Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Saturday, March 31, 2007

米国の株価大暴落の背景にあるインサイダー取引事件や住宅ローン・バブル等の懸念材料(その2)

(3)今回の大規模インサイダー取引犯罪の背景にある投資証券取引規制および投資一任勘定の規制強化
米国におけるオープンエンド型投資信託(mutual fund)やヘッジファンドをめぐるトラブルは極めて多い。株式市場の不安定さによることも1つの原因といえようが、米国の連邦会計検査院(GAO) は、2004年1月27日付で「投資信託の受託手数料やその他の販売推進活動についてより一層の公平性・透明性」を求める報告書を連邦議会上院「国家財政管理、予算および国際証券取引に関する小委員会」あて提出している。
SECや全米証券業協会(NASD)による厳しい規制監督や投資家保護に関する詳細な情報提供にもかかわらず、SECによる投資顧問会社(アドバーザー)やヘッジファンドの告訴があとを絶たない。ちなみにSECの法執行部(Division of Enforcement)サイトを見てみよう。SECの法執行行為は、①連邦裁判所への民事告訴(Federal Court Actions)、②行政手続き(Administrative Proceedings)、③行政審判官による第一次審決(Administrative Law Judges Initial Decisions & Orders )、④委員会の意見(Commission Opinions)に区分されるが、連邦裁判所への民事訴追も本事件後だけでも13件起きている。 一方、NASDのヘッジファンドに関する投資家向け情報(自信のある向きは投資に関する金融クイズ(18問)にチャレンジされたい)提供も継続的に行われている。
 SECサイトでは「あなたの投資資金を分散投資(Hedging Your Bets)―ヘッジファンドの有利な運用、ヘッジファンドのヘッジファンドとは―」(筆者注10)や2002年8月23日付の「ヘッジ・ファンズによるファンズ(Funds of Hedge Funds)-高い潜在的収益のための高いコストとリスク」を読んで欲しい。ヘッジファンド・マネージャーがいかに高度な?投資戦略と技術を用いているか、その違法すれすれの手法を紹介している。

(A)米国のおける投資家間の重要な企業情報へアクセスの公平性確保策(筆者注11)
米国やわが国の企業において、投資家の信頼確保面の最大の問題は証券アナリストや機関投資家さらに個人投資家の間の情報格差の是正である。そのような点を背景として米国SECは2000年8月に「選択的情報開示およびインサイダー取引の規制に関する最終規則(Selective Disclosure and Insider Trading)」を採択、同年10月23日に施行した。
 本規則の主な狙いは、①発行者による未公開情報の選択的開示(レギュレーションFD(Fair Disclosure))、②インサイダー取引の責任問題は未公開情報のトレーダーの使用または意図的占有に基づく(同規則10b5-1)、③家族やその他ビジネス外の関係の基づくインサイダーにおける横領理論(misappropriation theory)(同規則10b5-2)の3つの問題に帰結するため、本規則は債券発行者による完全・公正な情報開示の徹底とインサイダー取引きに対する既存の禁止処分の一層の強化を図ったのである。
すなわち、SECは従来のインサイダー取引規制とは別に情報を保有しうる立場にある人間の選択的な情報開示自体を禁止することで、証券アナリストを通じた情報の漏洩の禁止策をとったのである。
この開示義務が課されるのは、債券発行者(規則101条b項)および発行者に代って行動する発行者の上級幹部やIR担当役員やブローカー兼デイーラー、投資顧問業者、証券アナリスト等(規則101条c項)である。
 このような新たな観点からSEC規則を定めた背景には、企業の内部者が業務を通じて知りえた内部情報に基づいて証券売買を行った場合ならびに外部者がこれらの内部情報に基づいて売買を行った場合は当該内部者は共犯者として米国証券取引所法等に基づき罰せられる可能性が大であった。
しかし、近時の取引きの実際は、証券アナリストが顧客である機関投資家等に内部情報を提供し、これら情報に基づいて不当な売買行為が行われることが多くなってきた。
 これに関し、司法機関の解釈は「1934年証券取引所法」10条(b)項SEC規則10b-5条に関し限定的であり、例えば1983年の連邦最高裁判所判決(DIRKS v. SEC)は「証券アナリストがインサイダー取引きの共犯として処罰されるためには、①企業の内部者が個人的な利益を得るために証券アナリストに対し重要な情報を選択的に開示し、②その結果、企業に対する信認(fiduciary)義務」に違反した場合で、③情報を受け取ったアナリストもその義務違反の事実を知っていたかあるいは知るべきであった場合に限る」と判示している。 

(B)わが国の投資顧問業法にいう投資一任勘定(ラップ口座)に関する情報提供不足問題
 2003年10月に国民生活センターは「投資取引きにおける消費者向け情報に関する調査研究結果(英米日比較)」を公表している。前述のNASDのサイトも照会されているが、個人投資家が被害に会わないためのノウハウ提供が最も重要であろう。ちなみに、わが国の投資顧問業界の窓口である「投資顧問業協会」サイトで「投資一任勘定」見ると「お任せ」の一言である。これではまったく投資家保護にならない。一方、金融庁等のサイトも専門家向け以外の情報はない(2007年3月に金融庁は「ヘッジファンド調査(2006)の結果」を公表している。その中で米国でも問題となっている「ファンズ・オブ・ヘッジファンズ」おける運用手数料の二重徴収に言及している。それなりのパーフォーマンスを出すのであれば問題ないとする機関投資家も少なくないと述べているが、具体的な比率(20%プラス5%等)までは述べていない。個人投資家の場合はその評価は異なるはずである。そこが米国では問題になっているのである)。

(C)証券アナリストの利益相反行為と企業改革法( Sarbanes –Oxley Act of 2002 )の機能強化の必要性
利益相反行為の制限・規制のポイントとなる点は証券アナリストによる利益相反行為である。大手証券会社は証券アナリストをかける市場リサーチ部門と投資銀部門が共存している。証券アナリストは大口顧客の証券会社に厳しい評価をつけづらく、その独立性の確保が課題となる。企業改革法501条(登録証券アナリストに関する利益相行為規制 15 U.S.C.§78o-6(a))では、この点について1934年証券取引所法の改正、新設(15D)が行われている。(筆者注12)
 すなわち、① 投資銀行業務に従事するブローカーもしくはディーラーに雇われる者または投資リサーチに直接責任を負わない者は、法務または法令遵守部門を除きアナリストのリサーチ報告書を公表前に審査または承認することを制限される。② 証券アナリストの監督または給与査定については、投資銀行業務に従事しないブローカーまたはディーラーにより雇われた職員が行わなければならない。③ 証券アナリストのリサーチ報告書がブローカーまたはディーラーの投資銀行取引に悪影響を及ぼしたとしても、アナリストに報復してはならない。④証券アナリストがリサーチ報告書の対象とする企業に対し、債券または株式を有しているか否か、リサーチ報告書で推薦の対象とされた企業が、その1年内にブローカーまたはディーラーの顧客であったか否かといった事実を、SEC 規則に従って開示しなければならない。

(筆者注10)米国のヘッジファンド規制(設定、運用、販売)についての法制度面の解説はSECサイトより金融庁の解説(平成17年2月「ヘッジファンド調査の概要とヘッジファンドをめぐる論点」)の方が分かりやすいので以下引用する(SECの投資管理部サイトの最新情報を含め一部加筆、補足した)。以下の関係法の詳細を検索しようとするとSECサイトから「シンシナティ大学のサイト」に行き着く。米国らしい。
(1)ヘッジファンドの「設定」に関する法規制
1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)において、国法証券取引所上場会社のみならず、発行済証券の保有者が名簿上500人以上で、かつ100万ドル超の資産を有する証券発行者は、その発行する証券をSECに登録しなければならない。証券を登録した発行者には、継続開示義務(年次・四半期報告書等)、大量保有報告義務(5%超保有報告)および短期売買報告義務(10%超保有するファンド内部者の取引報告)が課せられている。なお、多くのヘッジファンドは、発行済証券の保有者が500人未満であることから、本登録を免除されている。
また、1940年投資会社法(Investment Company Act of 1940)は、原則、すべての投資会社のSECへの登録、投資会社およびその関係者に対する行為規制、SECによる制裁等を規定している。ただし、証券の実質所有者が100人以下で、かつ公募を行っていない証券発行者は、本法上の投資会社とはみなされない。多くのヘッジファンドはこの規定により、SECによる規制が免除されている。なお、多くのヘッジファンドは、適格購入者を無制限に受け入れていることから、SECによる規制が免除されている。
(2) ヘッジファンドの「運用」に関する法規制
SECは、2004年10月に1940年投資顧問法(Investment Advisors Act of 1940)を改正し、投資顧問の登録義務を強化する新ルールを追加するとともに、関連規則の一部改正を行った。
本改正法は2005年2月10日に施行、登録義務の開始は2006年2月1日からとなっている。
A. 登録の対象
米国に本部を置き、営業を行う投資顧問48のうち、①米国内に15人以上の顧客を有し、②2,500万ドル以上の資産運用を行う者は、投資顧問業者としてSECに登録する義務が生じる。米国に本部を置かないオフショア投資顧問も、米国に15人以上顧客を有する場合は、運用資産額に関係なくSECに登録する義務が生じる。なお、従前、直近12か月間の顧客が15人未満であることなど一定の要件を満たす投資顧問業者は、SECへの登録義務が免除されていたが、法改正により、顧客数の計算方法が変更となり、ヘッジファンドに投資している投資家の数も顧客の数に算入されることとなり、多くのヘッジファンドの投資顧問が規制の対象となった。
B. 開示義務
投資顧問業者は、投資顧問業者登録様式により、ヘッジファンドの数・運用資産総額・従業員の数・顧客の種別等を含む情報をSECに登録しなければならない。また、登録された情報は投資家に開示される。投資顧問は、顧客利益に奉仕する旨書面で約し、その方針・手続に関する情報を顧客に開示する必要がある。また、業務方法・処分歴・財政状況等を含む書面の開示も必要となる。
C. 法令遵守(コンプライアンス)関連義務
登録投資顧問業者は、SECによる定期的な検査や法令遵守に関する方針・手続を書面で採用し、毎年見直すとともに、それを管理する最高コンプライアンス責任者を任命しなければならない。また、職員の行動基準等を含む倫理規範を作成しなければならない。
D.その他の義務
その他の義務として、成功報酬を徴収する投資家を、最低150万ドルの純資産か75万ドルの預入資産を有する者に限定、顧客資産の維持・管理、業務に関する帳簿・記録の5年間の保存が課される。
(3)ヘッジファンドの「販売」に関する法規制
1933年証券法(Securities Act of 1933)は、原則すべての公募証券をSECに登録することおよび勧誘に当たり投資家に目論見書を交付すること等を義務付けている。
ただし、これらの義務は、①私募の場合ならびに②適格投資家に対して募集を行う場合および③募集の額が少額である場合には適用除外となることから、多くのヘッジファンドは当該規定の適用を受けているようである。ただ、適格投資家への販売除外規定および少額免除を利用したヘッジファンドを投資家に勧誘する際には、新聞・雑誌・手紙・テレビ・ラジオ放送等を利用した不特定多数への勧誘が禁止されるほか、購入者が当該証券を転売しないよう、証券発行者は必要な措置を講じなければならない。

(筆者注11)SECの「公平情報開示およびインサイダー取引の規制に関する最終規則」についての解説は、一般的に読めるものとしては平松那須加「知的資産創造」2001年9月号24頁以下が上げられる。特に証券アナリストを介した内部情報の入手事件として有名な1983年7月1日連邦最高裁「DIRKS v. SEC事件(463 U.S.646)」におけるインサイダー取引規制(証券取引所法、SEC規則違反)の適用制約を回避することが同規則制定の背景にある点の解説が参考となろう。
ただし、同稿は米国におけるインサイダー取引規制の経緯については十分言及していない。その点についてはやや古くなるが、1998年9月ケンブリッジ大学で開かれた第16回「国際経済犯罪シンポジューム」においてSECの法執行部次長トーマス・ニューキーク氏(Thomas C. Newkirk)が歴史的な流れについて分かりやすく解説している。また、同氏が言及している「EUにおけるインサイダー取引および市場操作に関するEU指令(2003/6/EC)」(2004年4月12施行、2004/72/EC指令で改正済)についてはEUの公式サイトで確認できる。
また、家田崇「アメリカ証券流通市場における選択的情報開示および内部者取引の新規則(1)(2)」(甲南大学会計大学院)もよりSEC規則の内容について詳しい。
http://www.nucba.ac.jp/cic/pdf/njeis462/03IEDA.PDF

(筆者注12)国立国会図書館「外国の立法215(2003.2)」88頁以下から 引用した。

〔参照URL〕
SEC: http://www.sec.gov/news/press/2007/2007-28.htm
ニューヨークタイムズ:http://www.nytimes.com/2007/03/02/business/02inside.1.html?ex=1330491600&en=b8f2c508e96155e3&ei=5088&partner=rssnyt&emc=rss
ワシントンポスト:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/01/AR2007030100853.html
フィナンシャルタイムズ:
http://www.ft.com/cms/s/84f0e2ba-c81f-11db-b0dc-000b5df10621.html

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Monday, March 12, 2007

米国の株価大暴落の背景にあるインサイダー取引事件や住宅ローン・バブル等の懸念材料(その1)

2月末から3月上旬に続く世界連鎖型株価低落については、テレビ等でいわゆる国際金融アナリストが勝手な根拠の薄い論説を縷々述べている。株価自体日々または一定の周期で高騰や低落を繰り返すものであり、本来の金融アナリストは世界経済または個別国の深部のある経済・金融の問題点をより分析し、十分な予見をもって指摘するのが本来の役目であろう。(筆者注1)

3月1日に米国証券取引委員会(SEC:読み方は「エス・イー・シー」である。くれぐれも「セック」と呼ばないように。海外では誤解や恥をかく)、FBIおよびニューヨーク南部地区連邦地方検察庁当局(筆者注2)は、大規模なインサイダー取引きに関与したとしてUBS証券(UBS Securities LLC(筆者注3))の法人担当専務取締役・調査部門の幹部やベアーズ・スターンズ( Bear Starns & Co., Inc)の従業員兼ヘッジファンドの運用マネージャー、モルガン・スタンリー(Morgan Stanley & Co.,Inc)の担当弁護士夫婦2人、2人のブローカー兼ディーラー、ディ・トレーダー会社(筆者注4)、高額の違法利益を得た3ヘッジファンド等による1,500万ドル(約17億5,500円)以上に上る違法な利益を得たことを理由として14人(うちに3ヘッジファンド会社(法人)を含む)を逮捕、告訴した(筆者注5)。

これらの犯人13人は刑事責任(criminal charge)および11人の個人と3法人は民事責任(civil charge)を問われることになったが、刑事責任容疑者のうち9人は逮捕され、また主犯格以外の4人は大陪審(grand jury)において証券詐欺罪(securities fraud)、証券詐欺にかかる共謀罪(conspiracy)および収賄罪(bribery)について有罪答弁(pleaded guilty)行っている(筆者注6)。

また、SECの訴状内容は監督権にもとづき、独自に①恒久的な差止請求(permanent injunctive relief)、②判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、③民事制裁金(civil money penalties )を求めている。筆者なりに今回の監督・司法当局がとった行動の背景にある事件の特徴(多くの容疑者がヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーであり、米国の連鎖的株価低落はこれらを放置(またはいたちごっこ)している米国の証券投資制度そのものの信頼性が問われている)とコンプライアンス強化等監督規制面からの問題点についても概観する。
(筆者注7)

なお、オーストラリアの財務省政務次官であるクリス・ピアス(Chris Pearce)は3月2日に「インサイダー取引に関する立場および諮問書(案)」に関するパブリック・コメントを6月2日を期限として求めている。世界の主要国の金融監督機関は証券取引の規制強化に向けて取組んでいる中、その法規制強化に向けた具体的内容の検討は、わが国でも業界関係者や司法関係者に重大な課題を投げかけているといえる。特に「2007年問題」は米国でも同様であり、1948年から1964年の17年間に生まれた約7,800万人のベビー・ブーマーは2008年以降毎年約400万人ずつ退職期に入る。年金や医療等の社会保障制度の大半が民間に委ねられている米国では老後のための貯蓄に関心が高く、また証券会社は従来の投資サービスから資産の活用、維持等を目指すラップ口座(投資一任勘定、分離管理口座)の残高を伸ばしている。今回の事件は、このような多大な顧客の信頼を失う事件としても注目すべきであろう(筆者注8)。

今回のブログは3回に分けて、1,2回は(1)米国のインサイダー取引容疑における手口・事実関係や監督・司法当局の取組み(ヘッジ・ファンドの金融システム上の問題点等)、3回目は(2) オーストリアにおけるインサイダー取引法の規制強化(公平性、効率に向けた)、および(3) 米国の住宅ローン・バブルの懸念と金融規制・監督の強化に向けたガイドライン(案)の公表の概要等を報告する。


1.証券取引委員会等による大規模インサイダー犯罪告訴
(1)SEC等による捜査の結果判明した犯罪グループの存在
今回の非公開情報にもとづくインサイダー取引の犯罪グループは2つに大別できる。容疑者によってはこの両者に関与している。
①UBS証券関連詐欺グループ(UBS scheme):2001年以降行われたもので、8人(うち1人は日本人(31歳)である)の証券投資プロ、3つのヘッジファンド、ディ・トレーダー会社1社、2ブローカー兼デーラーによる数千の違法取引と1,400万ドルにのぼる違法利益容疑である。
②モルガン・スタンリー関連詐欺グループ(Morgan Stanley Scheme):数名の証券プロや企業買収に関する機密情報の漏洩を行った弁護士によるインサイダー取引である。60万ドルにのぼる違法利益容疑である。
主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳:大証券会社であるUSBの株式調査部門の代表権を持つ役員兼登録代理人)は、共犯者たちとニューヨークの有名な牡蠣(かき)料理店で秘密の会合を続け、そのやり取りは使い捨て携帯電話、暗号、現金リベート(cash kickbacks)というものであった。

(2)SECの訴状における各容疑者の違法行為の概要
①ミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳)UBSが保有する非公開情報を機密裡に内報、株式取引きに違法な利益を得た。
②エリック・フランクリン(Erik R. Franklin 39歳)ベアー・スターンズの従業員でありかつ、Lyford CayおよびQ Capitalのヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャー、Chelsey Capital ヘッジファンドのアナリストである。UBSおよびモルガンから非公開情報を入手、違法取引を行った。
③デビッド・タヴィ(David S. Tavdy 38歳)私設取引トレーダー(proprietary trader) (筆者注9)でありかつ登録代理人である。ディ・トレーダー会社であるジャスパー・キャピタルのトレーダーである。UBS詐欺に関与した。
④マーク・レノヴィッツ(Mark E. Lenowitz 43歳)Chelsey Capitalファンドのポートフォリオ・マネージャーでかつQ Capitalの有限責任パートナーである。UBS詐欺に関与した。
⑤ロバート・バブコック(Robert D. Babcock 33歳)サントラスト・キャピタル・マーケット社およびベアー・スターンズの登録代理人であり、またLyford Cay ヘッジファンドの共同事業者である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。
⑥アンドリュー・スレブニック(Andrew A. Srebnik 35歳)ジェフリーズ・アンドカンパニー社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。
⑦Ken Okada(岡田 謙? 31歳)キャセイ・フィナンシャル社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。
⑧デビッド・グラス(David A. Glass 32歳)Jasper CapitalのオーナーでありかつAssent LLCの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。
⑨ランディ・コラータ(Randi E. Collotta 30歳)弁護士であり、ガーデン・シティグループ社の証券運用部長である。またモルガンのグローバル法令遵守部門(global compliance department )の弁護士である。モルガンの機密情報を漏洩し違法な利益を得た。
⑩クリストファー・コラータ(Christfer K. Collotta 34歳)個人開業弁護士。妻であるランディから得た非公開情報にもとづき違法な利益を得た。
⑪マーク・ジュルマン(Marc R. Jurman 31歳)マリンズ・キャピタル LLCおよびファイナンス500社の支店の登録代理人である。モルガン詐欺に関与した。
⑫Q Capital Investment partners, LP
⑬DSJ International Resources Ltd.,
⑭Jasper capital LLC

(筆者注1)本ブログを書いている間にも、わが国のインサイダー取引事件が発覚した。3月9日に証券取引等監視委員会は総理大臣および金融庁に対し小松製作所に関する証券取引法175条7項、1項に基づく課徴金(4,378万円)納付命令勧告を行った。

(筆者注2)マイケル・ガルシア・ニューヨーク南部地区連邦地方検察庁検事(MICHAEL J. GARCIA: United States Attorney for the Southern District of New York)の記者会見ビデオ(MSNBC)は、次のURLで見れる。この記者会見で同長官は後方に今回の容疑者の関係図を示しながら説明している。関係図は残念ながらこの画面でしか見れない。なおこのビデオの前に宣伝が入るが我慢して欲しい。http://www.msnbc.msn.com/id/17401254/

(筆者注3)平成18年5月に施行されたわが国の「新会社法」では有限会社が廃止され、新たに日本版LLC(合同会社:Limited Liability Company)制度が認められた。LLCの特徴は社員(出資者)が経営に参加しながら(人的会社)、会社の債務に対する責任は出資額が限度(有限責任)である点や内部組織や定款を自由に定めることができる。合同会社に関する規定は、合同会社固有のものとしてではなく、会社法上は「持分会社」というタイトルの下で、合名会社・合資会社と共通するものとして規定された。すなわち、合名会社・合資会社・合同会社の3種の会社は、その社員が有する会社に対する割合的地位のことを「持分」とし、内部関係において組合的規律がなされる点で共通する。そこで、会社法では、それら3種の会社をまとめて「持分会社」と称し(会社法575条1項)、会社法第三編で「持分会社」という独立の編を設けて規定がなされた。つまり、合名会社、合資会社および合同会社において、共通に適用すべき規律については、同一の規定が適用される(会社法575条~675条)。それらの会社形態のうち各会社のみに適用される内容については、特則という形で会社形態が明示されて規定される。
なお、LLCに類似した経営形態にLLP(有限責任事業組合:Limited Liability Partnership)がある。LLPはLLCのように会社ではなく組合であり根拠法も「有限責任事業組合契約に関する法律」である。その最大の特徴は税金が組織に対して課されるのでなく出資者に対して課税される点である(構成員課税、出資者の事業所得との損益通算が可)

(筆者注4)被告David A. Glassはディ・トレーダー会社(Jasper Catital LLC)のオーナーである。会社の証券を1日のうちに売ったり買ったりして、目先の値ザヤ稼ぎをすることを「日計り商い」(day trading)というが、「ディ・トレーダー」とは、この日計り商いを行う投資家のことで、それら顧客向け商売にしているのが「ディ・トレーダー会社」ある。1990年代後半、アメリカではインターネットに開設された証券会社のホームページを通じて、低コストで取引をする個人投資家のディ・トレーダーが急増した。インターネットをはじめとするハイテクのおかげで、個人投資家がこの取引に参入しやすくなったが、損失を被る被害者も増加し、それが問題となっている。(スペースアルクより引用、一部変更)

(筆者注5)本事件についてワシントンポストやニューヨークタイムズ、フィナンシアルタイムズその他多くの世界のメディア(もとはAP、AFP通信等)が取り上げたのに拘らず、わが国のメディアでこの件を取り上げたのは朝日新聞(3月3日付)のみである。日頃海外情報に熱心な日本経済新聞といった専門紙はどうなったのか。

(筆者注6)これだけの大規模インサイダー事件となると裁判管轄も各州にまたがる。証券詐欺等容疑等に基づき最高25年の禁錮刑が科せられる主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Michel S.Gutteberg )は無罪を主張しニューヨーク連邦地裁で50万ドルの保釈金、弁護士のランディ・コラータ(Randi Collotta)とクリス・コラータ(Chris Collotta)は無罪を主張し25万ドルの保釈金で釈放されている。デビッド・タヴィ(David S.Tavdy )はマイアミの連邦地裁に出廷予定とされている。エリック・R フランクリン(Erik R. Franklin )やその他の容疑者はいずれも釈放されている。

(筆者注7)米国の証券ブローカー・ディーラーの資格に関する登録制度等について簡単に見ておく。主たる証券取引の責任者は取引所法および全米証券業協会(NASD)規則に従いブローカー・ディーラーを運営する知識および経験を有していることについて、全米証券業協会の条件を満たす必要があり、また、SECに登録されているブローカー・ディーラーは、原則として取引を行っている証券の販売もしくは買付のための募集を行っている各州において登録を行わなければならない。さらに、各州や地域(provincial)の監督機関は、北米証券行政協会(North American Securities Administration Association:NASAA)のもとで一元的に管理され、証券取引業を営んでいるブローカー・ディーラーの従業員が、販売代理人として登録されることを要求するとともに、証券取引所法の15条(b)項に基づき登録され米国内で事業を行うブローカー・ディーラーは、証券投資家保護公社(Securities Investor Protection Corporation:SIPC)に加盟することが要求されている。
SECは、証券関連法違反、とりわけ相場操縦、詐欺、マネー・ローンダリング、インサイダー取引、または横領を含む重大な違反がある場合には、ブローカー・ディーラーに対し、中止および停止命令または一時的ないし恒久的な差止命令の措置を取ることができる。また、SECからブローカー・ディーラーの監視権限の委託を受けている全米証券業協会(NASD)は、ブローカー・ディーラーが所定の資本要件を充足しなくなった場合や、全米証券業協会の規定に違反した場合、ブローカー・ディーラーの会員資格を取消すことができる。

(筆者注8)野村総研のレポート「変貌したアメリカのリテール証券市場(上)」(2005年11月)が参考になる。http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2005/pdf/cs20051102.pdf

(筆者注9)取引所外で私設取引を行うトレーダーとは、クライアントを拠点とするビジネスに関して働くのではなく投資銀行の自己資金(自己勘定部門の資金)を運用するトレーダーのこと。そのようなトレーダーは、さまざまな資産における市場取引きにおいて、広範囲な戦略(技術的分析手法や統計的手法を含む)を利用する。なお、最近では、私設取引システム(Proprietary Trading System またはPTS)といった取引所外の新たな取引方法の導入等により、有価証券の売買の場が拡大してきている。

〔参照URL〕
SEC: http://www.sec.gov/news/press/2007/2007-28.htm
ニューヨークタイムズ:http://www.nytimes.com/2007/03/02/business/02inside.1.html?ex=1330491600&en=b8f2c508e96155e3&ei=5088&partner=rssnyt&emc=rss
ワシントンポスト:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/01/AR2007030100853.html
フィナンシャルタイムズ:
http://www.ft.com/cms/s/84f0e2ba-c81f-11db-b0dc-000b5df10621.html

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Saturday, February 17, 2007

オーストラリアFIDOサイトの消費者金融教育の取組み(その4-大学生向け金融クイズ)の正解と解説

今回は学生向けの金融クイズの問題にチャレンジした。実際チャレンジされた向きがどの位おられたか不明であるが、正解と解説を紹介する。
 なお、FIDOサイトだけでなく、オーストラリアの金融関係サイトの消費者金融教育の目標とするところは、①計画的な金融資産管理と貯蓄の重要性の理解(エクセルを使った具体的な収支シュミレーションを提供)、②退職年金基金制度の重要性と労働者としての認識・理解向上に注力している点である(そのための税金の軽減措置や長期的投資についての選択肢情報・シュミレーションを提供している)。

【質問1】正解は④である。FIDOサイト「FIDO Budget Planner」では1週間の収支予算管理のシュミレーションができる。

【質問2】正解は③である。大学は学生課等が学生向けの低利や無利息の融資制度を設けており、その利用を勧める。

【質問3】正解は②である。トリタは6カ月以内に返済できなかった場合、1週間あたりに対し65豪ドル(約6,000円)以上という極めて高い金利負担を負うことになる。債務額元本1,700豪ドルに対し、仮に3カ月元利金の返済が遅延したとすると彼女の金利負担は約780豪ドル(約72,000円)と言う、まるでわが国の「裏金融」みたいなことになる。補足すると、いくつかの大学ではPCのリサイクル利用システムを用意し、ソフトウェアについても割引購入が可能である。

【質問4】正解は①である。オーストラリアの大学では、一般的に学生向けに1,500
豪ドル(約14万円)を上限とする無利息の緊急融資制度を有している。また、大学ではカウンセリング・サービスや職業指導課等のスタッフが新しいアルバイト先や職能技術向上のための支援を行っている。

【質問5】正解は②である。オーストリアでは暦月で税引き前で450豪ドル稼ぐ場合、アルバイトやパートタイマーの場合でも雇い主は本人に代って年金基金の一部(時間給の9%)を負担する義務が生じる。さらに補足すると、18歳以下では1週あたり30時間働く場合やそれ以下でも雇い主から老齢年金の掛け金補助を受けられる場合がある。

【質問6】正解は③である。①の携帯電話を投げ捨てるの良いアイデアであるが現実的でない。アリナはプリペイド式や利用限度つきの携帯電話に切り替えるべきである。なお、電話会社によりピーク時を外した利用の場合、無料や安価な料金の扱いがあり、これらを自分で調べてみることがお勧めである。

【質問7】正解は②である。大学の実験室といえども安全でない。インターネットバンキング等は 安全なソフトウェアをインストールしたPCを使用することが必須であり、また肩越しに暗証番号等を盗まれないよう十二分に注意すべきである。

【質問8】正解は②である。ブレントは現金を見ることはない。したがって、オンライン・ギャンブルは自分がどの程度資金を使ったかの履歴をチェックすることができない。補足すると、このようなクレジット・カード債務額は将来の本人の信用評価にマイナス影響を与える点に要注意である。

【質問9】正解は①である。年齢に拘らず民間の健康保険に加入することは良い考えである。少なくとも事故時の緊急用に必要な保障を得るための選択肢を調査しておくべきである。

【質問10】正解は③である。同金額以上の収入が得られるようになると大学の手数料負担で政府へ返済する義務が生じる。補足すると、もしあなたに余裕があれば、繰り上げ返済のための貯蓄を行うべきである。

〔参照URL〕
次のURLが質問サイトのURLである。自ら答えを入力し、「submitキー」きーをクリックするとFIDOサイトから直ちに正否のコメントが戻ってくる。
http://www.fido.asic.gov.au/fido/fidowebquestionnaires.nsf/web_9BC0B2EE773AC0FBE925724A007E8227?OpenForm&Seq=1

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オーストラリアFIDOサイトにおける消費者金融教育の取組み(その3-大学生向け金融クイズ)

 オーストラリアにおける消費者金融教育問題に絡んで、2006年10月7日にオーストラリアの証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission)の投資家向け専用サイトの金融クイズを紹介し、その正解と解説を11月3日に行った。
 最近、似非慈善事業的な投資詐欺や銀行の変額年金保険の中途解約リスク問題等金融教育をめぐる課題はますます大きくなっているように思える。しかし、わが国の実態は日本銀行や金融庁のサイトの内容を見ても決して十分とは思えないし、消費者保護の中心となる内閣府肝入りの「消費者の窓」サイトの情報不足や「国民生活センター」への苦情はいっこう減らない。
 さる1月30日にFIDOからメールが届き、その中に「大学生向け金融クイズ10問」が織り込まれていた。オーストリアでの留学や生活経験がない筆者であるが、あえてチャレンジした。正解率80%であったが、次回その正解と簡単な解説を紹介する。自信のある向きは直接チャレンジさてはいかがか。
 なお、わが国でも大学における学生向けの返済条件が弾力的な奨学金等融資制度が充実しているようである。新学期を迎え、いろいろもの入りの時期であるが安易にクレジット・カードに頼ることのないよう、両親や本人の自覚を期待したい。

質問1:新入生のあなたは大学のキャンパスの近くに引っ越そうとしています。今後の生活を考える上で、どのような費用を考えておくべきでしょうか。
①家賃や旅行費用
②食事代、電話代、光熱費等
③教科書、娯楽費、衣料費
④すべての費用が上がる

質問2:メルは技術系の学生です。彼女のクラスは3日間の短期講座として郊外学習を実施することになりましたが、その参加費用は190豪ドル(約18,000円)です。メルは教科書代に多くのお金を使ってしまい、今は余裕がありませんでした。どうすべきでしょうか。
①自分のクレジット・カード決済で支払う。
②郊外学習に参加しない。
③学生課に行って事情を説明し、大学が提供する返済方法が比較的自由な融資制度があるか照会してみる。

質問3:トリタは大学での勉強用に2,000豪ドル(約18万4千円)のデスクトップ型コンピュータ(laptop computer)を買いたいと思っている。しかし目下、預金は300ドルしかなく、彼女は大手小売店から6か月無利息で買うことに決めた。彼女のこの決定には、どのような不利な点があるでしょうか。
①不利な点はない。債務額は1,700ドル(約15万6千円)のままで済むのであり、十分な時間がある。
②もし、彼女が6か月以内に支払えなかったときは高い利息を支払うことになる。

質問4:マルコはいつも遅刻するので本屋のアルバイト(casual job)先を首になり、彼は共同住宅の家賃が払えなくなったため2人のルームメイトから怒られました。マルコはどうすべきでしょうか。
①学生課に行って自分の新しいアルバイトが見つかるまで無利息の融資制度が適用されないか相談してみる。
②自分の新しいアルバイトが見つかるまで、数週間ルームメイトから家賃を立て替えてもらう。

質問5:ジャスティンヌは19歳で大学生活を支援するため地方のピザ店で働いています。週給は約300豪ドル(約28,000円)です。彼女のボスである店長は彼女を老齢年金基金の掛け金に関する特典(any super)を認めていません。彼女は雇い主からそのような特典を得る資格があるのでしょうか。
①いいえ。彼女はそのような特典を得るための十分な収入がない。
②はい。彼女は18歳以上で1か月に450豪ドルを稼いでおり、そのような特典を得る資格がある。
③おそらく、彼女が採用されたときにどのような条件で採用合意したかによる。

質問6:アリナは携帯電話依存症(mobile phone addict)です。講堂の授業で退屈したときに友達にメールを送っています。高校生のときは両親が電話代を支払っていましたが、今度は彼女あてに請求書が来ます。どうすればよいのでしょうか。
①携帯電話の利用をやめる(電話機を投げ捨てる?)。
②ママやパパが何とか助けてくれるまで何もしないでいる。
③彼女自身が支払い可能な金額にあわせ、利用額の一定限度額付携帯またはプリペイド式の携帯電話がないか調べてみる。

質問7:マーゾックは大変機知に富む青年で大学の実験室でオンライン・バンキングやショッピングを行うことが大好きです。このような生活習慣で何か気をつけるべきですか。
①特にない。大学の実験室は安全な環境下にある。
②注意すべきです。公衆の場でオンライン取引きを行うのであり常に気を付けるべきです。

質問8:ブレントは研究の合間に行う賭け事が大好きです。そのため3つのギャンブル用口座をクレジット口座とリンクさせています。これは賢い考えといえますか。
①はい。クレジット口座と直接リックすることは自分のギャンブルの損失の管理をより簡単に行うことになります。
②いいえ。クレジット口座とリックしても損失の管理はできません。

質問9:シューモは1年以上大学に通っていますが、民間の健康保険に加入していないことに気がつきました。しかし、彼はまだ20歳です。本当に保険の保障を確保しなければならないのでしょうか。
①はい
②いいえ

質問10:オーストリアでは、多くの学生が「高等教育融資プログラム(Higher Education loan Program)」の中から自分に合ったコースを選んで返済しています。
もし、あなたの収入が一定額になったときに返済手数料の支払いを免除される「ヘルプ」の適用について、2006年・2007年予算で認められる最低年収額はいくらでしょうか。
① 27,552豪ドル(約253万円)
② 34,691豪ドル(約318万円)
③ 38,148豪ドル(約350万円)
④ 41,993豪ドル(約385万円)

〔参照URL〕
http://www.fido.asic.gov.au/fido/fidowebquestionnaires.nsf/web_9BC0B2EE773AC0FBE925724A007E8227?OpenForm

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Sunday, February 11, 2007

スイスの小児科医師会が幼児、子供のテレビやコンピュータ・スクリーンの見過ぎに警告を鳴らす

最近テレビ番組作成のやらせ問題がわが国でも問題となっている。これも今に始まったことではないが、幼児や少年期のテレビやPCの見過ぎが幼児等の精神面、感情面、精神運動面の発達等への影響を分析したスイスの小児科医師会編集による最新版の小冊子がスイスの両親向けに公表・配布された。
 スイスらしいと感じたのは、この小冊子の配布者がスイスの最大手の健康保険会社(Krankenkasse,Caise D’assurance-maladie)であるCSS Assurance が作成し、その入手のためにはある程度の個人情報を提供するインターネットでの申込を行わねばならない点である。(筆者注1)
 筆者としてはそこまでしてもと思い、今回は不本意ながらメディア情報の要旨のみ紹介する。
 また、たまたま発見したのであるが、スイスの小児科医会が編纂した平易な家族向け医療の手引き(「リアン、ケイトやその他の子供が病気になったとき:両親へのアドバイス」)はインターネットから入手可能である。この手引き は英語版があり、その内容は4編から構成、家族で読めるよう平易な解説で読みやすく作られている。(筆者注2)
なお、筆者の関心はもう1点あり、極めて複雑な「スイスの医療保険制度」であるが、これについてはスイス社会保険庁(Bundesamt für Gesundheit:BAG)のサイト情報等に基づくスイス在住の女性グループによる丁寧な解説サイトがあるので、省略する。(筆者注3)

1. 医師や教師の警告内容
(1)チューリッヒのある幼児学校の先生は何人かの2歳から4歳くらいの幼児が学校に来る前に見ていたテレビの話をするときに荒唐無稽(mind boggles)な話しをする傾向の増加が見られるが、その原因はテレビの見過ぎでありかつ多くは一人で見ている。
スイスの小児科医会は本小冊子で、14歳以下の子供は1週間に7時間から10時間以上テレビ等見せるべきでないと警告している。この警告は決して道徳的な意味をもたせているのではなく、親の関心を高めることを何よりも重視している。
(2)子供の成長と発達に関する章では、「あなた方両親は1週間当たり多くの時間をテレビやコンピュータの向かい合って過ごすことが、子供や幼児の身体的、心理面での発達の妨げになることを知っていますか」と問いかけ、さらに同医師会のニコル・ペラウド(Nicole Pellaud)は、「テレビは物事の認識、感情や精神運動性に関してそその必要性を満たしていないし、また年齢相当の他の適切な刺激を受ける機会を奪い、将来必要となったときには「テレビ」の中で見られた解決策のみに頼ることになる」と述べている。

 2.テレビ等の適度な利用
  テレビはある種の技術(skill)を会得する何かを持ってはいるが、テレビはとりわけ幼児にとって本来設計されたものではない。すなわち、そこにあるものは本物の動きや色ではないバーチャルな世界である。したがって、1日の中で極めて限定した時間に限りかつ大人が常に付き添って見るべきでものである。
スイスの10代の子供たちは平均して1日に4時間テレビを見ており、これは米国の同世代と比較して約3倍である。

3.健康や精神面への被害
  仮に①スクリーンの前で長時間過ごすこと、②その内容の2要素が結びついた場合、それらは極めて短い時間に非常に攻撃的な行動を引き起こす。「本」にはこのようなマイナス効果は見られない。
また、食物に関する章ではテレビの肥満効果について過小評価されており、テレビでは大量に生産された食物の効果のみもてはやすことそのものが国民の健康に対する本当の被害を与えるものであると述べている。

4.小冊子の内容と配布部数
 スイスでは、この健康小冊子を子供が生まれるとその両親に寄贈され、また両親は子供の健康診断時にこの小冊子を必ず提示する。そのため、助産婦や小児科医のために子供の発達記録を書き留められるよう記載欄等が設けられている。その他に一般的な子供の発達に沿った情報等が織り込まれており、スイスの両親の90%が利用しており、2005年には67,000部、2006年には89,000部が印刷されている。

(筆者注1)インターネットでの申込みはドイツ語、フランス語のいずれかのみである。
無料であり、関心のある向きはチャレンジされたい。なお、申込の手順がやや複雑なので説明しておく。①CSS Assuranceの発刊物一覧を開く→②「Carnet de santé pour l’enfant」を選択し、言語と部数を指定する→③continuerをクリック→④個人情報登録画面→⑤envoyerをクリックする。
(筆者注2)この小冊子は40頁ものであるが、絵などを多用したためか34.68MBもある。
各編の項目のみ紹介しておく。
第1編:子供にための日常医薬薬の準備
第2編:いざと言うときの観察とチェック
① 発熱、②熱病発作(febrile convulsions)、③咳、④のどの痛み、⑤耳痛、⑥発疹(Rashes)
⑦異物の飲み込み、⑧動物に咬まれた、⑨虫指され、⑩頭痛、⑪嘔吐(Vomiting)、⑫下痢、⑬胃痛、⑭ヘルニア、⑮便秘
第3編:緊急事態
① 窒息(Suffocation)、②痙攣(Convulsion)、③昏睡(Coma)、④中毒、⑤事故(やけど、感電、溺死)
第4編:0ヶ月から3ヶ月の間の赤ん坊の健康管理チェック

(筆者注3)スイスの医療健康保険制度についての解説サイトのURLを紹介する(グルエッチへの投稿記事「6.スイスの医療制度」)。なお、今回の原稿を書くにあたり始めて発見したのが、このサイト「スイス日本ライフスタイル研究会」である。国際結婚し、スイスで永年暮らす女性7人が本の執筆を機会に立ち上げ研究会である。スイスの年金制度改革や医療保険制度等、実際にスイスで生活した体験に基づくものであり、日本女性の分析力、積極性に敬服する次第である。
http://web730.gamma.ibone.ch/toshimi/index1.html

〔参照URL〕
http://194.6.181.127/eng/swissinfo.html?siteSect=105&sid=7447744

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Tuesday, January 30, 2007

欧州委員会が国際カルテル違反として日本企業に課徴金を科したその背景とEUの独禁法政策

1月24日に欧州委員会は発電所等で送電量を調整する主要システムであるガス絶縁開閉装置(Gas insulated switchgear:GIS)にかかる重電機メーカーによる国際カルテルに関与したとしてドイツのEU圏内の大手重電メーカーであるシーメンス(筆者注1)やわが国の三菱電機等合計10社に対し、総額7億50,712,500ユーロ(約1,200億円)の課徴金を科す旨発表した。このニュース自体すでに新聞等各紙で報道されている通りである。
また、これに比べ一部のマスコミにしか載らなかったようであるが、欧州裁判所の判決は1月25日に新日本製鉄、住友金属や欧州の企業計4社からの国際カルテル行為に関する上告を退けている(筆者注2)。
これらの背景にあるEU自体の独禁法運用強化、エネルギー政策、環境問題等に関する大きな動きについて、わが国のメデイアはほとんど触れていない。
本ブログでは、①国際化が進むわが国企業が真摯に取組む必要があるEUのエネルギー政策とカルテル規制の実情を正しく認識する、②日本企業に対する処分について単なる感情論ですまされない国際カルテル問題の背景にある諸問題について解説する、③今回は対象とならなかった「損害賠償請求」制度やシーメンスが予定している欧州裁判所(筆者注3)への不服申立てを提訴する場合の手続き、最後に④EU競争法の改正などへの取組課題について簡単に言及する。
 また、欧州委員会はこれら企業が16年間(1988年から2004年)公益事業会社や消費者を騙し続けてきたと指摘している(下記の通り1988年時点からの詳細な合意文書の存在をも確認している)。事実関係は、これから一層明らかにされるであろうが、一方これら企業は各国内における消費者や企業から民事的な責任を問われる損害賠償請求問題も残されており、いずれにしてもわが国の監督行政機関である経済産業省や公正取引委員会等の具体的かつ国際的な取組みを期待したい。
 なお、同委員会の競争政策担当委員ネリー・クルース(Nelie Kroes)は、2006年3月に日本を来訪しており、3月7日の日本記者クラブでの記者会見の中でわが国の独禁法改正問題に言及したほか、5.で触れるEUのガス・電気市場の機能不全問題に言及している。
と言うことは、公正取引委員会はすでにこの時点で日本企業への今回の課徴金問題について何らかの情報を得ていたということも考えられるが。(筆者注4)

1.課徴金決定の内容とLeniency Policy(制裁措置減免制度)の適用
各社別の制裁金の金額は新聞にあるとおりである。なお、本来処分の対象になるのは11社であったが、スイスABB1社は欧州委員会の調査に協力した場合に適用される「1996年Leniency Policy(寛大な措置方針)」に基づき100%制裁金(215,156,250ユーロ(約335億6,400万円))が減額された。ABBの課徴金額は、本来であればシーメンスに次ぐものである。EUの資料によると1996年以来80社以上がLeniency Policyの適用を申し出ているが、過去において100%免責を得た企業は3社のみであり、また一部減免が2社と言うことからみても、今回のABBの委員会への協力的対応が注目されよう(筆者注5)。

2.欧州委員会による査察・調査結果の内容
 同委員会によると、2004年前記ABBが提供したカルテル合意内容の詳細などの資料を抜き打ち査察により入手し、約25,000頁に亘るカルテル期間中の証拠文書を押収した。その内容は次の通りである。
(1)カルテルのメンバーであるEUのGISの大手供給業者は、少なくとも書面による合意を行った1988年から相互にGISの入札応募情報を交換し、かつメンバー各社の割当カルテル(cartel quotas)に従いメンバーのプロジェクト参加を保証すべく入札の調整を行った。その代わりとして、これらカルテル・メンバーは各自の最低入札価格に合意している。同メンバーは日本のGIS企業が欧州内でのGISの販売を行わず、一方で欧州の企業が日本国内で販売しないことにつき合意している。
欧州における入札募集において通常カルテル・ルールに従い割り当てられ、また欧州のプロジェクトに関する母国以外での入札成功は世界的な割当カルテルにおいて重要視された。このように日本企業は欧州におけるGIS市場でほとんどといってよいほど入札していないのに拘らず課徴金が科されたのは、これら自粛合意に基づきEU市場における競争が制限されことに直接寄与したことがその理由である。

(2)カルテル・メンバー企業は、経営者クラスが定期的に会合を開き戦略的な問題を論議し、またその下のレベルでは入札の対象となる計画の割当、本来の競争入札による影響を避けるため、当初から入札の成功を期待しない「偽」の入札を準備した。

(3)カルテル・メンバーは相互の通信内容の機密性を確保するため精巧な手段をとった。「コード・ネーム」が当該企業間、個人間で使用された。最近数年では通信上の匿名のメールアドレスを採用し、また送信メッセージの内容は暗号化した。1カルテル・メンバーから他のメンバーに送信する際、自宅のPCや簡単にこれらのPCにリンクがはれるいかなるコンピュータへのアクセスは厳禁された。また企業内のコンピュータからいかなる「匿名メールボックス」に宛てたメールの発信もカルテル間のネットワーク全体をリスクにさらすという理由から禁止された。

3.課徴金の根拠法と金額決定に至った経緯
上記の行為は、独禁行為にかかる「EC条約(EC Treaty)」81条に基づく極めて重大な違反行為である。課徴金額は関与したカルテル企業のEEA(欧州経済地域)での製造面の規模、カルテルの継続期間(16年間)等を考慮した。委員会はシーメンス(独)、アルストム(仏)、アレヴァ(Areva:仏)の3社はカルテルの機密性においてリーダーシップを取った点を考慮し課徴金額を50%まで増額した。スイスのABBも繰り返し違反行為を行ったとして50%増額を行ったが、前記の通り100%免責を得ている。
 委員会は、違法な行為を行ったすべての法人に対し責任を問う決定を行った。既存の判例法に則して仮にグループ内の親会社が商業的な活動において子会社の決定的な影響を与える行為を実行したときは、その両社を経済的な同一事業体とみなす。

4.カルテル企業に対する民事責任を問う損害賠償請求
 本件において記載した非競争的な企業活動により被害を被ったとされる個人や企業は加盟国内の裁判所に持ち込み損害賠償請求が可能であり、その場合公表された委員会決定は参加した事実やそれが違法なものであることの証拠として提出される。委員会の課徴金がカルテル企業に科されたとしても、この民事請求に関しては賠償額の減額の要素とはなりえない。これらの点に関しては「民事損害賠償請求に関するグリーン・ペーパー」に明記されている。

5.EUにおける「EU競争法」の改正および「EU競争総局」の権限強化に基づく「エネルギー分野における競争問題の調査結果」報告書
 以上が、欧州委員会の資料に基づく公表内容の概要である。しかし、EU市場への進出を目指すわが国企業にとって留意すべき点はEU競争法の強化である。
2004年5月1日にEUは法執行権の強化と分権化を柱とする「EU競争法」の大改正を行った。この点については高澤美有紀氏が国立国会図書館「レファレンス2005年5月号」で詳細に解説されており、参照されたい。
また、1月10日に公表された報告書については要旨のみ紹介するに留める。
なお、筆者はEU競争法の専門家でもないので誤解もあると思われるが、要は今EUで起きている問題は明日の日本の問題である点を理解して欲しいという点である。

(1)欧州委員会のエネルギー分野の競争実態調査の目的
EU競争総局(Competition )のサイトを読むと、2006年後半以降の動きが活発になっており、予告どおり本年1月10日に欧州委員会は「OUNCIL REGULATION (EC) No 1/2003 of 16 December 2002 on the implementation of the rules on competition laid down in Articles 81 and 82 of the Treaty」(筆者注6)第17条に基づく「EUのガスおよび電気部門に関する調査報告」を採択した。その詳細まで述べる時間がないので報告書やFAQに関するURLのみ(2)に記しておく。
筆者の意見では、今回のカルテル処分とこの報告書の採択とはまったく無関係とは思えない。マイクロソフト社問題は「EC条約(ローマ条約、1958年発効)」の第82条違反であるが、一連のこのような複数の海外の企業にまで課徴金を科すというからには、EU委員会がエネルギー問題に力を入れかつ環境問題を重要視している点を見逃してはならない。
 ここでは、委員会競争政策総局のプレスリリースにおける冒頭部分のみ紹介する。
「本報告において、委員会は消費者および民間企業が非効率かつ高すぎるガスや電気の市場により失う損失が極めて大であるとの結論に至った。特に、際立った点は①供給、産出やインフラにおける垂直統合の結果、平等なアクセス機会の欠如、インフラへ投資の不十分さをもたらす高度な市場の集中化であり、また②現職の運営担当者が相互に市場を分け合うといった談合(collusion)の可能性である。これらの問題に取組むため、本委員会は 独禁法、合併規制や国家による利支援と言った競争規則の下で個々の事案におけるフォローアップ活動を継続する。また、エネルギーの自由化をめぐる規制の枠組みの改善を図る。委員会は、すでに一部の事案については該当企業への捜査令状を得べく企業への調査を行っている。

(2)欧州委員会の「最終報告書」等のURL
①競争政策総局の最終報告書の発表:
http://ec.europa.eu/comm/competition/antitrust/others/sector_inquiries/energy/
②最終報告書:
http://ec.europa.eu/comm/competition/antitrust/others/sector_inquiries/energy/final_report.pdf
③最終報告書に関するFAQ:
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/07/15&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

(筆者注1)1月24日にシ-メンス社は次のとおり欧州委員会の課徴金処分に対し、真っ向から反論し、「シーメンス社は明確かつ拘束力を持つ倫理的かつ法的な行動規範を有しており、すでに内部調査にもとづき関与されたとされる3人の従業員を停職処分に付している。このような欧州委員会の処分に対し欧州裁判所に提訴する」旨のコメント内容を発表している。なお、余談であるが同社の英文リリースの中で「and」をドイツ語である「und」のまま使用している。かなりあわてたのか。
(筆者注2)判決文原文を確認したい方は、下線部分をクリックすると1月25日の判決一覧が出るので、さらにケース番号(C-403/04 PおよびC-405/04 P)を指定して検索していただきたい。また、解説記事が駐日欧州委員会代表サイトで見れる。
(筆者注3)EUの競争法に関する司法機関の手続きの流れで見ると、シーメンスはまず「欧州第一審裁判所(Court of First Instance)」に訴えを起こすはずであり、念のためシーメンスのサイトで確認したが、やはり「欧州裁判所(Court of Justice of the European Communities)」対し法的手段をとると明記されていた。
(筆者注4)言い訳になるが、筆者が「駐日欧州委員会代表部」の週刊ニュースを読み始めた時期が2006年3月でクルース女史の会見記事もフィルにも確かに残っていた。要注意である。
ところで、今月25日に欧州委員会は継ぎ目なし鋼管カルテル4社に関する欧州裁判所の判決(うち日本企業2社)を歓迎する旨発表している。代表部のこの2年間のトピックスを見てみたがこの種の記事はほとんどなかった。要するにEUの競争原理への取組みに関する世界戦略が変わった見るべきであろう。
(筆者注5)
ABBのサイトを見てみたが、今回の事案についてのコメントらしきものは見当たらなかった。
EUのメディアでは内部通報(whistle-blower )と言う用語を使っているところもあったが、個別企業として欧州委員会対策を意図した何かがあったのかこれ以上の詮索はできない。
(筆者注6)ここで言うTreatyとは「EC条約(ローマ条約、1957年3月25日署名、1958年1 月1日発効)」である。同条約は全314条に亘る大部な条約であるが、第6編第1章「競争に関する規則」第1節「企業活動への適用ルール」の中に第81条、第82条がある。

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Saturday, January 13, 2007

EU加盟国や米国等で急増するスパム被害と規制立法や業界自主規制の状況(前編その1)

スパム問題は、単なる「迷惑なメール」(筆者注1)問題ではすまない経済的損失、企業のセキュリティの脆弱性への脅威および個人のプラバシーの著しい侵害行為として、その違法性が大きな社会問題と感じているのは筆者だけではあるまい。
また、スパムメール問題はマーケティング活動と裏腹の問題でもあり、規制立法のみでなく業界の自主規制による対策の限界も見えてきたといえる。さらに、各国の法規制の例外規定による不整合さもうかがえるし、技術的な対策の限界も指摘されている。
 今回のブログではこれらの点を概観しながら、スパムに関する社会的・経済的な損失を危惧しかつ新たな詐欺問題に取組んでいるEU加盟国や米国の現状を紹介する。
 わが国ではスパムに対する法規制として、(1)送信事業者に対する「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(筆者注2)、(2)販売事業者に対する「特定商取引に関する法律」(筆者注3)があり、それぞれ新たな違法行為に即して法改正が行われているが、その一方で特定商取引法施行規則により義務づけられている表示の効果や罰則についての効果を疑問視する声が多い。この点は、個人情報保護法(プライバシー保護法)の規定を明確な根拠にしてスパムの法規制を行っているフランスの取組等が法規制の在り方を議論するうえで参考になろう。
 また景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年五月十五日法律第百三十四号))に関し、公正取引委員会が平成14年6月5日付けで「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」 を公表しており、これもわが国のスパム対策法規制といえる。
わが国の関係者が懸念するとおり、インターネット先進国ほど議会、司法・法執行関係者、関係省庁間で危機感をもって取組む重要課題となっている点を改めて紹介し、今後一層混乱するであろうスパム対策において効果を上げるべく施策の導入と消費者の問題認識の向上に注目したい。
 なお、本テーマについては当初2回くらいでまとめるつもりであったが、EUの主要国をまとめるとなるとさらにブログへの登載が遅れるため、前編の2回分に引続き、ドイツ、スェーデン、ノルウェイ、英国、米国の取組の現状およびわが国の取組むべき課題については、後編で述べることとした。

1.EUにおけるEmailマーケティングに対するアンチ・スパム法規制
(1)2002年7月のEU指令
EU議会および理事会はスパム等規制に関し、2002年7月12日に「個人情報の処理および電子通信部門におけるプライバシー保護に関する指令(Directive 2002/58/EC)」 (筆者注4)を採択している(施行日は2002年7月30日)。
同指令の主な内容について簡単に紹介するが、同指令に基づき加盟国は各国の国内法の立法をもって実際的な機能を果たすものであり、「指令」と言う加盟国共通の基準が作成されたに過ぎない。各国の国内法化の期限(deadline)は2003年10月31日であった。しかし、加盟国の法整備は大幅に遅れており、以下述べるとおり、法規制の在り方も国により異なるのが実態である。
(2)2006年3月の改正EU指令
 EU議会および理事会は、2006年3月15日に「公的に利用可能な電子通信サービスまたは公共の通信網サービスに関する規定におけるデータの発生または処理したデータの保持に関する指令(Directive /24/EC)」 を採択した。本指令は、データの保持に関し電子通信サービス・プロバイダーに課せられている現行の義務に関し、加盟国間の調和を図ることを求めている。その目的は、違法行為の調査、検出および起訴におけるデータの有用性を確実にすることである。このため同指令は、①保持されるべきデータのカテゴリー、②データ内容の品質保持(the shelf-life)、③保持すべきデータの格納要件、④データの機密保護に関し遵守すべき諸原則からなる。本指令の遵守期限は2007年9月15日である。

2.EU加盟国等におけるEmailマーケティングに対するスパム法規制の現状
EU加盟国ほか欧州に位置する各国別のスパム規制立法の状況について関心が高い割には一覧性を持ったデータは意外と少ない。EUのSPAM専門公式サイトである「EuroCAUSE」 でも意外に情報が古い。筆者もこだわって調べた結果、OECDの「スパム対策諮問委員会(Spam Task Force)」 の情報が最も新しくまた簡単な解説がなされており、本ブログでも引用した(筆者注5)。なお、筆者の個人的判断で取り上げる国を限定した。

(1)オーストリア
「2003年電気通信法(Telekommunikationsgesetz 2003 : TKG 2003)」 の107条(Unerbetene Nachrichten)および109条(罰則規定)がスパム関連規制に関する規定である。
【107条】1項:テレマーケティング(ファクシミリを含む)目的の通信について、事前に受信者の同意を要すると定めている。この同意は何時でも撤回可能である。
同条2項:ダイレクト・マーケティング目的を有し、かつ送信先が50先以上である場合において、事前の同意のないマーケティング目的の電子メール(SMSを含み。「消費者保護法1条1項2号」(筆者注6)に定義がなされている」)の送信を禁止する。
同条3項:次の「同意不要」の例外規定を定めている。
①送信者が、その顧客から販売やサービスに関する通信上の詳細な連絡方法について受取済である場合。
②通信が送信者における同様の製品やサービスに関するダイレクト・マーケティング目的である場合。
③顧客に対し、明確かつ明らかな方法で無料、簡単な方法により意義申立てを行うかまたは自ら保持する電子的契約の細目を適用できる機会が与えられている場合。
【109条】108条に違反した場合は3項19号から21号により37,000ユーロ(約574万円)以下の行政罰(Verwaltungsstrafbestimmungen)が科される。

(2)ベルギー
ベルギーは、EU指令に基づきEU加盟国で初めてスパム規制法を制定した国である。すなわち、受信者たる消費者が特に「オプト・イン」を選択している場合を除き、あらかじめ受信者の同意のない商業メールの送信を禁止した。受信者からの同意を得る前に商業電子メールの「subject lineの冒頭」に広告の略語である「AD」表示が義務付けられ、また接続時に受信拒否に関する有効な情報の提供も義務付けられる。
「2003年情報社会のサービスにおける司法特別法(Loi sur certaines aspects juridiques des services de la société de l’information)」 の14条および26条(刑事罰規定)がスパム関連規定である。
【14条】1項:広く広告する目的の電子メール(courrier électroniaue)の使用は、当該メッセージの名宛人による自由、特定されかつ関連する情報が提供されたうえでの事前の同意がない限り禁止される。
 前節に関し、国王(le Roi)は権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、禁止の例外とする場合をあらかじめ定めることができる。
同条2項:電子メールによるすべての広告の送信時に送信者は次のことを行わなければならない。
①広告受信後における明確かつ包括的な申込みの撤回権(droit de s’opposer)に関する情報の提供 。
②電子的手段による当該権利の効果的な遂行のための適切な方法について規定上の手筈の指定かつ明示。
権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、国王は発信者に対し受信者がさらに電子メールによる広告の受信しない旨の意思を尊重するための方法を決定する。
同条3項:電子メールによる広告の送信時には次のことが禁止される。
①第三者の電子メールアドレスまたは識別情報の使用。
②電子メールの通信内容の原本性や通信過程の確認を可能とさせるすべての情報の偽造または隠蔽。
同条4項:電子メールによる広告を求める文字による証拠保全義務は発信者が負う。
【26条】3項:14条の規定に違反して広告電子メールを送信した者は、250ユーロ(約39,000円)から25,000ユーロ(約390万円)の罰金に処する。

(3)デンマーク
A.デンマークでは「2000年市場活動の適正化実施法(The Marketing Practices Act:Lov om markedsføring)」(筆者注7)の6条および30条(罰則規定)がスパム関連規定である。なお、同国の消費者保護オンブズマン(forbrug dk)のホームページ にはスパム規制に関するボックス(@)があり、問題意識の高さがうかがえる。
【6条】1項:業者は関係する消費者がそのような要求を行った場合を除き、電子メール、自動的架電・ファクシミリシステムにより商品、不動産その他の商品、ならびに労働やサービスの販売を売り込んではならない。
同条2項:(事前同意の例外規定)前記オーストリア法107条3項とほぼ同内容のため略す。
同条3項:取扱事業者は、1項に関し次に掲げる場合に、販売目的をもって1項に定める以外の間接的通信手段を用いて特定の自然人に働きかけを行ってはならない。
①関係する受け手が事業者からの通信を拒否している場合。
②四半期ごとに更新される市民登録中央局(CPR-Kontoret)(筆者注8)が作成するリストについて関係者がマーケティング目的の利用を拒否した場合。
③事業者が中央局との相談時において、関係者がそのような通信の受信について拒否することを予め認識していた場合。
電話によるマーケティングについても、「特定の消費者の同意に関する法律(Lov om visse forbrugeraftaler)」に定める要求されない通信に関する定めに従う。
同条4項:3項は問題となる個人が予め事業者からの通信を要求していた場合は適用しない。
以下略す。
【30条】3項:3条1項から3項、4条から6条、8条2項(中略)の規定に違反した行為に対しては他の法令によりさらに重い罰金刑の定めがない限り罰金に処する。
B.最近のデンマークのスパム有罪判決例
 forbrugのサイトでは、消費者保護に関する具体的な裁判例が紹介されている。その中でスパムに関するものを紹介する。
① 2005年10月31判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:10,000デンマーク・クローネ(約20万5,200円)
〔事案の概要〕IT企業であるN社が約100通の迷惑広告メールを拡散的に送信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、起訴に持ち込んだものである。
② 2006年4月7日判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:40,000デンマーク・クローネ(約82万円)
〔事案の概要〕2004年にワイン業者P社が約100通の迷惑広告メールを発信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、警察に持ち込んだものである。この事案では950通のメールが発信されたとされたが、これはデータベースのリンクの誤りであると被告会社は説明した。しかし、受信者がオプトアウトした後も受信したとの苦情が出ていた。

(筆者注1)UBE(Unsolicited Bulk Email) もしくは UCE(Unsolicited Comercial Email(下線部はIPAのスペル・ミステイクである:筆者) Email)は、宣伝や嫌がらせなどの目的で不特定多数に大量に送信されるメールであり、俗にspam メールと呼ばれている。特に嫌がらせの場合には、その送信元を隠蔽する目的で、送信元を詐称したり、第三者中継を利用することが多い。また、送信先をロボットで収集したり売買されているアドレスリストを使用するほか、ツールで生成したアドレスを用いるなど、実存するアドレスかどうかを確認せずに送り付けることも多い(独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) サイトより引用)。また、経済産業省や総務省の解説パンフレット もspamを「電子メールによる一方的な商業広告(いわゆる迷惑メール)」としている。
ところが、法的ならびに技術的にみてこれらspamの定義はあまり正確とは言えない。ちなみに最近スパム等の専門家である高崎真哉氏の「迷惑なメール」 と言うカテゴリー分類を読んで目のうろこが落ちた気がした。スパムは頓珍漢な(とても顧客のニーズに即したマーケティング情報に基づくものとは思えない、ただフリーランス・アルバイター等が顧客リストや電話帳などをもとに電話をかけまくっているだけで、同一の代理業者から同一内容の電話が1日に何回もかかってくる。スパムよりさらに「迷惑」である。)電話セールス以上に社会的影響が大きい問題である。高崎氏の分類は、(1)大分類(①迷惑なメール、②ゴミメール(自嘲メール))、(2)中分類(迷惑なメール)(①嫌がらせメール(ストーカーや悪戯メール)、②ジャンクメール)、(3)小分類(ジャンクメール)(①ウイルスメール、②チェーンメール、③スパムメール)、さらに(4)スパムメール(迷惑メール:Unsolicitated Bulk Email:UBE)は①一方的広告メール(Unsolicitated Commercial Email:UCE)、②不特定向詐欺spam(内容は詐欺情報)に分類されている。同氏の指摘はこの中の(4)スパムメールを狭義の「スパム」として論じている。「スパム」の国際的に見た法的な定義は現状必ずしも明確でないが、ドイツの法律事務所のサイト で述べられている次のような定義が参考になろう。
①広告的な内容を持つこと(慈善目的の非商業目的の電子メールについては認められうる場合があり議論の余地がある)。
②受信者が欲していないこと:受信者(Empfänger)により事前の明確な要求が存在しないこと。
③あらかじめ送信者と受信者間で、例えば広告宣伝用emailニュースの申込等の商業取引契約関係がないこと。

(筆者注2)同法(平成14年4月17日法律第26号)は、これまで3回改正されており、最新の改正は平成17年7月26日第27号(平成18年5月1日施行)である。

(筆者注3)同法(昭和51年6月4日法律第57号)は、旧「訪問販売等に関する法律」の改正法である、これまで9回改正されている。同法の対象となる取引類型は、①訪問販売、②通信販売、③電話勧誘販売、④連鎖販売取引、⑤特定継続的役務提供、⑥業務提供誘引販売取引、である(平成14年4月28日に「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律」が成立し、①悪質な訪問販売等に関する規制強化および一定の場合に契約の取消やクーリング・オフ等民事ルールの整備、②連鎖販売取引等に関する返品・返金ルールや誤認による契約取消等・クレジット支払の拒否、③誇大広告・勧誘事業者に対する資料の提出など法執行手続が整備された)。
両法律は平成14年に改正され、同年7月1日に施行された。その内容は、通信販売事業者による電子メールによる消費者(受信者)からの請求に基づかない(Unsolicitated)広告の送信時における「表示義務」の内容(①メールの件名欄の冒頭に「未承諾広告※」の表示、②メール本文の最前部に企業者(送信者)の氏名・名称および受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスの表示、③任意の場所に送信者の住所および電話番号の表示)が追加された。アダルトサイト等は「受信拒否」を行うとかえって受信の事実が分ってしまうため、情報提供先である「日本データ通信協会」や「日本産業協会」のへの情報提供時に注意するよう警告が行われている。

(筆者注4)同指令の日本語訳文は「インターネットプライバシー研究所(代表 高木 寛氏)」サイト を参照されたい。

(筆者注5)OECDのスパム対策諮問委員会は、2005年3月に開催した会合で議論した文書「スパムの法執行の在り方に関する報告書」 を 4月23日に完成し、OECDの「消費者政策委員会(CCP)」および「情報コンピュータ通信政策委員会(ICCP)」に機密解除(declassfication)勧告を行っている。同報告書は越境におけるスパムに対する法執行の在り方が中心であるが、加盟国の国別公的機関の取組み方について3つに分類している。(1)消費者保護機関(日本では公正取引委員会と経済産業省が取り上げられている、欧米ではオンブズマンが一般的)、(2)個人情報保護機関(日本は該当機関なし、欧米では個人情報保護委員会またはオンブズマンが一般的)、(3)通信規制機関(日本では総務省、欧米では通信委員会や監督機関が一般的)である。国際化するスパム問題を論じるうえで、参考となる報告書であろう。

(筆者注6)同法(1979年KSchG)第1編(企業と消費者間の契約に関する特別規定)第Ⅰ編(適用範囲)の1条1項1号および2号 において「本編に定める法的な取引における「取引」は、一方で事業を行う個人企業家(Unternehmer)を含み、他方「消費者(Verbraucher)」個人には適用しない」と定めている。

(筆者注7)同法は2005年12月21日付で改正され(ACT No.1389 of December 2005)、2007年1月1日に施行された。

(筆者注8)デンマークの市民登録制度は内務省登録中央局が管理している。なお、根拠法は
「Act No. 426 of 31 May 2000 on the Civil Registration System (Lov om Det Centrale Personregister)である。


〔参照URL〕
http://silicon.fr/fr/silicon/news/2006/12/28/france-93-mails-spams

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ルクセンブルグ大公国の金融機関における法令遵守課題への取組に関する影響度調査結果

ルクセンブルグ銀行協会は、監査法人トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)の協力の下に標記調査を行い、2006年12月5日にその内容を公表した。詳細編と要約編とで構成されているが、今回のブログでは要約編を元に紹介する。なお、関心のある向きは詳細編(28頁)を参考とされたい。
これらのテーマについては、わが国の業界新聞等でも随時取り上げられているが、人口は約465,000人という極めて小国ながら、一方で極めて豊かな国であるルクセンブルグ(Grand Duchy of Luxemburg)(筆者注1)の金融機関がこれらの遵守項目について過去および今後3年間どのように点に重点を置きながら取組んでいるか、また膨大なIT投資や法令遵守にかかる費用の評価等、国際化するわが国の金融機関の今後を見据えた経営面の研究材料として参考になるものと判断し、取り上げた。
 なお、今回の調査対象項目として、例えば「バーゼルⅡとEU資本要求指令(the Capital Requirements Directive:CRD) 」(筆者注2)、「EU投資信託指令Ⅲ(Undertaking for Collective Investment in Transferable Securities :UCITS Ⅲ)」(筆者注3)、「貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(Council Directive 2003/48/EC )」(筆者注4)、および「金融商品市場指令(MiFID)」(筆者注5)等といったEU加盟国固有の課題が含まれている。EU加盟国の金融機関が取組んでいるこれらの課題についての概観・改正経緯・関連法令を理解するには「EurActive .com」サイトの「financial services」が良く整理されているので関心のある向きは併せて参照されたい(わが国では一覧性をもってこのレベルに達している資料はない)。

1.調査目的
過去3年以上にわたり、ルクセンブルグの金融部門はその堅確性の強化を目的とした新たな規制強化のうねりを経験した。銀行等信用機関や金融部門の専門家はこれらの新たな法令遵守要求に対し、①組織的な対応、②IT技術力等の強化、③資源や投資の結集を行わねばならなかった。したがって、金融機関はこれらの規制強化要求に対する率先性を優先し、また要員の新規採用、新手続き、新システムといった繰り返されるコスト負担を負った。
本調査は、これらの金融機関における法令遵守にかかる全体的な影響度を測定することにある。

2.調査対象金融機関および個人
2006年3月時点でルクセンブルグに拠点を有する153金融機関およびその他金融専門家を対象に調査を行い、うち37機関等(30機関はルクセンブルグ銀行協会会員銀行、その他の金融機関の従業員の10%に当る7名)から回答を得た。個人の意見も十分に配慮するとともに、匿名の調査を確保、調査対象金融機関の規模、業務の種類、本拠地国について区分を行った。

3.調査対象項目
 本調査では以下の8項目に限定した。
(1)マネーローンダリングとの戦い(Anti-Money Laundering:AML)
(2)適正資本(バーゼルⅡとEU資本要求指令)
(3)EU投資信託指令Ⅲ
(4)貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(UCITS Ⅲ)
(5)法令遵守機能の適用(The ≪Compliance≫Function Implementation)
(6)企業改革法(Sarbanes Oxley Act:Sox)
(7)新国際会計基準(IAS/IFRS)(筆者注6)
(8)金融商品市場指令(MiFID)(筆者注7)

4.本報告の構成
第一部:銀行における高いレベルの取組内容を調査した。
第二部:前記3.の各項目について金融機関の貢献度について調査した。
第三部:遵守内容について、金融市場たるルクセンブルグの今後について予測される法令遵守による影響とともにその経費負担について回答者から意見を集約するという質的な分析調査を行った。

5.調査に基づく分析結果
(1)過去3年および今後3年間の投資額
1機関あたりの過去3年間の平均投資額は、440万ユーロ(約6億8,200万円)でうち人事採用投資額はその約10%の47万1,000ユーロ(約7,300万円)である。さらに今後3年間に要する費用は過去3年間分の約半分にあたる201万5,000ユーロ(約3億1,200万円)と予想している。
(2)法規制に関する優先課題は次の降順である。
①AML対策
②法令遵守機能の適用(高度な知識と実行力を持った役職員教育等)
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
回答者の60%はこれらにかかる費用は地方予算でまかなうとしている。
(3)法令遵守で最も経費がかかるのは次のものとしている。
①新会計基準対応
②バーゼルⅡ対応
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
(4)非技術的な計画(UCITSⅢおよび法令遵守機能の適用)
構造的な対応課題として毎年度負担すべき経費であり、金融機関に高いレベルの影響を与える。
(5)AML対策は中規模金融機関にとって極めて重い費用負担となっている。
(6)AMLとそれに対する消費者の理解は、消極的なイメージを誘発するがゆえに最も銀行がその強化に取組んでいる。
(7)バーゼルⅡ対応は、ルクセンブルグの上位10金融機関が頻繁に投資を行っている。
(8)法規制の遵守のためには専門要員の増加が必要となり、3年前に比べ87%増となっている(法令遵守専門要員として1行平均4名の正職員の追加)。
(9)MiFD対応は、銀行の遵守計画のうち現在・今後で最も注目すべき課題である。
(10)ルクセンブルグにおける現在の法規制・監督に対する見方
①3分の2の銀行は金融センターとして同国は他のEU加盟国と比べ、過剰規制に陥っていないと見ている。しかし、回答者の63%はEU以外の国と比べ規制が厳しいと見ている。
②同国は、アイルランドやスイスに比べ金融機関にとって不利益さはないと見ている。
③大銀行は、規制強化計画はビジネスの開発に活用可能と見ている。
④68%の銀行が、AMLが最も規制に関してコストをかけるべきと考えている。
⑤3分の2の銀行が、銀行の機密保持(bank secrecy)は、最も厳格な法規制に関し両立しがたいと見ている。
(11)今後の法規制の在り方
①全回答者が法規制に関する要求に対応する費用は、今後3年以上増加すると見ている。
②62%の銀行がこれ以上の法規制は不要と見ている。
③法規制についてEU加盟国との協調については、87%、EU以外の国とは67%が必要と見ている。
③回答者の88%は、規制強化の影響は金融部門の集中化が今後進むと見ている。
④61%の銀行は、ルクセンブルグで提供されるべき金融商品やサービスは特にプライベート・バンキング分野で発展すべきであろうと見ている。

(筆者注1)ルクセンブルグの2005年の1人当たり国内総生産(GDP名目)は80,288米ドル(約924万円)で依然世界第1位である。また2006年3月の失業率はやや高くなっているが4.8%(EU加盟国平均が8.1%)である。ちなみに、米国CIAの2003年調査によるとわが国のGDPは世界第15位(34,510米ドル:約397万円)である。

(筆者注2)EU資本要求指令(the Capital Requirements Directive)は、2006年6月14日に採択されたもので、2007年1月1日施行、全面施行は2008年とされている。この指令の採択の背景には2004年6月に採択された「Basel Ⅱ」があることは言うまでもない。これを受けて欧州委員会は2004年7月に域内の全銀行、信用機関(credit institution:CI)、投資会社を対象とする「新資本要求指令」案を策定していた。本指令の特徴は、①リスク問題により機敏な内容になっており、金融機関は3つの対応レベルを選択できることとなっている。②小規模銀行や小規模金融会社のコスト負担に配慮するためEUは他地域と異なり実施を遅れさせる、③破綻リスクに関するモラルハザードの懸念に関しては、保険会社が中央銀行により最終的に保護されるの対し、保険会社や銀行に部分的に転嫁させうるとするものである。
なお、EUの金融監督規制に新体制に係る指令は本指令と「信用機関における新ビジネスの採用と事業の継続に関する指令(Directive 2006/48/EC) 」 (2006年6月14日付)である。後者は加盟国における異なる法律による障害を排除することで信用機関の域内における自由な設立やサービスの提供を可能とすることを目的とするものである。

(筆者注3) EU投資信託指令Ⅲは、正式には2001年1月22日に採択され、2004年2月施行の「Directive 2001/107/EC」(Official Journal L 041 13/02/2002) である。本指令(最初のUCITSは1985年)の目的は、越境的投資信託(across border collective investment fund )による信託規模の拡大並びにEU全体としての投資の潜在能力の最大化を図るとするものである。

(筆者注4)本指令はEUの住民が越境による貯蓄収入を得た場合、脱税を阻止する目的で加盟国間に自動的にその情報交換を行う法律制度の導入を義務付けるものである。2005年7月1日施行されることになっていたが、当初から対応できなかったEU加盟3カ国(オーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ)については開始から情報交換に代る措置として「源泉徴収」を適用する。
また、英国とオランダの属領(dependent territories)や関連領(associated territories)並びに特定のEU外の第三国については情報交換または源泉徴収を課すことになっている。
なお、英国の例で見ると「2003年財政法(2003 finance Act)」において、財務省に海外居住者に関する情報収集に関する規則等の制定権を定めている。
http://www.hmrc.gov.uk/esd/paper-11-final.htm

(筆者注5)「the Market in Financial Instrument Directive :MiFID」は、2004年4月に採択された(2004/39/EC)。本指令は1993年に採択された「投資サービス指令(Investment Service Directive :ISD)」に代るものとして採択されたが、その目的は①投資家がEU域内において一層容易に越境投資を行えるようにする、②証券会社がEU域内の単一免許を得る際の障害を除去する、③EUにおける証券取引所間の競争を促進し取引き分野を拡大する、④EU全域における投資家・サービスの利用者の適切な保護等である(詳細は日本証券経済研究所大橋 善晃氏「EU の「金融商品市場指令(MiFID)」と最良執行義務」 を参照されたい。)。なお、当初EUは2006年4月30日までに国内法化を求めていたが、実施細則案の公表が遅れたことなどからEUは2006年4月27に修正指令(2006/31/EC) を発出し、前記期限を2007年11月1日に延長している。

(筆者注6)国際会計基準(IAS)および国際財務報告基準(IFRS)を巡るわが国の金融監督・司法機関、経済・金融団体等の意見・対応は監査法人、研究者等から多くの報告がなされており、それぞれ参照されたい(しかしながら、長期間にわたりかつ国家間の多くの調整がなされてきた問題だけに全体的な動行を鳥瞰できる資料がないのが素人の筆者としては気にかかる)。

(筆者注7)EUのCESRは2006年12月15日付けで「The Passport under MiFID」と題するパブリック・コンサルティング・ペーパーを発している。その内容は、①MiFID3章「投資会社の権利」31条(投資サービス・活動に関する自由性)、32条(支店の設置) に関する通知手続き、②越境投資活動に関する効率的かつ継続的な監督を保証するのに必要な母国および受入国間の今後の協調についての共通的な取組についてである(前記筆者注5で紹介した大橋氏の論文ではMiFIDの31条は「実施期限」、32条は「指令の宛先」なっているが、これは誤りではないか)。意見の提出期限は2007年1月31日である。

〔参照URL〕
http://www.abbl.lu/informations/actualites/

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Saturday, November 18, 2006

ドイツにおける電子マネー(e-money card)の多機能化に向けた最新動向

ドイツの金融界全体の取組みとして「GeldKarte.de」がICカードによるプリペイド電子マネー(筆者注1)の本格的な導入計画が稼動し始めたのは、1996年4月であった。民間金融機関からなるドイツ銀行協会(Bundesverband deutscher Banken;BdB)、非営利金融機関である信用協同組合連合会(Bundesverband der Deutschen Volksbanken und Raiffeisenbanken;BvR)、ドイツ連邦公営銀行協会(Bundesverbandes Öffentlicher Banken Deutschlands;VöB)(筆者注2)の3団体に属する約3,800の金融機関と郵政事業(Deutsche Postamtamt)の金融事業体である郵政事業会社(Deutsche Postbank AG)が、官民金融機関の約52,000支店とポスト・バンクの約17,000の郵便局窓口のほとんどが電子マネーの取扱いを始めた。当時、わが国から多くの視察団がドイツを訪問し各種報告書が公表されたが、最近はあまり見かけない。どちらかと言うと英国の地下鉄カード(Oyster card)のe-money拡大計画の挫折といった失敗が目につく(筆者注3)。
一方、わが国のプリペイド式電子マネー・カードについてもsuicaの利用範囲拡大や銀行との提携による決済カード機能強化が図られているが、単一カードによる多機能性については、なお各関係業界の思惑もあり、難問が控えている。最近、筆者が気になっている点は家電量販店等のレジに並ぶ端末の多さである。このような現象は決して消費者や販売店の歓迎することではなかろう。
今回は、ドイツのプリペイド式電子マネーの現状を紹介するが、約6,400万枚(筆者注4)のGeldKarteが発行され、ドイツの全銀行が発行するカード枚数の70%を超えたものとされている。また、多機能性だけでなく、未成年者の年齢登録によるタバコ自販機での販売規制といった工夫も見られる。その他、セキュリテイ面の配慮を含め、ICカードの多機能性に着目した新規サービス拡大が目立つ。
なお、欧州中央銀行(ECB)が2000年のデータをもとに非現金手段による決済方法に占める電子マネー・カードの利用件数割合を作成した比較表を見ると、ベルギー、ルクセンブルグ、デンマークなどが3%から5%程度であり、そのほかの国はまだまだこれからといった感じがするが、割合の高い手段は国内外の送金(credit transfer)、口座振替(direct debit)や小切手(cheques)等比較的大口の決済方法であり、クレジットカードやデビットカードと並ぶ第三の小口決済手段としての注目度は依然高いと言えよう。
次回以降は、これらプリペイド・カードのEUにおける法的根拠の現状とわが国の法制度の現状比較、ならびにドイツ銀行協会のサイトで見るEUの統一決済システムに向けた決済カードの最新動向等を紹介する。

1.電子マネー・カード(電子財布)の現状
2005年中の電子財布への資金の移替え件数;450万回、資金の支払件数;約4千万件、移し替え金額平均25ユーロ、平均支払い金額は2.40ユーロである。

2.主な機能拡大の項目
(1)有料駐車場、公共交通機関、郵便局での切手販売の窓口・自動販売機での利用
 約400以上の市町村での有料駐車場での利用が可能となっている。バスや列車の切符の購入が可能であり、また、ドイツ全国で約13,000の郵政事業会社の窓口や6,000台の切手自動販売機でも利用できる。
(a)公共交通機関であるバス、電車での利用
現在約330社のバス、地下鉄、路面電車等の公共交通機関が同カード利用を認めており、また一部の会社は電子財布の利用者は割引サービスが受けられる。なお、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG)の近距離(blue automat)の利用が可能である。(筆者注5)
(b)郵便局の葉書・切手販売機や窓口での利用
ドイツ国内約6千以上の切手・葉書・テレホンカード自動販売機ならびにドイツ郵政事業会社の現在約13,000支店で利用可能である。なお、ドイツ郵政会社の顧客は「キャッシュ・グループ」(郵政事業会社、Deutsche Bank 、Dresdner Bank、Commerzbank 、HypoVereinsbank)のATMで無手数料でキャッシングが受けられる。

(e)受取人払い式宅配便の決済での利用
約1,700人の宅配業者の担当者は、GeldKarteの利用可能なモバイル決済端末を保持している。

(f)公衆電話での利用
全国約14,000台の公衆電話での通話のほかにSMSの送信にも使える。

(g)自動販売機等での利用
飲み物の自販機は約20万台、菓子類の自販機が約6万台でGeldKarteが利用できる。その他、大学、美術館、スイミング・プール等でも利用できる。

(h)オンライン・ショッピング時のインターネット端末での利用
ショッピング・カートが決済額を表示後、小さなポップアップウィンドウが開くのでGeldKarteを専用リーダーに差込み、「OK」ボタンを押す。次にリーダーで金額を確認して再度「OK」ボタンを押す(この場合、暗証番号の入力は不要)。引落し後、リーダーにカード利用可能残高が表示される。

(i)コインランドリーでの利用

(2)特徴的利用:未成年者へのタバコ自動販売機の販売規制
ドイツではわが国(20歳以下)と異なり16歳以下の者に対し、法律(2007年1月1日施行)でもってタバコの販売が禁止されている。この年齢チェックについて、①販売窓口の場合は16歳以上の者が保持(常時持ち歩くことまでは義務付けられていない)するIDカード(Personalausweis)またはパスポートの提示が求められる、②自動販売機で利用する場合は、まず信用協同組合、貯蓄銀行やHypoVereinsbank、comdirect bank銀行の窓口に行って「年齢証明メルクマール」情報を、カードのICチップに記録する必要(ec cardのGeldKarte化)がある(筆者注6)。

3.GeldKarteの具体的利用方法
(1)GeldKarteは新たにカード発行が不要である。
多くは大手銀行が発行しているec card 、bank card または貯蓄銀行が発行しているSparkassenCardの機能追加である。

(2)カードへの残高のローデイング
①銀行窓口やATMまたは専用端末を探す。
②カードを挿入する。
③「Load」を選択する。
④暗証番号を入力する。
⑤ロード金額を入力する。
なお、この資金のローディング取引の仕組図および販売者・カード発行銀行間の決済の仕組図は以下のURLに詳しく記されている。
http://www.geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/press/facts_and_figures.php
http://geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/press/technical_procedure.php

(3)顧客の利用時の操作
自動販売機の場合を除き、原則利用後に残高を確認する必要があるが、わが国と同様暗証番号入力等認証手続きはない。

4.GeldKarteの利用約款
(1)カードの不具合
カード自体の場合はカード発行銀行が対処する。加盟店の端末の不具合による時は、販売店の取引銀行が損害を負担する。

(2)カードの偽造・盗難・過失の問題
 わが国と同様、現金に準ずるものであり、不正コピーや偽造は偽金とみなされる。損害の補償についてはGeldKarte全体の問題として銀行が100%保証する。カード偽造につき本人が無過失の場合は、銀行がカード残高の範囲で100%補償する。なお、顧客側に過失のある場合、約款に基づき100%顧客の責任とするのが基本であるが、実際は「重過失」の場合に顧客の責任問題が生じよう。なお、カード発行銀行の倒産問題、取引内容の加盟店等によるトレースと個人データ保護の問題については1997年11月に行ったわが国調査団により詳しい報告がなされている(筆者注7)。GeldKarteのサイトのQ&Aでは上記の点(現金類似)が簡単に説明されているのみである。

(筆者注1)決済手段は通常、①プリペイド方式、②ペイ・ナウ方式、③ペイ・レイター方式に大別される。伝統的なもので例示すると、①テレホンカード、JRオレンジカード、メトロカード、ふみカード、バスカード、図書カード等、②現金、デビットカード、③クレジットカード、送金(credit transfer)等である。海外で見られる新たな手段として、ハードウェアを基礎とするものとして「Quick 」、「GeldKarte」、その他ソフトウェアーを基礎とするものもある。
(筆者注2)貯蓄銀行(Sparkassen)、州立銀行(Landesbank)が該当する。
(筆者注3) http://www.silicon.com/financialservices/0,3800010322,39158733,00.htm
(筆者注4)ドイツでは「電子マネー(elektronischen Geldes )」と言う言葉も1990年代の大学の論文等では多用されたが、最近では一般的でなくなりつつある。言葉だけの問題かも知れないが「e-payment」が一般的になりつつあるようである。
この数字は、ドイツ銀行協会の発刊雑誌「die bank」(2006年9月号)が公表している数字6,200万枚に近く正しい数字であろう。各家庭に1枚と言う数字である。http://www.die-bank.de/index.asp?issue=092006&art=322
(筆者注5)たまたま読んだ記事で、今月16日にカシオがドイツのメーカと協力してドイツ鉄道の車掌用決済端末を開発、採用された記事が出ていた。GeldKarteについては言及されていないが。
(筆者注6)ドイツの民間大手銀行であるドイチェバンク、コメルツバンクやドイツSEBバンクの顧客の場合は、これら銀行がEU域内での国際化も含め進めている「ec card」(ATMやデビットカードとしての利用が可能な銀行発行カード)にGeldKarte機能の追加を求めないと、自動販売機で利用できなくなる。ドイツのキャッシュカードのIC化(実質国際標準であるEMV仕様)対応は他のEU加盟国に比べ、①カードの切替率40%、②加盟店端末の切替率5%以下、③ATMの切替率5%と低く(フランスのIC金融カード推進グループであるカルト・バンケールが2004年末に取りまとめた結果)、ドイツにおけるこれらのカード戦略に見直しについては次回以降詳しく述べる。
(筆者注7)http://www.ecom.jp/qecom/seika/survey/wg13.pdf

〔参照URL〕
http://www.geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/geldkarte_users.php

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