Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Saturday, October 28, 2006

英国における過重債務者に関する信用情報機関と銀行等の口座情報の共有化問題

わが国で個人情報保護法が全面施行されて約1年半が経過し、最近時では国民生活審議会個人情報保護部会が2006年9月21日に公開した「個人情報保護に関する主な検討課題」について、内閣府国民生活局企画課個人情報保護推進室が10月27日を期限としてパブリック・コメントに付していた(筆者注1)。
一方、海外に目を向けると英国の貿易産業省(DTI)が10月11日に過重債務者問題(筆者注2)の対応を目的として金融界や個人信用情報機関(Credit Reference Agencies(Experian等))、消費者保護団体に対して銀行と個人信用情報機関との間における預金名義人の口座情報の共有に関する諮問書(コメント期限は2007年1月11日)を公表している。
EUの個人情報保護指令(1995 EC Data Protection Directive)に基づき改正された同国の「1998年データ保護法(Data Protection Act 1998)」は個人情報のダイレクト・マーケティングの利用につき「オプト・アウト権」を明記しているが、共有について明確な規定はない。ただし、エクスペリアン(大手信用情報機関)等に見られるとおり個人信用情報機関と加盟金融機関等における相互利用主義原則(Principles of Reciprocity)や信用情報の公正取得条項(Fair Obtain Clauses)については同国の個人情報保護委員(ICO)や英国不正防止サービス(CIFAS)の校閲に基づく詳細な取決めがある(筆者注3)。
英国の取組みは社会的弱者保護を政府全体の施策といえるものであるが、法律専門家からはDTIの提案内容につきデータ保護法に抵触するといった異論もある。他方、エクスペリアン自身も自らのサイトでDTIの提案に意見を述べている(筆者注4)。
わが国における過重債務問題は貸出金利の引下げや消費者信用団体生命保険等金融の仕組みの見直しだけでは解決しない問題であり、わが国の取組課題を考える上で無視し得ない重要な問題点を示唆しているといえよう。

1.対象銀行口座
DTIの考えた案は次のような内容である。過重債務者対策として考えた4案のうち2つがこの共有方法の導入を取込んでおり、関係金融機関や信用情報機関等にコメントを求めている。銀行が取引口座情報について信用情報機関と共有するにつき口座名義人の同意を取る方法を導入する以前、すなわち1990年以前に利用されていた約4千万(現在も利用されている口座数はうち約3,300万と見込まれている)の銀行口座が対象になるとされている。このままでは、これらの口座名義人は信用情報からの一般的な信用調査を受けることがないという理由である。

2.政府の説明
 DTI大臣イアン・マカートニーは諮問書において、これを実行することは貸手にとって貸し倒れリスクを最小化し、他方、借り手を過重債務禍から救う唯一の手段と考えると述べている。

3.口座情報の共有命令に関する提案内容
1つ目は口座名義人にデータの共有について「オプト・アウト」権(登録拒否権)を認めるもの、もう1つは名義人にそのような選択権を一切認めないものである。
しかし、この諮問書にはDTIに都合のよい方式として第三案(オプション3)がある。すなわち、すべての口座情報の共有を認めるものの、名義人にオプト・アウト権を認めるもので、諮問書では当該オプションについて法的に認められるためには立法上の手当てが必要であるとしている。

4.英国の弁護士の見解例
政府が金融取引の詳細情報の共有化に伴い、同国のデータ保護法との抵触を避けるため、制定法上の規定の根拠を確立しようとしているとしている。特にオプション3は政府に都合のよい文言である(ウインドウの中だけで着飾るようなもの:見栄えだけ)。

(筆者注1) パブリック・コメントに関するURL(10月27日が期限)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=095060570&OBJCD=100095&GROUP=
なお、内閣府国民生活局のサイトを見ると、最近の海外向けの施策としてわが国の個人情報保護法の関係省庁や認定団体の施行状況(概要)について英語版を公開している。従来公表済のわが国の保護法令の英語版(この英語訳の内容については筆者として一部異論があるが)とともに好ましい方向ではあろう。
(筆者注2)英国のDTIの過重債務者問題への取組み(Tackling Over-Indebtedness Task Force(
過重債務問題作業部会))については、わが国大手消費者金融会社から構成される「消費者金融連絡会(tapals.com)」サイトで同国が2001年7月から2003年1月の間に公表された報告書の内容につき早稲田大学金融サービス研究所を詳しく紹介している。
http://www.tapals.com/dictionary/repo16.html
しかし、過重債務者問題は、英国がかかえる社会問題の一部である。すなわち、DTI、OWP(Department Work and Pensions:雇用年金省)およびDCA(Department for Constitutional Affairs:憲法事項省)の3省が中心となって、同国政府の「過重債務者問題」への取組みをまとめた「政府2006年度報告書(第3次報告)」が公表されている(全108頁)。
http://www.dti.gov.uk/files/file33134.pdf
すなわち、英国政府は特に低所得者世帯が銀行口座の開設、低利与信等主たる金融サービスを受けられないという社会問題に対して社会共同体として問題を共有し、解決すべく(社会目的の共有化と財政面の包含(支援):Promotion Financial Inclusion)、具体的優先分野として、①銀行取引へのアクセス、②手ごろに入手可能な与信サービスへのアクセス、③無料の対面による金融アドバイスサービスへのアクセス権の確保を確約した。このため同政府は3年以上にわたり1億2千万ポンド(約261億6千万円)の基金を用意するとともに、その推進役として2005年2月21日に「財政支援作業部会(the Financial Inclusion Taskforce)」を設置、関係機関との調整、勧告などを行っており、また政府全体の取り組みを推進するため2006年4月20日には財務省副大臣、DTIやDWPの事務次官級による会合を開催している。
http://www.financialinclusion-taskforce.org.uk/default.htm
また、議会の動きとしては下院財務委員会(House of Commons, Treasury Committee)が2003年12月10日に公表した報告書の第3編で「過重債務問題と責任ある貸出(責任ある借金もふくまれる)」について論じられている。
http://www.publications.parliament.uk/pa/cm200304/cmselect/cmtreasy/125/12502.htm

(筆者注3) http://www.experian.co.uk/corporate/compliance/datasharing/index.html
英国では、信用情報機関(現行、①the Experian CAIS database、②the Equifax Insight database、③the Callcredit SHARE databaseである)と銀行等特定の範囲の貸し手グループ間の信用情報の共有について「相互利用原則(Principle of Reciprocity)」のガイドラインを定めている。このガイドラインを作成、監督するのが前記3情報機関(英国での免許を得た信用情報機関:CRA)および英国銀行協会(the British Bankers Association)、金融・リース業協会(the Finance and Leasing Association)、不動産抵当ローン融資業協議会(the Council of Mortgage Lenders)、メールオーダー取引業者協会(the Mail Order Traders’ Association)、消費者信用取引協会(the Consumer Credit Trade Association)から構成される「相互利用運営委員会(the Steering Committee on Reciprocity:SCOR)」である。この運用ルールは適宜改訂されており、Q&Aとともに確認が出来る。
http://www.experian.co.uk/downloads/compliance/scorrules_101204.pdf
(Q&AのURL)http://www.experian.co.uk/downloads/compliance/por_qa_finalv26april06.pdf

(筆者注4)エクスペリアンの主張は次の通りである。基本的に公益の立場ならびに貸し手の正当な利益保護の観点から共有を肯定するものであり、また貸し手が借り手に対して過去にさかのぼって同意を得ることを義務付けることは実際的でない、つまり通知による同意の取得方法としては、毎月の月次計算書によって同意を得る方法をすでに憲法事項省が十分と認めているのであり、「公正かつ合法的」方法として認められるべきである。
http://www.experian.co.uk/corporate/compliance/datasharing/index.html

〔参照URL〕
http://www.out-law.com/page-7393-theme=print

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