オーストラリアにおける消費者金融教育と年金問題(その2:金融クイズの正解・解説)
10月8日にオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission)の消費者向け専用サイト「fido」の金融クイズを出したがその正解・解説を行っていなかった。次回のブログで正解・解説といっていたのにそのまま、別のブログ原稿の作成で多忙を極めていたといえば言い訳になるが、とり急ぎ原稿を作成したので掲載する(筆者注1)。
一方、わが国では保険金の未払い問題や掛けすぎ火災保険が大きな社会的問題化し、監督機関である金融庁も保険会社に対する行政処分、検査マニュアルの改訂、総合的な監督指針の改正、保険販売勧誘のあり方に関する検討会等保険会社に対する厳しい姿勢を強めているが、高齢化社会の共通的問題として欧米主要国やEU加盟国でも保険や企業年金のあり方について大きな問題となっている。
例えば、ドイツの連邦経済技術省(BMWi)の10月27日付ニュースでは「保険仲介業者(わが国で言えば「仲立人」に関するEU指令(Insurance Mediation Directive;2002/92/EC)」に準拠した国内法案について議会で読会に入っている旨リリースしている(筆者注2)。実は、2006年4月に欧州委員会は同指令の国内法令化が遅れた6カ国を列挙した。その中の1カ国がドイツであった。
これに関し、ドイツにおける保険契約法の約100年ぶりの全面改正や保険監督法の改正について金融監督機関であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht;ドイツ連邦金融監督庁)や改正の背景となった2005年7月の連邦憲法裁判所判決等につき別途詳しく説明する予定であるが、今回はまず金融クイズの正解・解説を紹介する。同サイトの解説は極めて簡単なものであり、下記の解説は筆者が金融実務的な観点から補足した内容である。
【設問1】正解は②である。広告文中の比較レート(comparison rate)は他の住宅ローンとの比較ではなく、ローンの表面金利(loan interest rate)に加え申込手数料(loan establishment fee)や取扱い手数料(ongoing fee)を加えたもので、実質ローン金利の比較が可能となる。オーストラリアでは2003年7月1日から施行された「改正消費者信用規則(Consumer Credit Code)」に基づき、金融機関ではこの実質金利比較表示が義務化され、金融機関のサイト上で実質金利比較計算が出来ることとなっている(筆者注2)。
【設問2】正解は①である。当然のことながらアレックスは2倍の保障が受けられるのであり、保険会社からプレミアム付きで2倍を大幅に下回るという説明を聞いても安易に信じてはいけない。消費者は保険会社から必ず見積書をとることである。約款や価格の慎重な比較は十分な価値があるといえる。
【設問3】正解は②である。この問題は実際解くとなると6問中最も難しい。筆者は豪州の大手銀行(National Australia Bank;NAB)とHSBCオーストラリア銀行のクレジット商品の説明を読んで、おおよそ次の解釈を得た。なお、豪州の大手金融機関サイトでは若干金利差はあるものの6カ月間年利0%の優遇金利が受けられる「Low Rate Credit Card」を横並びでPRしている。この優遇金利を受ける手続きについて2行の利用約款等をもとに補足する。
(1)まず他行や小売店発行のクレジットカードの決済用残高を当該銀行の専用残高に移す。その金額が多ければ多いほど金利節約額は大きくなる(HSBCのサイトの計算シュミレーションではキムのように3,000豪ドル(約266,000円)を移し替えると6ヶ月間の金利節約額は約245豪ドル(約22,000円)となる)。
(2)この専用残高は、通常の返済用(bill payment)月次決済通知(monthly statement)請求とは別管理される。3,000豪ドルは無利息融資残高として6カ月間留保(月次最低元本返済額(与信残高の3%)のみに当てられる)されなければならず、設問でキムはその後カードを利用した600豪ドルを月次通知に基づき返済してしまったため、この優遇金利を受けられる残高は2,400豪ドルに減額されるのである(この部分に関する約款の説明は極めて分かりにくい)。
また、キムが返済した600豪ドルについては通常金利(NABのキャッシング(cash advance)では17.24%)が適用される。なお、この残高はATM引出しにも利用できない。
【設問4】正解は①である。サムが融資を受けた3,000豪ドル(金利16.5%)を月次最低返済額(fidoの計算シュミレーションでは、債務残高の2%または10豪ドルのいずれか高い方を適用)で返済すると、完済には31年1月かかる。この返済計算シュミレーションは簡単である。fidoの計算サイトhttp://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/Calculators?openDocumentで「credit card calculator」の各項目に入力するだけでよい。総利息額も含めグラフで表示される。なお、このようなエクセル・シュミレーションによる説明は年金計算など消費者教育上極めて有効性が高いと思われるが欧米でも意外と少ない。
【設問5】正解は②である。ナットがまじめに1年間1,000ドルを退職年金用に追加的に積み立てると65歳時に受け取る概算の年金受給額(年額)は何もしなかった人より145,000豪ドル(政府による補助も含め)多くなる。この退職年金計算シュミレーションも簡単である(この計算シュミレーションは、あくまで概算で正確な金額等については免許を持つ年金アドバイザーと相談すべく注記されている)。
http://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/ef531319dbd6d282ca256afd001db469/fa4209304026a728ca257007001a6de3/$FILE/super_calc_v6.xls
【設問6】正解は①である。オーストラリアでも女性の方が長寿で、95歳まで生きる男性の割合は4人に1人である。
(筆者注1)2007年春から軽自動車税、公共料金、年金・健康保険料のクレジットカード決済からはじまり、その後所得税、住民税、固定資産税等への拡大予定が公表されている。これは本格的な電子政府の取組みの一環であることには間違いないが、クレジットカードはデビットカード(即時引落決済カード)やプリペイドカードと異なり、本来「与信カード」である。すなわち徴収側から見れば徴税率の向上につながるが、支払者(納税者)から見れば「金利負担」の問題があり、従来から利用されてきている「口座振替」に比べ大幅な負担増につながる懸念がある。金利負担を納税者に負わせるだけでなく、【問3】で見るように低利、または優遇金利と併用しなければ不公平であろうし、そもそも普及しないであろう。
(筆者注2)ドイツの対応は、欧州委員会が保険仲介者指令の国内法化を怠っているとして欧州司法裁判所に持ち出したことを受けたものである。
http://www.lloyds.com/Lloyds_Worldwide/International_compliance_news/Insurance_Mediation_Directive_update.htm
〔参照URL〕
http://www.fido.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/FIDO+Questionnaires?openDocument
の「try our money quiz」を参照。
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一方、わが国では保険金の未払い問題や掛けすぎ火災保険が大きな社会的問題化し、監督機関である金融庁も保険会社に対する行政処分、検査マニュアルの改訂、総合的な監督指針の改正、保険販売勧誘のあり方に関する検討会等保険会社に対する厳しい姿勢を強めているが、高齢化社会の共通的問題として欧米主要国やEU加盟国でも保険や企業年金のあり方について大きな問題となっている。
例えば、ドイツの連邦経済技術省(BMWi)の10月27日付ニュースでは「保険仲介業者(わが国で言えば「仲立人」に関するEU指令(Insurance Mediation Directive;2002/92/EC)」に準拠した国内法案について議会で読会に入っている旨リリースしている(筆者注2)。実は、2006年4月に欧州委員会は同指令の国内法令化が遅れた6カ国を列挙した。その中の1カ国がドイツであった。
これに関し、ドイツにおける保険契約法の約100年ぶりの全面改正や保険監督法の改正について金融監督機関であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht;ドイツ連邦金融監督庁)や改正の背景となった2005年7月の連邦憲法裁判所判決等につき別途詳しく説明する予定であるが、今回はまず金融クイズの正解・解説を紹介する。同サイトの解説は極めて簡単なものであり、下記の解説は筆者が金融実務的な観点から補足した内容である。
【設問1】正解は②である。広告文中の比較レート(comparison rate)は他の住宅ローンとの比較ではなく、ローンの表面金利(loan interest rate)に加え申込手数料(loan establishment fee)や取扱い手数料(ongoing fee)を加えたもので、実質ローン金利の比較が可能となる。オーストラリアでは2003年7月1日から施行された「改正消費者信用規則(Consumer Credit Code)」に基づき、金融機関ではこの実質金利比較表示が義務化され、金融機関のサイト上で実質金利比較計算が出来ることとなっている(筆者注2)。
【設問2】正解は①である。当然のことながらアレックスは2倍の保障が受けられるのであり、保険会社からプレミアム付きで2倍を大幅に下回るという説明を聞いても安易に信じてはいけない。消費者は保険会社から必ず見積書をとることである。約款や価格の慎重な比較は十分な価値があるといえる。
【設問3】正解は②である。この問題は実際解くとなると6問中最も難しい。筆者は豪州の大手銀行(National Australia Bank;NAB)とHSBCオーストラリア銀行のクレジット商品の説明を読んで、おおよそ次の解釈を得た。なお、豪州の大手金融機関サイトでは若干金利差はあるものの6カ月間年利0%の優遇金利が受けられる「Low Rate Credit Card」を横並びでPRしている。この優遇金利を受ける手続きについて2行の利用約款等をもとに補足する。
(1)まず他行や小売店発行のクレジットカードの決済用残高を当該銀行の専用残高に移す。その金額が多ければ多いほど金利節約額は大きくなる(HSBCのサイトの計算シュミレーションではキムのように3,000豪ドル(約266,000円)を移し替えると6ヶ月間の金利節約額は約245豪ドル(約22,000円)となる)。
(2)この専用残高は、通常の返済用(bill payment)月次決済通知(monthly statement)請求とは別管理される。3,000豪ドルは無利息融資残高として6カ月間留保(月次最低元本返済額(与信残高の3%)のみに当てられる)されなければならず、設問でキムはその後カードを利用した600豪ドルを月次通知に基づき返済してしまったため、この優遇金利を受けられる残高は2,400豪ドルに減額されるのである(この部分に関する約款の説明は極めて分かりにくい)。
また、キムが返済した600豪ドルについては通常金利(NABのキャッシング(cash advance)では17.24%)が適用される。なお、この残高はATM引出しにも利用できない。
【設問4】正解は①である。サムが融資を受けた3,000豪ドル(金利16.5%)を月次最低返済額(fidoの計算シュミレーションでは、債務残高の2%または10豪ドルのいずれか高い方を適用)で返済すると、完済には31年1月かかる。この返済計算シュミレーションは簡単である。fidoの計算サイトhttp://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/Calculators?openDocumentで「credit card calculator」の各項目に入力するだけでよい。総利息額も含めグラフで表示される。なお、このようなエクセル・シュミレーションによる説明は年金計算など消費者教育上極めて有効性が高いと思われるが欧米でも意外と少ない。
【設問5】正解は②である。ナットがまじめに1年間1,000ドルを退職年金用に追加的に積み立てると65歳時に受け取る概算の年金受給額(年額)は何もしなかった人より145,000豪ドル(政府による補助も含め)多くなる。この退職年金計算シュミレーションも簡単である(この計算シュミレーションは、あくまで概算で正確な金額等については免許を持つ年金アドバイザーと相談すべく注記されている)。
http://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/ef531319dbd6d282ca256afd001db469/fa4209304026a728ca257007001a6de3/$FILE/super_calc_v6.xls
【設問6】正解は①である。オーストラリアでも女性の方が長寿で、95歳まで生きる男性の割合は4人に1人である。
(筆者注1)2007年春から軽自動車税、公共料金、年金・健康保険料のクレジットカード決済からはじまり、その後所得税、住民税、固定資産税等への拡大予定が公表されている。これは本格的な電子政府の取組みの一環であることには間違いないが、クレジットカードはデビットカード(即時引落決済カード)やプリペイドカードと異なり、本来「与信カード」である。すなわち徴収側から見れば徴税率の向上につながるが、支払者(納税者)から見れば「金利負担」の問題があり、従来から利用されてきている「口座振替」に比べ大幅な負担増につながる懸念がある。金利負担を納税者に負わせるだけでなく、【問3】で見るように低利、または優遇金利と併用しなければ不公平であろうし、そもそも普及しないであろう。
(筆者注2)ドイツの対応は、欧州委員会が保険仲介者指令の国内法化を怠っているとして欧州司法裁判所に持ち出したことを受けたものである。
http://www.lloyds.com/Lloyds_Worldwide/International_compliance_news/Insurance_Mediation_Directive_update.htm
〔参照URL〕
http://www.fido.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/FIDO+Questionnaires?openDocument
の「try our money quiz」を参照。
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