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Friday, May 05, 2006

ドイツの「資本投資家保護モデル手続法」の施行とクラス・アクション問題

ドイツでは2005年11月1日に標記法律「Kapitalanleger
musterverfahrensgesetz(KapMuG)」(筆者注1)が施行された。同法律は、多数の投資家による裁判上の請求を類型化・集約化して裁判の促進を図る「新たな訴訟手続き」である。例えば、米国の「class action 」や英国の「group action」に相当するものであるが、従来ドイツにはクラス・アクションに相当する証券取引法等法律や制度はなかった。この制度の導入の背景は、多数の投資家が投資銀行等1社の被告を訴追する手続上の困難さを解決することにある。最近では、2005年にフランクフルトの連邦地方裁判所(Regional Court)に対し約1万5千人の投資家がドイツ・テレコムAGに対する証券訴訟を起したことがあげられる。(筆者注2)
さらに、ドイツの民事訴訟手続は個々人がそれぞれ請求を行うことが原則となっており、その結果、請求者は実質的に高い訴訟コストを負担するリスク、すなわち複雑化し、費用のかかる専門家(弁護士等)の意見を要するというリスクを負担することになる点である。このため請求訴訟の阻害要因となっていたのである。

 KapMuGが取り組んだ解決策は、「モデル手続」という概念を導入したものである。すなわち、10以上の類似の個人の損害賠償請求訴訟において関係する事実や法律に関する訴因を1つに集約化し、連邦上級裁判所(Bundesgerichthof(Higher Regional Court))の判決内容は、すべての原告に対し拘束力を持つとするものである。同法は、①資本市場に関する虚偽、欺きや不完全な情報に基づく投資家からの損害賠償の補償請求、および②企業買収法(Wertpapiererwerbs und Übernahmegesetz (WpÜG))(筆者注3)に基づき規制される申出から生じる特定の契約の履行にかかる請求を取り込むものである。損失を被った投資家だけでなく、裁判所や被告企業にとってメリットがあり、資本市場分野における紛争解決に簡易かつ迅速な道を開いたものである。

 つまり、すべての証券の発行者、その他の投資に関する公開買付け申出人、投資銀行、取締役会や諮問委員会のメンバー、その他WpÜGの定める入札者等は潜在的に関係すると見るのである。

なお、モデル手続自体、ドイツにおいて民事訴訟分野における新たな手続であり、5年間の時限立法である。法務省は改めて本法の効果を評価し、成功と判断した時点で集団訴訟に関する一般ルールとして制度化するとしている。(筆者注4)

以下、モデル手続の主な段階に則して概略を説明する。(筆者注5)

(1)訴訟の開始段階
 第一審(筆者注6)において、なお個々の投資家は別個の独立した訴訟を提起することになる。しかし、被告側を管轄する裁判所は新法に基づき新法のもとで取り上げられるすべての訴訟について排他的裁判管轄を行うことになる(1条、14条、16条)。この唯一の例外は被告企業が海外の企業の場合である。
 
(2)モデル手続の適用段階
 一度訴訟が開始されると原告または被告は既存または確定できていないという理由の前提条件をもって、モデル手続の適用の宣告を上級裁判所に請求できる。本宣告は同種の請求についてのみなしうるもので、その内容を新たに公衆の閲覧に供するため電子的に公示(電子版法律官報)されることになる。

(3)モデル手続段階
 モデル手続は4か月間内に起訴された同様の10件以上の案件に適用される。上級裁判所はモデル手続に基づき排他的裁判管轄権を持ち、モデル請求者1名を選任する。モデル請求者は、モデル訴訟を継続するとともに他の参加原告は独自の意見を述べる権利を有する。個々の訴訟は開始されるとともに、モデル訴訟が終了するまで延長される。モデル訴訟における和解は原告全員の同意がある場合のみ成立する。モデル手続に伴う追加的裁判所および弁護士にかかる費用の負担はない。同時に、一般原則と異なり、裁判所が指名する法律専門家等に関する追加的費用の前払いも不要である。

(4)個々の訴訟に関する判決の効果
 モデル手続の判決は、当該決定以降に開始するすべての訴訟(下級裁判所を含む)を拘束する(既判力(res judicata)を有すること)(16条)。原告の個別訴訟に関しては、裁判所はモデル手続に服従しない事実や法律については独自に決定せねばならない。
 また、モデル判決についていったん終結すると、一般的な関心から連邦最高裁判所や上級裁判所が控訴を認めるか否かの裁量権はない。

(筆者注1)KapMuG(英文訳はドイツ法務省によると「Capital Market Model Case Act」)のわが国での解説はあまり多くないように思える。例えば、福岡大学法学部の久保助教授が「福岡大学法学論叢」平成17年6月号で草案を紹介されている。ドイツ法務省の英文サイトでは、同法の①制定の経緯、②適用対象訴訟、③裁判手順、④原告・被告にとってのメリット、⑤米国のクラス・アクションとの相違点が簡潔に説明されている。
http://www.bmj.bund.de/media/archive/1056.pdf
また、全条文の英訳も添付されている。
http://www.bmj.bund.de/media/archive/1110.pdf
(筆者注2)
http://www.herbertsmith.com/NR/rdonlyres/7D3A2842-E042-4D8B-8ECA-A0DF40CF5B83/1176/Litigation_e_bulletin_04_July05.html
(筆者注3)ドイツでは、企業買収法とともに関連する株式会社法等の改正を含む一括改正法「有価証券取得のための公開買付けの申出ならびに企業買収の規制のための法律(Gesetz zur Regelung von öffentlichen Angeboten zum Erwerb von Wertpapieren und von Unternehmensübernahmen)」が 2002年1月1日付で施行されている。
(筆者注4)KapMuGの制定は、関係するドイツの法律、例えば「株式取引所法(Börsengesetz)」、「憲法裁判所法(Gerichtsverfassungsgesetz)」、「証券販売員への手数料供託規則(VerkProspG)」、「弁護士報酬法(Rechtsanwaltsvergütungsgesetz)」等の改正を伴うこととなった。
(筆者注5)連邦上級裁判所の役割がキーになるが、その点についての法的な詳しい解説は、以下のURLに詳しい。
http://www.bakernet.com/NR/rdonlyres/995086F2-1FA6-4A72-80E6-588ED7E67233/0/ELDBOctober2005Vol17Number4.pdf
(筆者注6)ドイツの司法制度では憲法裁判所(Bundesverfassungsgerichit)、通常裁判所、特別裁判所(労働裁判所(Bundesarbeitsgericht)、行政裁判所(Bundeswerwaltungsgericht)、社会裁判所(Bundessozialgericht)、財政裁判所(Bundesfinanzhof)等)からなり、各裁判所は連邦と16州の裁判所から構成されている。一般的に、州裁判所が第一審又は第二審となり連邦裁判所が最終上訴審となる。

〔参照URL〕
http://www.ashursts.com/doc.aspx?id_Content=2035
http://www.jura.uni-augsburg.de/prof/moellers/aktuelles/bt-beschl_kapmug.html

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