英国公正取引庁はクレジット会社が定める遅延損害金等の引き下げを強く要請
英国の公正取引庁(OFT)(筆者注1)は、4月5日に今後クレジットカード会社8社が課す①遅延損害金(late payment)、②与信限度超過金(exceeding a credit limit)という「default charges」について、5月31日までに12ポンド(約2,436円)以下とするよう強力な警告声明を発した。自ら「消費者のための番犬(Watchdog)」と呼ぶOFTであるが、2005年7月にクレジットカード会社8社に対し20ポンド(約4,060円)から25ポンド(約5,075円)とされる水準の引下げが主たる内容である。実はこのような声明を出す背景には、議会で論議されている「1974年消費者信用法」の改正により、新たに免許権を持つというような点もあり、関係業界への早めの取組み姿勢があると思われる(ただし、OFT自体、銀行の当座貸越し(bank overdrafts)、ストア・カード(筆者注2)、住宅ローン(mortgages)についても、今回のOFTの実費原則が適用されるとしており、APACSや銀行協会等関係団体との意見調整にはなお時間がかかろう)。
一方、わが国では、利息制限法の上限金利と出資法の上限金利間のいわゆるグレーゾーン問題に関して、本年1月13日および19日の最高裁判決(筆者注3)を受けた政府の規制強化の動きに対し、消費者金融大手はその対応を迫られているが、この問題についてOFTはどのように受け止めるであろうか。
1.OFTの警告声明文の要旨
(1) default chargesの金額はあくまで、カード発行者の管理コスト(certain limited administrative costs)相当であるべきであり、現行の各社の手数料は明らかに上回っている。適正なコストとは、郵便料金、文房具代、担当者の人件費、IT費用等である。このためOFTは適切なdefault chargesの金額の線引きとして12ポンドを用意した。
(2) OFTとしては、決して12ポンドに一律集約するつもりもないし、最終的な判断を行う裁判所がこの金額以下であるから「不公正」でないと判断するという保証はない。
なお、例外的なdirect debit等ビジネス取引の要素がある場合はこの線引きの適用除外となる。
(3)各カード発行業者が緊急に今回の線引きに則し手数料の引下げを行うことを期待するが、その狙いとするところは不公平な手数料金額を請求されている消費者を保護し、銀行が積極的に競争原理を市場に反映することにある。仮に、市場が対応しない場合は今後司法の場で決着をつけることになる。
2.OFTの一連の動きの背景と英国の「1974年消費者信用法」の改正の動き
現英国議会に上程(筆者注4)されている「Consumer Credit Bill」は、1974法の改正法であるが、今回の改正の主な特徴は次の内容である。(筆者注5)
(1)消費者の権限強化策として効率的な紛争解決手段の提供
①現行法の違法要件である「著しく高い金利(extortionate credit)」を「不公平な(unfair)」に見直す。
②通常の裁判手段のほかに裁判外紛争解決(ADR)を導入する。この手段はすでに「金融オンブズマン・サービス(FOS)」(筆者注6)で運用されているが、裁判に比べ迅速、低廉、簡易である。この場合の違法性に判断基準となるのが「unfair credit relationship test」であるが、この基準は裁判において、契約の交渉再開や破棄といった救済手段を認めるもので、消費者にとって具体的権利強化につながる。
(2)消費者信用の規制監督の強化
①OFTに免許権を与え市場から違法業者を排除する。免許の付与に当りOFTが厳格なチェックを行うとともに、違反行為には行政上の制裁金(financial penalty)を課す。
②署名した契約内容について業者からの情報開示義務を保証・強化する。借り手は契約期間中債務状況に関する情報の入手が可能となり、また貸手は法律に定められた情報提供のほか、履行遅延(arrears)等問題が生じたときの情報提供が義務付けられる。
(3)異なるタイプの消費者信用においても適正な規制対象化
①現行の25,000ポンド(約507万5,000円)以上と言うキャップを撤廃し、消費者保護の範囲を拡大する。
②不備のある契約内容に対する法的執行力についてバランスの取れた手段を導入する。
(4)消費者信用法の唯一の適用除外
金融サービス機構(FSA)が監督する「住宅ローン」である。このようなビジネス取引については小規模な貸手による少額のもの以外は消費者信用法の適用外となる。
3.関係団体の反発
英国のカード発行業者の共同機関であるAPACS(Association for Payment Clearing Services)、英国銀行協等は次のような反論を述べている。
(1)APACSの最高経営責任者であるポール・スミー(Paul Smee)は、今回のOFTの生命はクレジットカード会社8社のみの情報に基づくものでの残りのカード会社やAPACSの参加は認められなかった。個々のカード会社が自社ごとに解散を5月31日までに行うことは負担となる。
(2)英国銀行協会の最高経営責任者であるイアン・マレン(Ian Mullen)はOFTの声明が当座座貸越しまで及んでいる点に驚いている。銀行業界としては消費者信用に適用されるdefault chargeを当座貸越しに適用することは認めない。
4.消費者団体の反応
いずれも歓迎しているが、Citizen Advice等は裁判における借り手の立証責任(burden of proof)問題が法改正においてどのようになるか懸念材料としてあげている。
最後にOFTの声明文中で気になった点を述べておく。
消費者保護団体が発達している英国ならではのことであろうが、手数料水準の最後の決定者は裁判所であり、そこに持ち込む覚悟を持つこと、消費保護団体との緊密な相談によるアドバイスを求めるよう勧告している点である。わが国の消費者はどのように行動するであろうか。
(筆者注1)OFTはわが国で言うと内閣府の外局である公正取引委員会、内閣府、さらに現国会に上程されている「改正消費者信用法」が成立した場合はクレジット会社や消費者信用機関の免許権が付与されることになり、金融サービス機構のような金融監督機関の性格を兼ね備えた独立機関となる。
従来の基本的な機能は、①カルテルや市場占有力の濫用の禁止・処罰等の具体的行動・処罰、②前記①を実行ならしむため必要に応じ裁判手段を利用、③企業の実践的行動規範(codes of practice)等による自主規制を奨励するなどの行動、④企業活動において、企業や消費者の競争的な環境が法律等に準じたものとなっているかの調査、⑤消費者の利益が大規模に犯されているとする消費者団体の苦情への対応、⑥消費者への権利・義務等についての情報提供、等である。
(筆者注2)英国における「ストア・カード」の意義と定義を述べておく。大きな社会的問題となっているのは次の点にある。ストア・カードは小売店やサービス店が発行する与信カードであるが、その金利は年利換算(APRs)で25%~30%と極めて高く、このため同国の「競争委員会(Competition Commission):1998年競争法(Competition Act)に基づき設置された独立公的機関で、1999年4月1日に独占合併委員会(Monopoly and Mergers Commission)に取って代わった。2002年企業法(Enterprise Act)が英国の企業合併における独占問題について決定を下す役目を担っている。」では、この問題について以下のような専門サイトを作り、また、本年3月7日にはストア・カード問題についての最終報告を公表している。そのポイントは、①年利がクレジットカード等に比較して10%から20%高い、②消費者の被る損失は年間5,500万ポンド(約111億6,500万円)である。このための救済策は、①カード保有者にクレジットカードの利用を勧める、②より低廉な(APRsで2%~3%低い)ダイレクトでビットの利用を勧奨する等である。
〔専門サイトのURL〕http://www.competition-commission.org.uk/inquiries/current/storecard/index.htm
(筆者注3)本年1月の最高裁判所は、貸金業の規制等に関する法律43条(みなし弁済規定)について、利息制限法に定める制限利息を超過する利息を支払うことが事実上強制される場合は「任意に支払った」とは言えず、有効な利息の支払とみなすことはできないとし、「制限超過の約定金利を支払わないと期限の利益を失うとの特約による支払に任意性は認められない」とする判断を下した。
日本における金利の規制は、「利息制限法」により貸付の金額によって年15~20%を制限利息とし、それを超える約定は超過部分を無効とし、他方、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)」は年29.2%を超える利息の約定に刑事罰を定めている。その間の利息は「グレーゾーン金利」とされ、登録貸金業者には「任意の支払」など、一定の厳格な条件を満たす場合は例外的にグレーゾーン金利の取得を認めている(みなし弁済規定)。
今回の最高裁は本判決において、任意性の要件についても厳格に解釈する立場を明らかにしたが、それは、単に形式的な条文解釈を示したのではなく、みなし弁済規定自体の厳格解釈(平成16年2月20日判決)、貸金業者の取引履歴開示義務(平成17年7月19日)、リボルビング方式の場合での返済期間・返済金額等を契約書面に記載する義務(平成17年12月15日)を判示した一連の最高裁判決とともに、「利息制限法こそが高利禁止の大原則であり、これを超過する高利の受領は容易に認めるべきではない」とする司法府の立場を示したものと解される。(日弁連のサイトから引用)
(筆者注4)現行法の不当(eztortionate)な高金利の是正から「不公平(unfair)」への適用基準の変更、OFTへの免許権の付与や同国の金融オンブズマン・サービスが提供者となる裁判外紛争解決(ADR)についての改正案は、2004年12月に上程されたものであるが2005年春から施行予定であった。最新の法案内容は以下の通り。
http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/064/2006064.pdf
(筆者注5)担当省であるDTI(貿易産業省)は、法案の内容に則してQ&Aの開設資料を作成・公表している。専門的かつ平易な内容であり、わが国の担当相による味気ない「法案説明」に比べると極めて実務的である。
http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/064/2006064.pdf
(筆者注6)英国のオンブズマン・サービスの利用手続きの詳細は以下に詳しい。
http://www.financial-ombudsman.org.uk/about/our-service-standards.htm
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一方、わが国では、利息制限法の上限金利と出資法の上限金利間のいわゆるグレーゾーン問題に関して、本年1月13日および19日の最高裁判決(筆者注3)を受けた政府の規制強化の動きに対し、消費者金融大手はその対応を迫られているが、この問題についてOFTはどのように受け止めるであろうか。
1.OFTの警告声明文の要旨
(1) default chargesの金額はあくまで、カード発行者の管理コスト(certain limited administrative costs)相当であるべきであり、現行の各社の手数料は明らかに上回っている。適正なコストとは、郵便料金、文房具代、担当者の人件費、IT費用等である。このためOFTは適切なdefault chargesの金額の線引きとして12ポンドを用意した。
(2) OFTとしては、決して12ポンドに一律集約するつもりもないし、最終的な判断を行う裁判所がこの金額以下であるから「不公正」でないと判断するという保証はない。
なお、例外的なdirect debit等ビジネス取引の要素がある場合はこの線引きの適用除外となる。
(3)各カード発行業者が緊急に今回の線引きに則し手数料の引下げを行うことを期待するが、その狙いとするところは不公平な手数料金額を請求されている消費者を保護し、銀行が積極的に競争原理を市場に反映することにある。仮に、市場が対応しない場合は今後司法の場で決着をつけることになる。
2.OFTの一連の動きの背景と英国の「1974年消費者信用法」の改正の動き
現英国議会に上程(筆者注4)されている「Consumer Credit Bill」は、1974法の改正法であるが、今回の改正の主な特徴は次の内容である。(筆者注5)
(1)消費者の権限強化策として効率的な紛争解決手段の提供
①現行法の違法要件である「著しく高い金利(extortionate credit)」を「不公平な(unfair)」に見直す。
②通常の裁判手段のほかに裁判外紛争解決(ADR)を導入する。この手段はすでに「金融オンブズマン・サービス(FOS)」(筆者注6)で運用されているが、裁判に比べ迅速、低廉、簡易である。この場合の違法性に判断基準となるのが「unfair credit relationship test」であるが、この基準は裁判において、契約の交渉再開や破棄といった救済手段を認めるもので、消費者にとって具体的権利強化につながる。
(2)消費者信用の規制監督の強化
①OFTに免許権を与え市場から違法業者を排除する。免許の付与に当りOFTが厳格なチェックを行うとともに、違反行為には行政上の制裁金(financial penalty)を課す。
②署名した契約内容について業者からの情報開示義務を保証・強化する。借り手は契約期間中債務状況に関する情報の入手が可能となり、また貸手は法律に定められた情報提供のほか、履行遅延(arrears)等問題が生じたときの情報提供が義務付けられる。
(3)異なるタイプの消費者信用においても適正な規制対象化
①現行の25,000ポンド(約507万5,000円)以上と言うキャップを撤廃し、消費者保護の範囲を拡大する。
②不備のある契約内容に対する法的執行力についてバランスの取れた手段を導入する。
(4)消費者信用法の唯一の適用除外
金融サービス機構(FSA)が監督する「住宅ローン」である。このようなビジネス取引については小規模な貸手による少額のもの以外は消費者信用法の適用外となる。
3.関係団体の反発
英国のカード発行業者の共同機関であるAPACS(Association for Payment Clearing Services)、英国銀行協等は次のような反論を述べている。
(1)APACSの最高経営責任者であるポール・スミー(Paul Smee)は、今回のOFTの生命はクレジットカード会社8社のみの情報に基づくものでの残りのカード会社やAPACSの参加は認められなかった。個々のカード会社が自社ごとに解散を5月31日までに行うことは負担となる。
(2)英国銀行協会の最高経営責任者であるイアン・マレン(Ian Mullen)はOFTの声明が当座座貸越しまで及んでいる点に驚いている。銀行業界としては消費者信用に適用されるdefault chargeを当座貸越しに適用することは認めない。
4.消費者団体の反応
いずれも歓迎しているが、Citizen Advice等は裁判における借り手の立証責任(burden of proof)問題が法改正においてどのようになるか懸念材料としてあげている。
最後にOFTの声明文中で気になった点を述べておく。
消費者保護団体が発達している英国ならではのことであろうが、手数料水準の最後の決定者は裁判所であり、そこに持ち込む覚悟を持つこと、消費保護団体との緊密な相談によるアドバイスを求めるよう勧告している点である。わが国の消費者はどのように行動するであろうか。
(筆者注1)OFTはわが国で言うと内閣府の外局である公正取引委員会、内閣府、さらに現国会に上程されている「改正消費者信用法」が成立した場合はクレジット会社や消費者信用機関の免許権が付与されることになり、金融サービス機構のような金融監督機関の性格を兼ね備えた独立機関となる。
従来の基本的な機能は、①カルテルや市場占有力の濫用の禁止・処罰等の具体的行動・処罰、②前記①を実行ならしむため必要に応じ裁判手段を利用、③企業の実践的行動規範(codes of practice)等による自主規制を奨励するなどの行動、④企業活動において、企業や消費者の競争的な環境が法律等に準じたものとなっているかの調査、⑤消費者の利益が大規模に犯されているとする消費者団体の苦情への対応、⑥消費者への権利・義務等についての情報提供、等である。
(筆者注2)英国における「ストア・カード」の意義と定義を述べておく。大きな社会的問題となっているのは次の点にある。ストア・カードは小売店やサービス店が発行する与信カードであるが、その金利は年利換算(APRs)で25%~30%と極めて高く、このため同国の「競争委員会(Competition Commission):1998年競争法(Competition Act)に基づき設置された独立公的機関で、1999年4月1日に独占合併委員会(Monopoly and Mergers Commission)に取って代わった。2002年企業法(Enterprise Act)が英国の企業合併における独占問題について決定を下す役目を担っている。」では、この問題について以下のような専門サイトを作り、また、本年3月7日にはストア・カード問題についての最終報告を公表している。そのポイントは、①年利がクレジットカード等に比較して10%から20%高い、②消費者の被る損失は年間5,500万ポンド(約111億6,500万円)である。このための救済策は、①カード保有者にクレジットカードの利用を勧める、②より低廉な(APRsで2%~3%低い)ダイレクトでビットの利用を勧奨する等である。
〔専門サイトのURL〕http://www.competition-commission.org.uk/inquiries/current/storecard/index.htm
(筆者注3)本年1月の最高裁判所は、貸金業の規制等に関する法律43条(みなし弁済規定)について、利息制限法に定める制限利息を超過する利息を支払うことが事実上強制される場合は「任意に支払った」とは言えず、有効な利息の支払とみなすことはできないとし、「制限超過の約定金利を支払わないと期限の利益を失うとの特約による支払に任意性は認められない」とする判断を下した。
日本における金利の規制は、「利息制限法」により貸付の金額によって年15~20%を制限利息とし、それを超える約定は超過部分を無効とし、他方、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)」は年29.2%を超える利息の約定に刑事罰を定めている。その間の利息は「グレーゾーン金利」とされ、登録貸金業者には「任意の支払」など、一定の厳格な条件を満たす場合は例外的にグレーゾーン金利の取得を認めている(みなし弁済規定)。
今回の最高裁は本判決において、任意性の要件についても厳格に解釈する立場を明らかにしたが、それは、単に形式的な条文解釈を示したのではなく、みなし弁済規定自体の厳格解釈(平成16年2月20日判決)、貸金業者の取引履歴開示義務(平成17年7月19日)、リボルビング方式の場合での返済期間・返済金額等を契約書面に記載する義務(平成17年12月15日)を判示した一連の最高裁判決とともに、「利息制限法こそが高利禁止の大原則であり、これを超過する高利の受領は容易に認めるべきではない」とする司法府の立場を示したものと解される。(日弁連のサイトから引用)
(筆者注4)現行法の不当(eztortionate)な高金利の是正から「不公平(unfair)」への適用基準の変更、OFTへの免許権の付与や同国の金融オンブズマン・サービスが提供者となる裁判外紛争解決(ADR)についての改正案は、2004年12月に上程されたものであるが2005年春から施行予定であった。最新の法案内容は以下の通り。
http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/064/2006064.pdf
(筆者注5)担当省であるDTI(貿易産業省)は、法案の内容に則してQ&Aの開設資料を作成・公表している。専門的かつ平易な内容であり、わが国の担当相による味気ない「法案説明」に比べると極めて実務的である。
http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200506/ldbills/064/2006064.pdf
(筆者注6)英国のオンブズマン・サービスの利用手続きの詳細は以下に詳しい。
http://www.financial-ombudsman.org.uk/about/our-service-standards.htm
Copyrights (c)2006 福田平冶 All rights Reserved
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