して広告電子メールを送信した者は、250ユーロ(約39,000円)から25,000ユーロ(約390万円)の罰金に処する。
(3)デンマーク
A.デンマークでは「2000年市場活動の適正化実施法(The Marketing Practices Act:Lov om markedsføring)」(筆者注7)の6条および30条(罰則規定)がスパム関連規定である。なお、同国の消費者保護オンブズマン(forbrug dk)のホームページ にはスパム規制に関するボックス(@)があり、問題意識の高さがうかがえる。
【6条】1項:業者は関係する消費者がそのような要求を行った場合を除き、電子メール、自動的架電・ファクシミリシステムにより商品、不動産その他の商品、ならびに労働やサービスの販売を売り込んではならない。
同条2項:(事前同意の例外規定)前記オーストリア法107条3項とほぼ同内容のため略す。
同条3項:取扱事業者は、1項に関し次に掲げる場合に、販売目的をもって1項に定める以外の間接的通信手段を用いて特定の自然人に働きかけを行ってはならない。
①関係する受け手が事業者からの通信を拒否している場合。
②四半期ごとに更新される市民登録中央局(CPR-Kontoret)(筆者注8)が作成するリストについて関係者がマーケティング目的の利用を拒否した場合。
③事業者が中央局との相談時において、関係者がそのような通信の受信について拒否することを予め認識していた場合。
電話によるマーケティングについても、「特定の消費者の同意に関する法律(Lov om visse forbrugeraftaler)」に定める要求されない通信に関する定めに従う。
同条4項:3項は問題となる個人が予め事業者からの通信を要求していた場合は適用しない。
以下略す。
【30条】3項:3条1項から3項、4条から6条、8条2項(中略)の規定に違反した行為に対しては他の法令によりさらに重い罰金刑の定めがない限り罰金に処する。
B.最近のデンマークのスパム有罪判決例
forbrugのサイトでは、消費者保護に関する具体的な裁判例が紹介されている。その中でスパムに関するものを紹介する。
① 2005年10月31判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:10,000デンマーク・クローネ(約20万5,200円)
〔事案の概要〕IT企業であるN社が約100通の迷惑広告メールを拡散的に送信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、起訴に持ち込んだものである。
② 2006年4月7日判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:40,000デンマーク・クローネ(約82万円)
〔事案の概要〕2004年にワイン業者P社が約100通の迷惑広告メールを発信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、警察に持ち込んだものである。この事案では950通のメールが発信されたとされたが、これはデータベースのリンクの誤りであると被告会社は説明した。しかし、受信者がオプトアウトした後も受信したとの苦情が出ていた。
(筆者注1)UBE(Unsolicited Bulk Email) もしくは UCE(Unsolicited Comercial Email(下線部はIPAのスペル・ミステイクである:筆者) Email)は、宣伝や嫌がらせなどの目的で不特定多数に大量に送信されるメールであり、俗にspam メールと呼ばれている。特に嫌がらせの場合には、その送信元を隠蔽する目的で、送信元を詐称したり、第三者中継を利用することが多い。また、送信先をロボットで収集したり売買されているアドレスリストを使用するほか、ツールで生成したアドレスを用いるなど、実存するアドレスかどうかを確認せずに送り付けることも多い(独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) サイトより引用)。また、経済産業省や総務省の解説パンフレット もspamを「電子メールによる一方的な商業広告(いわゆる迷惑メール)」としている。
ところが、法的ならびに技術的にみてこれらspamの定義はあまり正確とは言えない。ちなみに最近スパム等の専門家である高崎真哉氏の「迷惑なメール」 と言うカテゴリー分類を読んで目のうろこが落ちた気がした。スパムは頓珍漢な(とても顧客のニーズに即したマーケティング情報に基づくものとは思えない、ただフリーランス・アルバイター等が顧客リストや電話帳などをもとに電話をかけまくっているだけで、同一の代理業者から同一内容の電話が1日に何回もかかってくる。スパムよりさらに「迷惑」である。)電話セールス以上に社会的影響が大きい問題である。高崎氏の分類は、(1)大分類(①迷惑なメール、②ゴミメール(自嘲メール))、(2)中分類(迷惑なメール)(①嫌がらせメール(ストーカーや悪戯メール)、②ジャンクメール)、(3)小分類(ジャンクメール)(①ウイルスメール、②チェーンメール、③スパムメール)、さらに(4)スパムメール(迷惑メール:Unsolicitated Bulk Email:UBE)は①一方的広告メール(Unsolicitated Commercial Email:UCE)、②不特定向詐欺spam(内容は詐欺情報)に分類されている。同氏の指摘はこの中の(4)スパムメールを狭義の「スパム」として論じている。「スパム」の国際的に見た法的な定義は現状必ずしも明確でないが、ドイツの法律事務所のサイト で述べられている次のような定義が参考になろう。
①広告的な内容を持つこと(慈善目的の非商業目的の電子メールについては認められうる場合があり議論の余地がある)。
②受信者が欲していないこと:受信者(Empfänger)により事前の明確な要求が存在しないこと。
③あらかじめ送信者と受信者間で、例えば広告宣伝用emailニュースの申込等の商業取引契約関係がないこと。
(筆者注2)同法(平成14年4月17日法律第26号)は、これまで3回改正されており、最新の改正は平成17年7月26日第27号(平成18年5月1日施行)である。
(筆者注3)同法(昭和51年6月4日法律第57号)は、旧「訪問販売等に関する法律」の改正法である、これまで9回改正されている。同法の対象となる取引類型は、①訪問販売、②通信販売、③電話勧誘販売、④連鎖販売取引、⑤特定継続的役務提供、⑥業務提供誘引販売取引、である(平成14年4月28日に「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律」が成立し、①悪質な訪問販売等に関する規制強化および一定の場合に契約の取消やクーリング・オフ等民事ルールの整備、②連鎖販売取引等に関する返品・返金ルールや誤認による契約取消等・クレジット支払の拒否、③誇大広告・勧誘事業者に対する資料の提出など法執行手続が整備された)。
両法律は平成14年に改正され、同年7月1日に施行された。その内容は、通信販売事業者による電子メールによる消費者(受信者)からの請求に基づかない(Unsolicitated)広告の送信時における「表示義務」の内容(①メールの件名欄の冒頭に「未承諾広告※」の表示、②メール本文の最前部に企業者(送信者)の氏名・名称および受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスの表示、③任意の場所に送信者の住所および電話番号の表示)が追加された。アダルトサイト等は「受信拒否」を行うとかえって受信の事実が分ってしまうため、情報提供先である「日本データ通信協会」や「日本産業協会」のへの情報提供時に注意するよう警告が行われている。
(筆者注4)同指令の日本語訳文は「インターネットプライバシー研究所(代表 高木 寛氏)」サイト を参照されたい。
(筆者注5)OECDのスパム対策諮問委員会は、2005年3月に開催した会合で議論した文書「スパムの法執行の在り方に関する報告書」 を 4月23日に完成し、OECDの「消費者政策委員会(CCP)」および「情報コンピュータ通信政策委員会(ICCP)」に機密解除(declassfication)勧告を行っている。同報告書は越境におけるスパムに対する法執行の在り方が中心であるが、加盟国の国別公的機関の取組み方について3つに分類している。(1)消費者保護機関(日本では公正取引委員会と経済産業省が取り上げられている、欧米ではオンブズマンが一般的)、(2)個人情報保護機関(日本は該当機関なし、欧米では個人情報保護委員会またはオンブズマンが一般的)、(3)通信規制機関(日本では総務省、欧米では通信委員会や監督機関が一般的)である。国際化するスパム問題を論じるうえで、参考となる報告書であろう。
(筆者注6)同法(1979年KSchG)第1編(企業と消費者間の契約に関する特別規定)第Ⅰ編(適用範囲)の1条1項1号および2号 において「本編に定める法的な取引における「取引」は、一方で事業を行う個人企業家(Unternehmer)を含み、他方「消費者(Verbraucher)」個人には適用しない」と定めている。
(筆者注7)同法は2005年12月21日付で改正され(ACT No.1389 of December 2005)、2007年1月1日に施行された。
(筆者注8)デンマークの市民登録制度は内務省登録中央局が管理している。なお、根拠法は
「Act No. 426 of 31 May 2000 on the Civil Registration System (Lov om Det Centrale Personregister)である。
〔参照URL〕
http://silicon.fr/fr/silicon/news/2006/12/28/france-93-mails-spams
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