Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Saturday, June 17, 2006

米国連邦証券取引法に基づく電子メールの保存規則違反で和解金1500万ドルを支払う

6月10 日付の本ブログでも紹介した米国企業改革法(SOX法)の対応問題に関連する課題として、内部統制強化に欠かせない「文書化作業と保存・管理対策」が昨今話題となっている(筆者注1)。とりわけインターネット・トレードの普及がわが国でも個人投資家を中心に急速に拡大する一方で、米国では電子メール・データの保持を義務づける米国証券取引委員会(SEC)規則17条a-4(筆者注2)や全米証券業協会(NASD)運営規則3010条(筆者注3)等の遵守義務が厳しく監督機関から求められており、最大手証券会社モルガン・スタンレー社が去る5月19日にSECとの民事裁判(コロンビア連邦地裁)で和解に応じた。
わが国では、電子メールのみによる注文取引は行われていないため、電子メールの保存にかかる実務レベルの厳格な規則はないようであるが(筆者注4)、金融取引における一般原則としては取扱いルールの明確化は今後重要な課題となろう(筆者注5)。

1.原告と被告
原告;証券取引委員会(ワシントンD.C.)、被告;モルガン・スタンレー社(ニューヨーク州)

2.起訴理由
 (1)被告は少なくとも、2000年12月11日から2005年7月の間になされた原告における2つの調査(新規株式公開における株式割当ての実施状況、②同社の調査結果と投資銀行間の利益相反の実施状況)に関し、召喚状(subpoena)その他の請求に反し数万件の電子メールの作成を怠った。その結果、連邦証券規制法に基づき証券仲介業者・売買業者に課されるところの原告に適時に提出すべき文書の作成義務規定に違反した。

(2)被告は、前記の2つの調査に関し、2005年までの約4年間にわたり顧客とのやり取りを記録した電子メールを記録すべきバックアップ用磁気テープの作成を真摯に行わなかった。その結果、数千本のバックアップ用テープに記録されるべき電子メールの適時の作成を怠った。これら磁気テープは遠隔地保管業者(off-sight storage provider)となる被告の事務所又は関連会社において読み取り可能なものでなければならないものであるが、今日まで記録されるべきであった1,430万件の電子メールが保管されずに放棄された。

(3)原告の調査の間、被告は一定の電磁的記録文書の作成およびその完全性ならびに一定の文書の使用不可について誤った説明を行った。例えば、原告の調査の際に1999年分電子メール用バックアップテープは保管していないと述べたが、事実は同年以降のの電子メール用の数本のテープは存在した。被告は2005年からテープの作成を始めたのである。

(4)被告は投資分析調査(Research Analyst Investigation)において請求された電子メールの提出が遅らした。その原因は「検索可能電子メール・システム(the E-MAIL Archive)」へのローデイングが遅延し、その結果応答済(responsive)の電子メールの検索が行なかったことにある。被告の担当者は原告に対し電子メールの作成は完全であると述べていたが、同社の「the E-MAIL Archive」対応の優先度は低く、完全でなかった。

(5)被告の担当者は磁気テープの書き込み過ぎにより、2001年1月に約20万件の電子メールを破壊してしまった。その一部は原告の召喚状の対象となるものであった。

(6)以上の被告の作成義務違反行為により、原告の連邦証券取引法違反に関する効率的調査および法律遵守状況調査ならびに違反性の判断を遅らせた。

(7)本民事告訴状(Complaint)に記述のとおり、被告は「1934年連邦証券取引法(15 U.S.C.§78q(b))17条b項」(筆者注6)および「証券取引委員会規則(17 C.F.R. §240)17a-4条(j)」に定める作成義務違反が本裁判所において支持されることを希望する。原告は、被告の今後の違反行為の恒久的差止めと民事制裁金処分(civil Monetary Penalties)を求めるものである。

(筆者注1)IT化の取組みの中で今後規模にかかわらず各企業が最も悩む点の1つが電子化された法定書面の保管システムや膨大な量にのぼる電子メール等の保管問題やさらにはコンピュータ・フォレンジックス対応であろう。内部統制の有効性を担保するため文書が電子化されるとともに当該文書のデータの有効性の要件としては、①原本性の証明(改ざん・偽造のないこと、)、②盗難・盗聴対策、③保存データの変化・消失防止、④なりすまし対策・否認対策等の脅威対策がとられていることが挙げられる(NTT DATAの資料より引用)。なお、わが国の文書の電子化に関する法制整備の推移と概要もここで整理しておく。
(1)1998年(平成10年)7月1日施行「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(平成10年3月31日公布法律第25号)。
:納税者等の国税関係帳簿などの保存負担軽減のための、所得税法等に関する特例を定めた法律。その後7回にわたり改正されており、最新の改正は2005年3月31日の一部改正(施行は2005年4月1日)
(2)2001年(平成13年)4月1日施行「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)」(平成12年11月27日公布法律第126号)
:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法に関する法制整備
(3)2001年(平成13年)4月1日施行「 電子署名及び認証業務に関する法律」(平成12年5月31日公布法律第102号)
:電磁的記録の真正性な成立の推定、特定認定業務に関する制度などを定める法律。最新の改正は2006年3月31日の一部改正(施行は2006年4月1日)
(4)2005年(平成17)年4月1日施行「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e-文書法)」(平成16年12月1日公布法律第149号):政府の代表的なIT政策であるe-Japan戦略II加速化パッケージにおいて提言された「e-文書イニシアティブ」すなわち「法令により民間に保存が義務付けられている財務関係書類、税務関係書類等の文書・帳票のうち、電子的な保存が認められていないものについて、近年の情報技術の進展等を踏まえ、文書・帳票の内容、性格に応じた真実性・可視性等を確保しつつ、原則としてこれらの文書・帳票の電子保存が可能となるようにすることを、統一的な法律の制定等により行う」というものである。この統一的な法律が「e-文書法」である(NTTデータ経営研究所レポートから引用)。前述の法律等により、これまで電子文書(最初から電算機を使って作成した文書データ)は文書と認められてたが、紙文書をスキャナで取込んだ電子化文書(イメージ化文書)は文書と認めておらず、そのため紙文書を廃棄できなかったが、この法律によって電子化文書も一定の要件で認められ、紙文書の廃棄が促進されると予想される。なお、2005年5月に経済産業省は「文書の電磁的保存等に関する検討委員会の報告書(文書の電子化を促進するためのガイドライン)」を公表している。http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/e-doc/kentouiinkai_houkokusyo.pdf
また、同法施行規則(平成17年3月29日付経済産業省令第32号)のURLは次のとおり。
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/e-doc/syourei.pdf
(筆者注2)わが国や米国においても極めて一般的に引用されるSEC規則17a-4であるが、その内容についての法的な意味での正確な解説はあまり見ない。どちらかと言うと電子文書のバックアップやアーカイブ技術の必要性を説く企業サイト(シマンテック、ベリサイン、ヴェリタス等)の情報が中心である。本来的には、比較金融制度、比較法の観点からは欠かせない作業と考えるが、今回は同項に関するSECの解釈集と条文のURLを紹介しておく。
http://www.sec.gov/rules/interp/34-47806.htm
規則の条文自体のhttp://www.law.uc.edu/CCL/34ActRls/rule17a-4.html   
なお、SEC規則等に内容について要約した資料がヴェリタスの日本語サイトにあるので参考にされたい。
http://eval.veritas.com/ja/JP/downloads/pro/ev_wp_compliance_ostermanresearch.pdf
(筆者注3)NASDの運営規則3010条は、加盟証券会社に対する米国証券取引法など規制・監督法の遵守内容を確認する際の最低条件を定めるものとしてある。また、監督に当たってあくまで最終責任は個々の証券会社にあると明記されている。なお、遵守義務の強化を図る目的で同規則同条C項の改正が行われ、本年7月3日から施行される。
http://nasd.complinet.com/nasd/display/display.html?rbid=1189&element_id=1159000466
(筆者注4)わが国のインターネット・トレードのサイト例で見ると以下のような説明がある。
「電子メールは、補完的な連絡手段として利用します。電子メールによる注文は受付けていません。登録した電子メールアドレス宛に、当社から新規公開株式、セミナー等の案内に関する電子メールを送信する場合があります。」
なお、日本証券業協会が2005年12月に取りまとめたガイドライン「インターネット取引において留意すべき事項について」において、①取引公正性の確保および顧客との紛争の未然防止のため、ホームページ又は電子メールによる交信内容について一定期間、記録することが望ましい、②法令により記録の保存義務がある法定帳簿書類のほか、ホームページ又は電子メールによる交信の内容についてもその重要性等必要に応じ保存(改ざん防止策も含め)することが考えられる、と記されているのみである。
(筆者注5)金融商品のオンライン広告、例えば「ミューチュアル・ファンド(オープンエンド型投資信託)」の商品性からみた複雑性に対する証券取引法等法規制のあり方について「デューク・ロー・スクール」論文がある。http://www.law.duke.edu/journals/dltr/articles/2001dltr0019.html
(筆者注6)同条文のURL;http://www.sec.gov/divisions/corpfin/34act/sect17.htm
〔参照URL〕
SECのコロンビア連邦地裁に対する告訴状;http://sec.gov/litigation/complaints/2006/comp19693.pdf
解説記事;http://www.out-law.com/page-6931、http://www.law.com/jsp/article.jsp?id=1147251933246

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