Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Monday, March 12, 2007

米国の株価大暴落の背景にあるインサイダー取引事件や住宅ローン・バブル等の懸念材料(その1)

2月末から3月上旬に続く世界連鎖型株価低落については、テレビ等でいわゆる国際金融アナリストが勝手な根拠の薄い論説を縷々述べている。株価自体日々または一定の周期で高騰や低落を繰り返すものであり、本来の金融アナリストは世界経済または個別国の深部のある経済・金融の問題点をより分析し、十分な予見をもって指摘するのが本来の役目であろう。(筆者注1)

3月1日に米国証券取引委員会(SEC:読み方は「エス・イー・シー」である。くれぐれも「セック」と呼ばないように。海外では誤解や恥をかく)、FBIおよびニューヨーク南部地区連邦地方検察庁当局(筆者注2)は、大規模なインサイダー取引きに関与したとしてUBS証券(UBS Securities LLC(筆者注3))の法人担当専務取締役・調査部門の幹部やベアーズ・スターンズ( Bear Starns & Co., Inc)の従業員兼ヘッジファンドの運用マネージャー、モルガン・スタンリー(Morgan Stanley & Co.,Inc)の担当弁護士夫婦2人、2人のブローカー兼ディーラー、ディ・トレーダー会社(筆者注4)、高額の違法利益を得た3ヘッジファンド等による1,500万ドル(約17億5,500円)以上に上る違法な利益を得たことを理由として14人(うちに3ヘッジファンド会社(法人)を含む)を逮捕、告訴した(筆者注5)。

これらの犯人13人は刑事責任(criminal charge)および11人の個人と3法人は民事責任(civil charge)を問われることになったが、刑事責任容疑者のうち9人は逮捕され、また主犯格以外の4人は大陪審(grand jury)において証券詐欺罪(securities fraud)、証券詐欺にかかる共謀罪(conspiracy)および収賄罪(bribery)について有罪答弁(pleaded guilty)行っている(筆者注6)。

また、SECの訴状内容は監督権にもとづき、独自に①恒久的な差止請求(permanent injunctive relief)、②判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、③民事制裁金(civil money penalties )を求めている。筆者なりに今回の監督・司法当局がとった行動の背景にある事件の特徴(多くの容疑者がヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーであり、米国の連鎖的株価低落はこれらを放置(またはいたちごっこ)している米国の証券投資制度そのものの信頼性が問われている)とコンプライアンス強化等監督規制面からの問題点についても概観する。
(筆者注7)

なお、オーストラリアの財務省政務次官であるクリス・ピアス(Chris Pearce)は3月2日に「インサイダー取引に関する立場および諮問書(案)」に関するパブリック・コメントを6月2日を期限として求めている。世界の主要国の金融監督機関は証券取引の規制強化に向けて取組んでいる中、その法規制強化に向けた具体的内容の検討は、わが国でも業界関係者や司法関係者に重大な課題を投げかけているといえる。特に「2007年問題」は米国でも同様であり、1948年から1964年の17年間に生まれた約7,800万人のベビー・ブーマーは2008年以降毎年約400万人ずつ退職期に入る。年金や医療等の社会保障制度の大半が民間に委ねられている米国では老後のための貯蓄に関心が高く、また証券会社は従来の投資サービスから資産の活用、維持等を目指すラップ口座(投資一任勘定、分離管理口座)の残高を伸ばしている。今回の事件は、このような多大な顧客の信頼を失う事件としても注目すべきであろう(筆者注8)。

今回のブログは3回に分けて、1,2回は(1)米国のインサイダー取引容疑における手口・事実関係や監督・司法当局の取組み(ヘッジ・ファンドの金融システム上の問題点等)、3回目は(2) オーストリアにおけるインサイダー取引法の規制強化(公平性、効率に向けた)、および(3) 米国の住宅ローン・バブルの懸念と金融規制・監督の強化に向けたガイドライン(案)の公表の概要等を報告する。


1.証券取引委員会等による大規模インサイダー犯罪告訴
(1)SEC等による捜査の結果判明した犯罪グループの存在
今回の非公開情報にもとづくインサイダー取引の犯罪グループは2つに大別できる。容疑者によってはこの両者に関与している。
①UBS証券関連詐欺グループ(UBS scheme):2001年以降行われたもので、8人(うち1人は日本人(31歳)である)の証券投資プロ、3つのヘッジファンド、ディ・トレーダー会社1社、2ブローカー兼デーラーによる数千の違法取引と1,400万ドルにのぼる違法利益容疑である。
②モルガン・スタンリー関連詐欺グループ(Morgan Stanley Scheme):数名の証券プロや企業買収に関する機密情報の漏洩を行った弁護士によるインサイダー取引である。60万ドルにのぼる違法利益容疑である。
主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳:大証券会社であるUSBの株式調査部門の代表権を持つ役員兼登録代理人)は、共犯者たちとニューヨークの有名な牡蠣(かき)料理店で秘密の会合を続け、そのやり取りは使い捨て携帯電話、暗号、現金リベート(cash kickbacks)というものであった。

(2)SECの訴状における各容疑者の違法行為の概要
①ミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳)UBSが保有する非公開情報を機密裡に内報、株式取引きに違法な利益を得た。
②エリック・フランクリン(Erik R. Franklin 39歳)ベアー・スターンズの従業員でありかつ、Lyford CayおよびQ Capitalのヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャー、Chelsey Capital ヘッジファンドのアナリストである。UBSおよびモルガンから非公開情報を入手、違法取引を行った。
③デビッド・タヴィ(David S. Tavdy 38歳)私設取引トレーダー(proprietary trader) (筆者注9)でありかつ登録代理人である。ディ・トレーダー会社であるジャスパー・キャピタルのトレーダーである。UBS詐欺に関与した。
④マーク・レノヴィッツ(Mark E. Lenowitz 43歳)Chelsey Capitalファンドのポートフォリオ・マネージャーでかつQ Capitalの有限責任パートナーである。UBS詐欺に関与した。
⑤ロバート・バブコック(Robert D. Babcock 33歳)サントラスト・キャピタル・マーケット社およびベアー・スターンズの登録代理人であり、またLyford Cay ヘッジファンドの共同事業者である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。
⑥アンドリュー・スレブニック(Andrew A. Srebnik 35歳)ジェフリーズ・アンドカンパニー社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。
⑦Ken Okada(岡田 謙? 31歳)キャセイ・フィナンシャル社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。
⑧デビッド・グラス(David A. Glass 32歳)Jasper CapitalのオーナーでありかつAssent LLCの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。
⑨ランディ・コラータ(Randi E. Collotta 30歳)弁護士であり、ガーデン・シティグループ社の証券運用部長である。またモルガンのグローバル法令遵守部門(global compliance department )の弁護士である。モルガンの機密情報を漏洩し違法な利益を得た。
⑩クリストファー・コラータ(Christfer K. Collotta 34歳)個人開業弁護士。妻であるランディから得た非公開情報にもとづき違法な利益を得た。
⑪マーク・ジュルマン(Marc R. Jurman 31歳)マリンズ・キャピタル LLCおよびファイナンス500社の支店の登録代理人である。モルガン詐欺に関与した。
⑫Q Capital Investment partners, LP
⑬DSJ International Resources Ltd.,
⑭Jasper capital LLC

(筆者注1)本ブログを書いている間にも、わが国のインサイダー取引事件が発覚した。3月9日に証券取引等監視委員会は総理大臣および金融庁に対し小松製作所に関する証券取引法175条7項、1項に基づく課徴金(4,378万円)納付命令勧告を行った。

(筆者注2)マイケル・ガルシア・ニューヨーク南部地区連邦地方検察庁検事(MICHAEL J. GARCIA: United States Attorney for the Southern District of New York)の記者会見ビデオ(MSNBC)は、次のURLで見れる。この記者会見で同長官は後方に今回の容疑者の関係図を示しながら説明している。関係図は残念ながらこの画面でしか見れない。なおこのビデオの前に宣伝が入るが我慢して欲しい。http://www.msnbc.msn.com/id/17401254/

(筆者注3)平成18年5月に施行されたわが国の「新会社法」では有限会社が廃止され、新たに日本版LLC(合同会社:Limited Liability Company)制度が認められた。LLCの特徴は社員(出資者)が経営に参加しながら(人的会社)、会社の債務に対する責任は出資額が限度(有限責任)である点や内部組織や定款を自由に定めることができる。合同会社に関する規定は、合同会社固有のものとしてではなく、会社法上は「持分会社」というタイトルの下で、合名会社・合資会社と共通するものとして規定された。すなわち、合名会社・合資会社・合同会社の3種の会社は、その社員が有する会社に対する割合的地位のことを「持分」とし、内部関係において組合的規律がなされる点で共通する。そこで、会社法では、それら3種の会社をまとめて「持分会社」と称し(会社法575条1項)、会社法第三編で「持分会社」という独立の編を設けて規定がなされた。つまり、合名会社、合資会社および合同会社において、共通に適用すべき規律については、同一の規定が適用される(会社法575条~675条)。それらの会社形態のうち各会社のみに適用される内容については、特則という形で会社形態が明示されて規定される。
なお、LLCに類似した経営形態にLLP(有限責任事業組合:Limited Liability Partnership)がある。LLPはLLCのように会社ではなく組合であり根拠法も「有限責任事業組合契約に関する法律」である。その最大の特徴は税金が組織に対して課されるのでなく出資者に対して課税される点である(構成員課税、出資者の事業所得との損益通算が可)

(筆者注4)被告David A. Glassはディ・トレーダー会社(Jasper Catital LLC)のオーナーである。会社の証券を1日のうちに売ったり買ったりして、目先の値ザヤ稼ぎをすることを「日計り商い」(day trading)というが、「ディ・トレーダー」とは、この日計り商いを行う投資家のことで、それら顧客向け商売にしているのが「ディ・トレーダー会社」ある。1990年代後半、アメリカではインターネットに開設された証券会社のホームページを通じて、低コストで取引をする個人投資家のディ・トレーダーが急増した。インターネットをはじめとするハイテクのおかげで、個人投資家がこの取引に参入しやすくなったが、損失を被る被害者も増加し、それが問題となっている。(スペースアルクより引用、一部変更)

(筆者注5)本事件についてワシントンポストやニューヨークタイムズ、フィナンシアルタイムズその他多くの世界のメディア(もとはAP、AFP通信等)が取り上げたのに拘らず、わが国のメディアでこの件を取り上げたのは朝日新聞(3月3日付)のみである。日頃海外情報に熱心な日本経済新聞といった専門紙はどうなったのか。

(筆者注6)これだけの大規模インサイダー事件となると裁判管轄も各州にまたがる。証券詐欺等容疑等に基づき最高25年の禁錮刑が科せられる主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Michel S.Gutteberg )は無罪を主張しニューヨーク連邦地裁で50万ドルの保釈金、弁護士のランディ・コラータ(Randi Collotta)とクリス・コラータ(Chris Collotta)は無罪を主張し25万ドルの保釈金で釈放されている。デビッド・タヴィ(David S.Tavdy )はマイアミの連邦地裁に出廷予定とされている。エリック・R フランクリン(Erik R. Franklin )やその他の容疑者はいずれも釈放されている。

(筆者注7)米国の証券ブローカー・ディーラーの資格に関する登録制度等について簡単に見ておく。主たる証券取引の責任者は取引所法および全米証券業協会(NASD)規則に従いブローカー・ディーラーを運営する知識および経験を有していることについて、全米証券業協会の条件を満たす必要があり、また、SECに登録されているブローカー・ディーラーは、原則として取引を行っている証券の販売もしくは買付のための募集を行っている各州において登録を行わなければならない。さらに、各州や地域(provincial)の監督機関は、北米証券行政協会(North American Securities Administration Association:NASAA)のもとで一元的に管理され、証券取引業を営んでいるブローカー・ディーラーの従業員が、販売代理人として登録されることを要求するとともに、証券取引所法の15条(b)項に基づき登録され米国内で事業を行うブローカー・ディーラーは、証券投資家保護公社(Securities Investor Protection Corporation:SIPC)に加盟することが要求されている。
SECは、証券関連法違反、とりわけ相場操縦、詐欺、マネー・ローンダリング、インサイダー取引、または横領を含む重大な違反がある場合には、ブローカー・ディーラーに対し、中止および停止命令または一時的ないし恒久的な差止命令の措置を取ることができる。また、SECからブローカー・ディーラーの監視権限の委託を受けている全米証券業協会(NASD)は、ブローカー・ディーラーが所定の資本要件を充足しなくなった場合や、全米証券業協会の規定に違反した場合、ブローカー・ディーラーの会員資格を取消すことができる。

(筆者注8)野村総研のレポート「変貌したアメリカのリテール証券市場(上)」(2005年11月)が参考になる。http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2005/pdf/cs20051102.pdf

(筆者注9)取引所外で私設取引を行うトレーダーとは、クライアントを拠点とするビジネスに関して働くのではなく投資銀行の自己資金(自己勘定部門の資金)を運用するトレーダーのこと。そのようなトレーダーは、さまざまな資産における市場取引きにおいて、広範囲な戦略(技術的分析手法や統計的手法を含む)を利用する。なお、最近では、私設取引システム(Proprietary Trading System またはPTS)といった取引所外の新たな取引方法の導入等により、有価証券の売買の場が拡大してきている。

〔参照URL〕
SEC: http://www.sec.gov/news/press/2007/2007-28.htm
ニューヨークタイムズ:http://www.nytimes.com/2007/03/02/business/02inside.1.html?ex=1330491600&en=b8f2c508e96155e3&ei=5088&partner=rssnyt&emc=rss
ワシントンポスト:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/01/AR2007030100853.html
フィナンシャルタイムズ:
http://www.ft.com/cms/s/84f0e2ba-c81f-11db-b0dc-000b5df10621.html

Copyrights (c)2006-2007 福田平冶. All rights Reserved

0 Comments:

Post a Comment

<< Home