EUにおけるICTの取組みと国民が電子政府サービスに求めるものは何か(その1)
わが国の電子政府の取組みが極めて一元的かつ体系的とは言いがたいが、着実に進んでいることは間違いない(筆者注1)。この分野での先進国が並ぶEUのIT社会への取組みを概観するとともに、その重要な目標の1つである「高品質の公共サービス」について加盟国の国民の本音はどこにあるのか、この問題につき中心となる「eUSER」プロジェクトの調査結果がこのほど公表された。
EUのIT社会へ取り組み自体かなり複雑な経緯をたどるとともに経済・社会システムの変革問題等と複雑に絡む問題も多く、これらの問題を整理しながら、各種問題点についてのポイントを2回に分けて紹介する。このことは、わが国が今後取り組むべき「電子政府」や「電子自治体サービス」への課題をまとめる上でも参考となろう。
1.EUのICT(情報通信技術)政策の過去と今後
EUは1999年12月の欧州委員会報告「eEurope-すべてのUE加盟国の国民のための情報社会」に基づくeEurope戦略(リスボン戦略)が欧州理事会で2000年3月に承認されたことに始まっている。これを受けて2000年5月に「eEurope 2002 Action Plan」が策定され、2001年3月に欧州委員会はその評価を含めた報告書「eEurope 2002-効果と優先課題」を発表している。さらに2002年5月には後継の3年計画である「eEurope 2005 Action Plan 」を策定し、同理事会の承認を受けている。
その後、2005年2月には経済成長の低迷、労働生産性の・失業率の改善等が見られないことから、eEurope戦略の原型となったリスボン戦略そのものの見直し、すなわち成長と雇用問題を重点分野とする戦略に見直し、2005年3月の理事会で「i2010(2010年に向けた欧州情報社会)」を承認した。
この見直しの過程で知識や技術革新の持続とともに①ブロードバンド最ビスの提供を中心とする単一欧州情報空間の創設、②EU以外の主たる競争国との格差の縮小のため、研究・開発の効率性向上、③国民すべてが共有でき、かつ高品質な公共サービスが提供されることによる生活の質の向上、の3本柱とするものである。
2.ICT政策実現のための重点的研究開発プロジェクト
前記戦略に基づくEUの研究開発政策は、欧州委員会が補助金給付を行い、市場での活動の前段階で一期間毎に計画を見直しつつ各国機関や民間企業、大学等が共同研究開発を行うフレームワークプログラム(FP)が1984年以降行われている。現在は第6期(2002年~2006年:5年間の総予算のうちICT分野が3割強を占めている)の最終段階にあるが、第5期(1999年~2002年)の6テーマのうち4テーマを変更している。
また、2007年から2013年の期間で取り組む第7期の内容は、基本的に第6期項目を承継しているが、具体的には、①健康管理、②食料・農業・バイテクノロジー、③情報通信技術、④ナノサイエンス・ナノテクノロジー・素材・新製造技術、⑤エネルギー、⑥環境と気候変化、⑦輸送・航空学、⑦社会経済と人文科学、⑧宇宙とセキュリティ研究の8分野である(その他、溶融エネルギー研究と核分裂・放射線防御はユーロアトムFPが取扱う)。また、より知識集約型のプロジェクトを目的とするもので、
委員会が2005年4月に提案した7年間の総予算規模は727億2,600万ユーロでFP6の総予算178億8,300万ユーロに比べ、単年度比較で約2.9倍となっている。(筆者注2)
3.IST(Information Society Technology)を中心とする情報通信技術分野の研究開発活動
ISTの目的は、知識集約社会の中心となる技術分野においてEUのリーダーシップを確立させ、ビジネスや産業分野に改革と競争を導き、ひいてはEU全体の利益をもたらすことにある。Advisory Groupをかかえており、FP6では次のような優先テーマ・重点プロジェクトに取り組んでいる。(筆者注3)
(1)主要な社会・経済における新たな挑戦
①グローバルな信頼性とセキュリティの枠組み造り
②革新的な政府のためのICTの研究(電子政府関連)
③ネットワーク化されたビジネスのためのICTの研究
④運輸関係の共同化システム(ESafety)
⑤より健康な生活のための統合化された生物医学情報
⑥技術で補強された「eLearnig」
⑦先端的なグリッド技術(筆者注4)、システム、サービス
⑧環境リスク管理のためのICT
⑨eInclusion(生涯学習統合プログラム(Integrated Lifelong Learning Programme)のもと、デジタル識字率や他の情報通信能力向上のため、デジタル化による社会進出を促進するためのプログラム)
⑩拡大EUにおけるICT研究の統合
⑪高齢化社会における生活補助環境(Ambient Assisted Living)
(2)コミュニケーション、コンピューティングおよびソフトウエア
①万人のためのブロードバンド
②3Gを超えた携帯電話、無線システムおよびホーム・プラットフォーム
③ネットワーク化されたAVシステムとホーム・プラットフォーム
④組み込み型システム
(3)構成要素とミクロシステム
①徴微細エレクトロニックス(Nanoelectronics)
②ミクロ・ナノに基づくサブシステム
③ナノ・ミクロ統合のための技術と素子
④光通信の構成要素(photonic components)
(4)知識とインターフェイス技術
①Multi modal Interface(マン・マシン・インタフェースの形式を増やしたユーザー・インタフェースで、ペン入力や音声入力などあらゆる入力手段があり、出力も画像や音声などを利用したマルチメディアに対応し、3次元表示もできる)
②意味論(Semantic)ベースの知識と内容に関するシステム
③認知システム(Cognitive System)
④先端のロボット工学
⑤オーディオ・ビジュアルの内容に関する検索エンジン
(5)将来および想定される新技術
(6)国際協力(International Co-operation)
(筆者注1)2002年OECDの「Information Technology Outlook」においてICT分野における国民1人当たり研究費の投資額の平均比較が行われているが、EUが80ユーロ(約11,360円)に対し、わが国が400ユーロ(約56,800円)、米国が350ユーロ(約49,700円)となっている。このICT分野の予算問題は、本年3月に欧州議会・EU理事会において「情報社会・メデイア委員会」委員長のヴィヴィアン・レデイングがEUにおける予算額の減少によるEU全体の競争力低下問題としての警告をわが国や米国と比較のもとに行っている。
http://cordis.europa.eu/fetch?CALLER=FP7_NEWS&ACTION=D&RCN=25397&DOC=5&CAT=NEWS&QUERY=
(筆者注2)FP6の予算
http://cordis.europa.eu.int/fp6/budget.htm
FP7の予算
http://www.cordis.lu/fp7/breakdown.htm
EUにおける2005年行動計画(eEurope Action Plan 2005)の目玉としてeサービスの具体的プロジェクトのために資金援助策として、コスト支援を行う「eTEN」が取り上げられている。先行するプロジェクトへの資金支援を行い、平等な汎EU化を目指すもので、対象となるプロジェクトの範囲は、①eGovernment 、②eHealth、③eLearning、④eInclusion、⑤信用とセキュリティ(EU域内の電子署名、暗号化の普及)等である。
http://europa.eu.int/information_society/activities/eten/library/about/brochure/index_en.htm
(筆者注3)ISTの研究成果は、「IST Results」のサイトで確認できるし、ニュースの受信を登録することも出来る。また、EU全体のR&Dの研究成果の総合窓口ポータルである「CORDIS」でもIST関連の情報の入手が可能であるし、一定の手続きを踏んでパスワード等を登録すれば、「Professional Search」が出来る。
(筆者注4) 「Grid」とは情報コンセントに接続するだけでネットワークを通じて安全、安定、容易に情報サービスが享受できる次世代インフラである。また、「Grid computing」とは、コンピュータ資源を有効に利用し、高速ネットワークによる無限大のスケーラビリティを実現する広域ネットワークを用いた分散並列計算環境のこと。
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EUのIT社会へ取り組み自体かなり複雑な経緯をたどるとともに経済・社会システムの変革問題等と複雑に絡む問題も多く、これらの問題を整理しながら、各種問題点についてのポイントを2回に分けて紹介する。このことは、わが国が今後取り組むべき「電子政府」や「電子自治体サービス」への課題をまとめる上でも参考となろう。
1.EUのICT(情報通信技術)政策の過去と今後
EUは1999年12月の欧州委員会報告「eEurope-すべてのUE加盟国の国民のための情報社会」に基づくeEurope戦略(リスボン戦略)が欧州理事会で2000年3月に承認されたことに始まっている。これを受けて2000年5月に「eEurope 2002 Action Plan」が策定され、2001年3月に欧州委員会はその評価を含めた報告書「eEurope 2002-効果と優先課題」を発表している。さらに2002年5月には後継の3年計画である「eEurope 2005 Action Plan 」を策定し、同理事会の承認を受けている。
その後、2005年2月には経済成長の低迷、労働生産性の・失業率の改善等が見られないことから、eEurope戦略の原型となったリスボン戦略そのものの見直し、すなわち成長と雇用問題を重点分野とする戦略に見直し、2005年3月の理事会で「i2010(2010年に向けた欧州情報社会)」を承認した。
この見直しの過程で知識や技術革新の持続とともに①ブロードバンド最ビスの提供を中心とする単一欧州情報空間の創設、②EU以外の主たる競争国との格差の縮小のため、研究・開発の効率性向上、③国民すべてが共有でき、かつ高品質な公共サービスが提供されることによる生活の質の向上、の3本柱とするものである。
2.ICT政策実現のための重点的研究開発プロジェクト
前記戦略に基づくEUの研究開発政策は、欧州委員会が補助金給付を行い、市場での活動の前段階で一期間毎に計画を見直しつつ各国機関や民間企業、大学等が共同研究開発を行うフレームワークプログラム(FP)が1984年以降行われている。現在は第6期(2002年~2006年:5年間の総予算のうちICT分野が3割強を占めている)の最終段階にあるが、第5期(1999年~2002年)の6テーマのうち4テーマを変更している。
また、2007年から2013年の期間で取り組む第7期の内容は、基本的に第6期項目を承継しているが、具体的には、①健康管理、②食料・農業・バイテクノロジー、③情報通信技術、④ナノサイエンス・ナノテクノロジー・素材・新製造技術、⑤エネルギー、⑥環境と気候変化、⑦輸送・航空学、⑦社会経済と人文科学、⑧宇宙とセキュリティ研究の8分野である(その他、溶融エネルギー研究と核分裂・放射線防御はユーロアトムFPが取扱う)。また、より知識集約型のプロジェクトを目的とするもので、
委員会が2005年4月に提案した7年間の総予算規模は727億2,600万ユーロでFP6の総予算178億8,300万ユーロに比べ、単年度比較で約2.9倍となっている。(筆者注2)
3.IST(Information Society Technology)を中心とする情報通信技術分野の研究開発活動
ISTの目的は、知識集約社会の中心となる技術分野においてEUのリーダーシップを確立させ、ビジネスや産業分野に改革と競争を導き、ひいてはEU全体の利益をもたらすことにある。Advisory Groupをかかえており、FP6では次のような優先テーマ・重点プロジェクトに取り組んでいる。(筆者注3)
(1)主要な社会・経済における新たな挑戦
①グローバルな信頼性とセキュリティの枠組み造り
②革新的な政府のためのICTの研究(電子政府関連)
③ネットワーク化されたビジネスのためのICTの研究
④運輸関係の共同化システム(ESafety)
⑤より健康な生活のための統合化された生物医学情報
⑥技術で補強された「eLearnig」
⑦先端的なグリッド技術(筆者注4)、システム、サービス
⑧環境リスク管理のためのICT
⑨eInclusion(生涯学習統合プログラム(Integrated Lifelong Learning Programme)のもと、デジタル識字率や他の情報通信能力向上のため、デジタル化による社会進出を促進するためのプログラム)
⑩拡大EUにおけるICT研究の統合
⑪高齢化社会における生活補助環境(Ambient Assisted Living)
(2)コミュニケーション、コンピューティングおよびソフトウエア
①万人のためのブロードバンド
②3Gを超えた携帯電話、無線システムおよびホーム・プラットフォーム
③ネットワーク化されたAVシステムとホーム・プラットフォーム
④組み込み型システム
(3)構成要素とミクロシステム
①徴微細エレクトロニックス(Nanoelectronics)
②ミクロ・ナノに基づくサブシステム
③ナノ・ミクロ統合のための技術と素子
④光通信の構成要素(photonic components)
(4)知識とインターフェイス技術
①Multi modal Interface(マン・マシン・インタフェースの形式を増やしたユーザー・インタフェースで、ペン入力や音声入力などあらゆる入力手段があり、出力も画像や音声などを利用したマルチメディアに対応し、3次元表示もできる)
②意味論(Semantic)ベースの知識と内容に関するシステム
③認知システム(Cognitive System)
④先端のロボット工学
⑤オーディオ・ビジュアルの内容に関する検索エンジン
(5)将来および想定される新技術
(6)国際協力(International Co-operation)
(筆者注1)2002年OECDの「Information Technology Outlook」においてICT分野における国民1人当たり研究費の投資額の平均比較が行われているが、EUが80ユーロ(約11,360円)に対し、わが国が400ユーロ(約56,800円)、米国が350ユーロ(約49,700円)となっている。このICT分野の予算問題は、本年3月に欧州議会・EU理事会において「情報社会・メデイア委員会」委員長のヴィヴィアン・レデイングがEUにおける予算額の減少によるEU全体の競争力低下問題としての警告をわが国や米国と比較のもとに行っている。
http://cordis.europa.eu/fetch?CALLER=FP7_NEWS&ACTION=D&RCN=25397&DOC=5&CAT=NEWS&QUERY=
(筆者注2)FP6の予算
http://cordis.europa.eu.int/fp6/budget.htm
FP7の予算
http://www.cordis.lu/fp7/breakdown.htm
EUにおける2005年行動計画(eEurope Action Plan 2005)の目玉としてeサービスの具体的プロジェクトのために資金援助策として、コスト支援を行う「eTEN」が取り上げられている。先行するプロジェクトへの資金支援を行い、平等な汎EU化を目指すもので、対象となるプロジェクトの範囲は、①eGovernment 、②eHealth、③eLearning、④eInclusion、⑤信用とセキュリティ(EU域内の電子署名、暗号化の普及)等である。
http://europa.eu.int/information_society/activities/eten/library/about/brochure/index_en.htm
(筆者注3)ISTの研究成果は、「IST Results」のサイトで確認できるし、ニュースの受信を登録することも出来る。また、EU全体のR&Dの研究成果の総合窓口ポータルである「CORDIS」でもIST関連の情報の入手が可能であるし、一定の手続きを踏んでパスワード等を登録すれば、「Professional Search」が出来る。
(筆者注4) 「Grid」とは情報コンセントに接続するだけでネットワークを通じて安全、安定、容易に情報サービスが享受できる次世代インフラである。また、「Grid computing」とは、コンピュータ資源を有効に利用し、高速ネットワークによる無限大のスケーラビリティを実現する広域ネットワークを用いた分散並列計算環境のこと。
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