米国SECが企業改革法(SOX法)第404条の内部統制要件実現の具体的行動計画を公表
最近時、監査法人サイトや金融専門雑誌等において米国企業改革法(the Sarbanes-Oxley Act of 2002)の解説記事が頻繁に出ている。同法が制定された背景は言うまでもなくエンロン事件等傷ついた証券市場の信用の建て直しであるが、その主な内容は、①監査(内部・外部)の独立性強化、②経営社の責任の厳格化・明確化、③情報開示に強化等多岐にわたっており米国の公開会社(public company)に適用される。
すなわち、わが国の企業にとって米国の証券取引委員会(SEC)に登録または登録予定している企業の子会社や支店には同法が適用されるし、また第404条「経営者による内部統制の評価」については今後わが国の法令・基準等に取り入れられることは間違いないといえる。
去る5月17日にSECは①公開会社のための内部統制遵守ガイダンスを公開会社会計監視委員会(the Public Company Accounting Oversight Board;PCAOB)と共同で策定する(これらの背景としては最近数ヶ月間にわたる投資家、公開会社、監査役等から大規模なヒアリングやコメントを元に分析している)、②とりわけヒアリングで指摘された最大の課題は中小企業(後記GAOの資料では資本金7億ドル以下)のおける対応が時間的に間に合わない、対応費用の負担問題等から遵守期限の延期問題や上場廃止を意図する企業も出ている(筆者注2)ことなども踏まえ、今後の行動計画を公表したので概観する。
なお、SOX法の今回取り上げた第404条問題は一連の逐条的なSEC規則の制定作業の一部である。その長期にわたる作業の全体像を鳥瞰する資料があれば筆者としても勉強したい。
1.5月10日のSEC円卓会議と最近数ヶ月間の第404条の運用と効果についての各方面からのヒアリング状況
(1)SOX法成立2年目を迎えてこれまでの関係業界・公的機関からの意見の集約のための円卓会議の開催
5月10日に開催されたが、それに先立って5月1日までに広く関係者から内部統制に関する報告および監査規定に関し意見を求めており、この集約結果も含め円卓会議で議論が行われた。(筆者注2)(筆者注3)(筆者注4)
(2)4月23日に公表された「小規模公開会社におけるSEC諮問委員会最終報告(Final Report of the Advisory Committee on Smaller Public Companies to the SEC )」(筆者注5)
(3)4月に連邦会計検査院(GAO)が取りまとめた「SOX法の小規模公開企業への適用ににあたり検討すべき重要項目に関する考察結果(Sarbanes-Oxley Act:Consideration of Key Principles Needed in Addressing Implementation for Smaller Public Companies)」(筆者注6)
2.今後SECが取り組む行動計画
(1)公開会社の経営者向けガイダンスの策定の準備
まず第404条に関する経営者向けガイダンス草案「Concept Release」の発行と同時にすべての公開会社が必要かつ関心を持つところのSECが最終的に目的とする経営面の査定経営手順案についてのパブコメの募集を行う。また、SOX法第404条(a)項に定める①経営者による査定時における社外監査役の適切な役割、②SECが関心を持つ第404条(b)項に定める外部監査役による監査証明の代替性についても意見を求める。
(2)SECは中小企業の法対応を支援 するため、従来からCOSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission) (筆者注7)の活動を支援してきたが、財務諸表の内部統制に関し、すべての公開会社が今後策定するガイダンスに基づき適宜対応してくれることを期待する。
またSECとして財務諸表に基づき経営者がいかに内部統制を図るかについてガイダンスの策定を行うことで中小公開会社が有用的に第404条(a)項の査定を完全なものに出来るようCOSOの追加的ガイダンスの範囲についても考慮中である。
(3)SECに出されたコメントについてみると、第404条の経営者の査定につきSECが意図した経営者からのトップダウンであり、完全に正確なリスク判断に基づくものではない。今後策定するConcept Releaseに対して寄せられた意見・情報および予想されるCOSOガイダンスから、財務諸表に基づく内部統制についてトップダウンでありかつリスク判断の実行を可能とする経営者向けガイダンスを発刊する予定である。
本ガイダンスは、404条報告につき加速的対応免除会社(non-accelerated filers)(筆者注8)および小規模公開会社の対応を確実にするため、SECは当該ガイダンスにつき企業の規模や個々の企業の実情に応じられるよう配意する予定である。
2.PCAOBの監査基準の改正
PCAOBは、本年5月17日に「財務諸表の監査時における財務諸表に対する内部統制―監査基準第2版―の改正案」を公表した。この内容はSECの提案を受けたものであり、主な改正点は次の通りである。なお、SECはPCAOBの監査基準第2版が公益ならびに投資家保護にとって一貫性のあるものとなることを保証するため、PCAOBと緊密な連携作業を行う。
(1)監査人が統合的監査において詐欺的要素に関するリスクや重大な過ちに的を絞った監査を行うことを保証するよう追い求めること。
(2)2005年5月16日付けでPCAOBが公表したガイダンスに含まれる重要な概念を組み込む。
(3)仮にあるとすれば、内部統制の効率化に向けた会社の手順の評価に対する監査人の役割を取り上げ、明確化する。
3.PCAOB検査プログラムに対するSECの監視内容等
2006年5月1日に、PCAOBは「2006年検査目標」は監査人が監査基準第2版に基づき(1)費用削減効果的な効果をあげているかどうか、②監査人の活動が2005年5月、11月に発表したガイダンスに準拠しているかどうか、である旨発表した。SECのPCAOBに対する監視の一環として、SECの要員はPCAOBの検査プログラムも含め運用内容を監視する。とりわけ、2006年のPCAOBの検査完了時において、SECの要員はPACOBの検査において監査法人に対して前記声明の実現につき適用を積極的に働きかけたかどうかにつき検査を行う。
(2) 加速的対応免除会社(non-accelerated filers)に対する遵守期限の延期
SECは加速的対応免除会社およびその監査人に対し、①近々SECが策定しようとしている経営者向けガイダンスの恩典を受けること、②PCAOBの改正基準第2版の評価・適用の機会を提供するため、加速的対応免除会社に対し404条の対応期限の短期の延期を認める予定である。しかしながら、それらの会社においてもその延期はSOX法第404条(a)項が定める会計年度開始時点または2006年12月16日までに経営者による査定(management assessment)を実施することが前提となる。
(筆者注1)5月17日付けのSECのリリースでも、SEC委員長のクリストファー・コックス(Christopher Cox)は中小企業の経営者や連邦議会の議員から指摘されているSOX法第404条の免除例外はない旨コメントしている。すなわち、投資家保護の観点から公開企業の規模の大小、外国・国内企業を問わないとしている。
(筆者注2)円卓会議の議事録のURL: http://www.sec.gov/spotlight/soxcomp/soxcomp-transcript.txt
(筆者注3)SEC事務局からの論点整理のURL:
http://www.sec.gov/spotlight/soxcomp/soxcomp-briefing0506.htm
(筆者注4)円卓会議のライブビデオも見れる。
http://www.connectlive.com/events/secicr2006/
(筆者注5) http://www.bio.org/tax/sox/20060418.pdf
(筆者注6) http://www.gao.gov/new.items/d06361.pdf(全93頁)。
(筆者注7) 「COSO内部統制フレームワーク」とは、1992年に米国のトレッドウェイ委員会組織委員会(COSO:the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)が公表した内部統制のフレームワークのことである。今日、事実上の世界標準として知られている。具体的には「要約」「フレームワーク」「外部関係者への報告」「評価ツール」(1992年)、および「『外部関係者への報告』の追補」(1994年)という5分冊からなる文書で、基本的な理論や考え方に加え、内部統制評価ツールなど内部統制の具体的な方法論と枠組みが示された。この内部統制の枠組みが「COSOの内部統制フレームワーク」あるいは「COSOフレームワーク」と呼ばれるものである。
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/coso.html参照。
(筆者注8)SECは2005年3月2日付けリリースで、2003年6月5日に遵守期限の延期措置を再度延期する措置を行っている(2006年7月15日または7月15日以降に来る最初の財務報告から内部統制に遵守が義務付けられる。)。その対象となるのがnon-accelerated filers(時価総額7,500万ドル以下の公開企業)および外国の非公開証券発行者である。
http://www.sec.gov/news/press/2005-25.htm
Copyrights (c)2006 福田平冶 All rights Reserved
すなわち、わが国の企業にとって米国の証券取引委員会(SEC)に登録または登録予定している企業の子会社や支店には同法が適用されるし、また第404条「経営者による内部統制の評価」については今後わが国の法令・基準等に取り入れられることは間違いないといえる。
去る5月17日にSECは①公開会社のための内部統制遵守ガイダンスを公開会社会計監視委員会(the Public Company Accounting Oversight Board;PCAOB)と共同で策定する(これらの背景としては最近数ヶ月間にわたる投資家、公開会社、監査役等から大規模なヒアリングやコメントを元に分析している)、②とりわけヒアリングで指摘された最大の課題は中小企業(後記GAOの資料では資本金7億ドル以下)のおける対応が時間的に間に合わない、対応費用の負担問題等から遵守期限の延期問題や上場廃止を意図する企業も出ている(筆者注2)ことなども踏まえ、今後の行動計画を公表したので概観する。
なお、SOX法の今回取り上げた第404条問題は一連の逐条的なSEC規則の制定作業の一部である。その長期にわたる作業の全体像を鳥瞰する資料があれば筆者としても勉強したい。
1.5月10日のSEC円卓会議と最近数ヶ月間の第404条の運用と効果についての各方面からのヒアリング状況
(1)SOX法成立2年目を迎えてこれまでの関係業界・公的機関からの意見の集約のための円卓会議の開催
5月10日に開催されたが、それに先立って5月1日までに広く関係者から内部統制に関する報告および監査規定に関し意見を求めており、この集約結果も含め円卓会議で議論が行われた。(筆者注2)(筆者注3)(筆者注4)
(2)4月23日に公表された「小規模公開会社におけるSEC諮問委員会最終報告(Final Report of the Advisory Committee on Smaller Public Companies to the SEC )」(筆者注5)
(3)4月に連邦会計検査院(GAO)が取りまとめた「SOX法の小規模公開企業への適用ににあたり検討すべき重要項目に関する考察結果(Sarbanes-Oxley Act:Consideration of Key Principles Needed in Addressing Implementation for Smaller Public Companies)」(筆者注6)
2.今後SECが取り組む行動計画
(1)公開会社の経営者向けガイダンスの策定の準備
まず第404条に関する経営者向けガイダンス草案「Concept Release」の発行と同時にすべての公開会社が必要かつ関心を持つところのSECが最終的に目的とする経営面の査定経営手順案についてのパブコメの募集を行う。また、SOX法第404条(a)項に定める①経営者による査定時における社外監査役の適切な役割、②SECが関心を持つ第404条(b)項に定める外部監査役による監査証明の代替性についても意見を求める。
(2)SECは中小企業の法対応を支援 するため、従来からCOSO(the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission) (筆者注7)の活動を支援してきたが、財務諸表の内部統制に関し、すべての公開会社が今後策定するガイダンスに基づき適宜対応してくれることを期待する。
またSECとして財務諸表に基づき経営者がいかに内部統制を図るかについてガイダンスの策定を行うことで中小公開会社が有用的に第404条(a)項の査定を完全なものに出来るようCOSOの追加的ガイダンスの範囲についても考慮中である。
(3)SECに出されたコメントについてみると、第404条の経営者の査定につきSECが意図した経営者からのトップダウンであり、完全に正確なリスク判断に基づくものではない。今後策定するConcept Releaseに対して寄せられた意見・情報および予想されるCOSOガイダンスから、財務諸表に基づく内部統制についてトップダウンでありかつリスク判断の実行を可能とする経営者向けガイダンスを発刊する予定である。
本ガイダンスは、404条報告につき加速的対応免除会社(non-accelerated filers)(筆者注8)および小規模公開会社の対応を確実にするため、SECは当該ガイダンスにつき企業の規模や個々の企業の実情に応じられるよう配意する予定である。
2.PCAOBの監査基準の改正
PCAOBは、本年5月17日に「財務諸表の監査時における財務諸表に対する内部統制―監査基準第2版―の改正案」を公表した。この内容はSECの提案を受けたものであり、主な改正点は次の通りである。なお、SECはPCAOBの監査基準第2版が公益ならびに投資家保護にとって一貫性のあるものとなることを保証するため、PCAOBと緊密な連携作業を行う。
(1)監査人が統合的監査において詐欺的要素に関するリスクや重大な過ちに的を絞った監査を行うことを保証するよう追い求めること。
(2)2005年5月16日付けでPCAOBが公表したガイダンスに含まれる重要な概念を組み込む。
(3)仮にあるとすれば、内部統制の効率化に向けた会社の手順の評価に対する監査人の役割を取り上げ、明確化する。
3.PCAOB検査プログラムに対するSECの監視内容等
2006年5月1日に、PCAOBは「2006年検査目標」は監査人が監査基準第2版に基づき(1)費用削減効果的な効果をあげているかどうか、②監査人の活動が2005年5月、11月に発表したガイダンスに準拠しているかどうか、である旨発表した。SECのPCAOBに対する監視の一環として、SECの要員はPCAOBの検査プログラムも含め運用内容を監視する。とりわけ、2006年のPCAOBの検査完了時において、SECの要員はPACOBの検査において監査法人に対して前記声明の実現につき適用を積極的に働きかけたかどうかにつき検査を行う。
(2) 加速的対応免除会社(non-accelerated filers)に対する遵守期限の延期
SECは加速的対応免除会社およびその監査人に対し、①近々SECが策定しようとしている経営者向けガイダンスの恩典を受けること、②PCAOBの改正基準第2版の評価・適用の機会を提供するため、加速的対応免除会社に対し404条の対応期限の短期の延期を認める予定である。しかしながら、それらの会社においてもその延期はSOX法第404条(a)項が定める会計年度開始時点または2006年12月16日までに経営者による査定(management assessment)を実施することが前提となる。
(筆者注1)5月17日付けのSECのリリースでも、SEC委員長のクリストファー・コックス(Christopher Cox)は中小企業の経営者や連邦議会の議員から指摘されているSOX法第404条の免除例外はない旨コメントしている。すなわち、投資家保護の観点から公開企業の規模の大小、外国・国内企業を問わないとしている。
(筆者注2)円卓会議の議事録のURL: http://www.sec.gov/spotlight/soxcomp/soxcomp-transcript.txt
(筆者注3)SEC事務局からの論点整理のURL:
http://www.sec.gov/spotlight/soxcomp/soxcomp-briefing0506.htm
(筆者注4)円卓会議のライブビデオも見れる。
http://www.connectlive.com/events/secicr2006/
(筆者注5) http://www.bio.org/tax/sox/20060418.pdf
(筆者注6) http://www.gao.gov/new.items/d06361.pdf(全93頁)。
(筆者注7) 「COSO内部統制フレームワーク」とは、1992年に米国のトレッドウェイ委員会組織委員会(COSO:the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)が公表した内部統制のフレームワークのことである。今日、事実上の世界標準として知られている。具体的には「要約」「フレームワーク」「外部関係者への報告」「評価ツール」(1992年)、および「『外部関係者への報告』の追補」(1994年)という5分冊からなる文書で、基本的な理論や考え方に加え、内部統制評価ツールなど内部統制の具体的な方法論と枠組みが示された。この内部統制の枠組みが「COSOの内部統制フレームワーク」あるいは「COSOフレームワーク」と呼ばれるものである。
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/coso.html参照。
(筆者注8)SECは2005年3月2日付けリリースで、2003年6月5日に遵守期限の延期措置を再度延期する措置を行っている(2006年7月15日または7月15日以降に来る最初の財務報告から内部統制に遵守が義務付けられる。)。その対象となるのがnon-accelerated filers(時価総額7,500万ドル以下の公開企業)および外国の非公開証券発行者である。
http://www.sec.gov/news/press/2005-25.htm
Copyrights (c)2006 福田平冶 All rights Reserved
0 Comments:
Post a Comment
<< Home