欧州34カ国の閣僚が障害者に優しい公的ウェブサイト構築に向け再スタートに署名
6月12日にラトビアにおいて、EU加盟国、EU加盟予定国、欧州自由貿易連合加盟国(EFTA)(筆者注1)およびその他の国々の計34カ国の閣僚が2002年6月13日に行った「eInclusion」(筆者注2)決議の要求(2006年半頃までに実行)期限を延期し、2010年までに実行する旨の「eInclusion」目標宣言書に署名した。
当初の目標設定から約7年後となり、今回の決議を担保する新たな法律の制定も予定されていないため、関係者の中には法的な拘束力のない単に道義的規範ないし同盟国からの圧力による強制しかないという問題指摘もあり、責任者であるEUの「情報社会およびメデイア委員会」委員長のヴィヴィアーヌ・レデイング(Viviane Reding)(筆者注3)に対する風当たりが強くなると見られている。
1.1999年12月の「eEurope」主導(initiative)の採択
IT分野における欧州域内での格差および米国との格差を是正し、全ての欧州市民のための情報社会を構築することを目的として、採択された。このイニシアティブは、EUの重要課題である雇用、経済成長および社会の結束を固める上で、重要な政策であると位置付けられており、また、2000年3月にEU加盟国の情報化を阻むさまざまな障害を分析し、以下の10の行動計画が公表された。その7番目が障害者対策である。
(1)デジタル時代における欧州の青少年教育(European youth into digital age)(2)より安価なインターネットへのアクセス(Cheaper Internet Access)(3)電子商取引の促進(Acceleration E-Commerce)(4)研究者及び学生の為の高速インターネット(Fast Internet for researchers and students)(5)スマートカード(Smart Cards for secure electronic access)(6)ハイテク中小企業への支援(Risk capital for high-tech SMEs)(7)障害者の電子的な参画(eParticipation for the disabled)(8)オンライン健康管理(Healthcare online)(9)高度運輸サービス(Intelligent Transport)(10)オンライン政府(Government online)
この中では、デジタル技術の発展は、障害者が直面する各種障害を乗り越えるのに大きく寄与するとし、「Design-for-All」というコンセプトを用いた製品の開発をEU加盟国において推進することが計画されていた。しかし、障害者の電子的な参画を可能にする法的枠組みの整備はEU加盟国の間で格差が大きく、またEU市場における製品基準の統一も遅れているなど、欧州委員会の取り組む課題は多いとされてきた。なお、2000年以降のeEuropeのフォローの内容は以下のURLに詳しい。http://europa.eu.int/ISPO/basics/eeurope/i_europe_follow.html
2.「eEurope2002行動計画(アクションプラン)」の採択
前記2000年3月に発表されたeEuropeに基づく行動計画は、同年6月の欧州理事会において「eEurope2002」として、さらに改訂、具体化され採択された。e-accessibilityでは、eEurope2002の目標である「全ての欧州市民のための情報社会」の実現には、障害を持つ人々が情報技術への(可能な限り)最善のアクセスをすることができるようにすることが不可欠であるとし、W3C(筆者注4)が勧告として公表しているWeb Accessibility Initiative(WAI)のガイドラインの採択するというものであった。
3.2002年決議におけるアクセシビィテイの要件と加盟国の受け止め方
W3C/WAIガイドラインの「4.優先度2(アクセスできないユーザーが出ないようなチェックポイント)」および「5.適合性レベルのレベルAA(優先度の1および2を満たすもの)」の遵守を求めるものであった。しかし、その後の取組みの前進はほとんど見られず前欧州閣僚理事会の議長国であった英国は全域における436の公共部門サイトの調査を命じ、2005年11月に公表された報告ではレベルAがわずか3%で、AAやAAAを満たした国は皆無であった。今回の34カ国の署名は以上のことが背景にある。また、今回の署名において各大臣は2007年までに「アクセイビィティの標準化と共通的なアプローチに関する勧告」に同意している。
加盟国の中には今回の決議の対象が「公的ウェブサイト」のみであることは、政府や欧州委員会の設定した目標であり、より広い取組みが必要であるといった意見や障害者のIT分野の格差是正は公的部門の課題より一層高いレベルに位置づけるべきであるとしている。
4.英国におけるe-Governmentと取組みの特徴
英国の電子政府サイト(http://www.directgov.uk/)をみてすぐに気がつくと思われるが
公的情報の流れのシームレス化を最優先にすべく、政府機関間、政府と民間ビジネス間、政府と市民間(IDeA)、政府と地方自治体間(Info4local)、英国政府と外国政府間の情報の相互運用性を担保すべくe-Government Interoperability Framework(e-GIF)の徹底化を進めている。その1例がe-GIF認可機関(e-GIF Accreditation Authority)である。次の2つのプログラムを運用してその効果向上を意図している。(1)関係機関(外部サービスプロバイダー、教育プロバイダー、製造プロバイダー、中央政府機関およびその代理機関、地方政府、NDPBs(中央省庁の管轄下にない公益法人)、国営医療機関(National Health Service等)に、毎年認可条件を遵守しているかどうかについて検査に入り、その包括的報告書をまとめ、主な概要はウェブサイト上で公開する。(2)技術面から見た認可条件のチェック(相互接続、データの統合、コンテンツ、e-Servicesの アクセス性、ICカード、特定のビジネス分野の6部門を能力調査)するとともに、デザイン、開発・テスト、展開・支援、調達、販売、教育の役割について評価を行っている。なお、これらの機関業務は専門家による有料登録制となっている。(筆者注5)(筆者注6)
(筆者注1) EFTAは、現在ノルウェー、アイスランドの北欧2カ国と、スイス・リヒテンシュタインの計4カ国で構成されている。1960年に、イギリス、デンマーク、ポルトガル、ノルウェー、スウェーデン、スイス、オーストリアの7ヶ国で発足した。EUと同じく、EFTAは、加盟国間における貿易障壁 (関税や数量制限)を撤廃し、域内貿易の自由化を目標に掲げている。しかし、EUとは異なり、外部(第三国やその他の国際機関) との貿易については、関税や規則の統一を目指すものではない。つまり、EUが関税同盟に当たるのに対し、EFTAは自由貿易地域である。
EFTAの公式サイト:http://secretariat.efta.int/Web/EFTAAtAGlance/introduction
(筆者注2)2000年10月17日にEU閣僚理事会(European Council)は新たな情報と通信技術の出現はアクセスできる人間と出来ない人間との間に新たな差別を拡げるという観点から「貧困と障害者の社会からの除外に排除」を目指して『eInclusion @EUプロジェクト』を設置した。
eInclusion@EUのURL:http://www.einclusion-eu.org/
(筆者注3)http://ec.europa.eu/comm/commission_barroso/reding/index_en.htm
なお、6月11日の閣僚宣言ではICT(Information and Communication Technologies)に取り組む上で最優先課題は国家レベルでの中高年齢労働者に対する労働環境の改善が挙げられている。
(筆者注4)W3C/WAIのガイドライン「Web Content Accessibility Guidelines 1.0」は、障害のある人向けだけでなく、使用者の利用デバイスやツール(デスクトップ、ブラウザ、モバイル、車搭載PC等)を問わず、また利用環境(うるさい場所、暗い場所、手がふさがっている等)を問わず利用できるという目標を立てている。
(筆者注5)E-GIF Accreditation AuthorityのURL:
http://www.egifaccreditation.org/introduction.html
(筆者注6)e-GIFの管理者向けにその役割と優先課題について図解ガイドがある。
http://www.egifaccreditation.org/pdfs/Manager_Guidance.pdf
〔参照URL〕
http://europa.eu.int/information_society/events/ict_riga_2006/doc/declaration_riga
http://www.out-law.com/page-7005
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当初の目標設定から約7年後となり、今回の決議を担保する新たな法律の制定も予定されていないため、関係者の中には法的な拘束力のない単に道義的規範ないし同盟国からの圧力による強制しかないという問題指摘もあり、責任者であるEUの「情報社会およびメデイア委員会」委員長のヴィヴィアーヌ・レデイング(Viviane Reding)(筆者注3)に対する風当たりが強くなると見られている。
1.1999年12月の「eEurope」主導(initiative)の採択
IT分野における欧州域内での格差および米国との格差を是正し、全ての欧州市民のための情報社会を構築することを目的として、採択された。このイニシアティブは、EUの重要課題である雇用、経済成長および社会の結束を固める上で、重要な政策であると位置付けられており、また、2000年3月にEU加盟国の情報化を阻むさまざまな障害を分析し、以下の10の行動計画が公表された。その7番目が障害者対策である。
(1)デジタル時代における欧州の青少年教育(European youth into digital age)(2)より安価なインターネットへのアクセス(Cheaper Internet Access)(3)電子商取引の促進(Acceleration E-Commerce)(4)研究者及び学生の為の高速インターネット(Fast Internet for researchers and students)(5)スマートカード(Smart Cards for secure electronic access)(6)ハイテク中小企業への支援(Risk capital for high-tech SMEs)(7)障害者の電子的な参画(eParticipation for the disabled)(8)オンライン健康管理(Healthcare online)(9)高度運輸サービス(Intelligent Transport)(10)オンライン政府(Government online)
この中では、デジタル技術の発展は、障害者が直面する各種障害を乗り越えるのに大きく寄与するとし、「Design-for-All」というコンセプトを用いた製品の開発をEU加盟国において推進することが計画されていた。しかし、障害者の電子的な参画を可能にする法的枠組みの整備はEU加盟国の間で格差が大きく、またEU市場における製品基準の統一も遅れているなど、欧州委員会の取り組む課題は多いとされてきた。なお、2000年以降のeEuropeのフォローの内容は以下のURLに詳しい。http://europa.eu.int/ISPO/basics/eeurope/i_europe_follow.html
2.「eEurope2002行動計画(アクションプラン)」の採択
前記2000年3月に発表されたeEuropeに基づく行動計画は、同年6月の欧州理事会において「eEurope2002」として、さらに改訂、具体化され採択された。e-accessibilityでは、eEurope2002の目標である「全ての欧州市民のための情報社会」の実現には、障害を持つ人々が情報技術への(可能な限り)最善のアクセスをすることができるようにすることが不可欠であるとし、W3C(筆者注4)が勧告として公表しているWeb Accessibility Initiative(WAI)のガイドラインの採択するというものであった。
3.2002年決議におけるアクセシビィテイの要件と加盟国の受け止め方
W3C/WAIガイドラインの「4.優先度2(アクセスできないユーザーが出ないようなチェックポイント)」および「5.適合性レベルのレベルAA(優先度の1および2を満たすもの)」の遵守を求めるものであった。しかし、その後の取組みの前進はほとんど見られず前欧州閣僚理事会の議長国であった英国は全域における436の公共部門サイトの調査を命じ、2005年11月に公表された報告ではレベルAがわずか3%で、AAやAAAを満たした国は皆無であった。今回の34カ国の署名は以上のことが背景にある。また、今回の署名において各大臣は2007年までに「アクセイビィティの標準化と共通的なアプローチに関する勧告」に同意している。
加盟国の中には今回の決議の対象が「公的ウェブサイト」のみであることは、政府や欧州委員会の設定した目標であり、より広い取組みが必要であるといった意見や障害者のIT分野の格差是正は公的部門の課題より一層高いレベルに位置づけるべきであるとしている。
4.英国におけるe-Governmentと取組みの特徴
英国の電子政府サイト(http://www.directgov.uk/)をみてすぐに気がつくと思われるが
公的情報の流れのシームレス化を最優先にすべく、政府機関間、政府と民間ビジネス間、政府と市民間(IDeA)、政府と地方自治体間(Info4local)、英国政府と外国政府間の情報の相互運用性を担保すべくe-Government Interoperability Framework(e-GIF)の徹底化を進めている。その1例がe-GIF認可機関(e-GIF Accreditation Authority)である。次の2つのプログラムを運用してその効果向上を意図している。(1)関係機関(外部サービスプロバイダー、教育プロバイダー、製造プロバイダー、中央政府機関およびその代理機関、地方政府、NDPBs(中央省庁の管轄下にない公益法人)、国営医療機関(National Health Service等)に、毎年認可条件を遵守しているかどうかについて検査に入り、その包括的報告書をまとめ、主な概要はウェブサイト上で公開する。(2)技術面から見た認可条件のチェック(相互接続、データの統合、コンテンツ、e-Servicesの アクセス性、ICカード、特定のビジネス分野の6部門を能力調査)するとともに、デザイン、開発・テスト、展開・支援、調達、販売、教育の役割について評価を行っている。なお、これらの機関業務は専門家による有料登録制となっている。(筆者注5)(筆者注6)
(筆者注1) EFTAは、現在ノルウェー、アイスランドの北欧2カ国と、スイス・リヒテンシュタインの計4カ国で構成されている。1960年に、イギリス、デンマーク、ポルトガル、ノルウェー、スウェーデン、スイス、オーストリアの7ヶ国で発足した。EUと同じく、EFTAは、加盟国間における貿易障壁 (関税や数量制限)を撤廃し、域内貿易の自由化を目標に掲げている。しかし、EUとは異なり、外部(第三国やその他の国際機関) との貿易については、関税や規則の統一を目指すものではない。つまり、EUが関税同盟に当たるのに対し、EFTAは自由貿易地域である。
EFTAの公式サイト:http://secretariat.efta.int/Web/EFTAAtAGlance/introduction
(筆者注2)2000年10月17日にEU閣僚理事会(European Council)は新たな情報と通信技術の出現はアクセスできる人間と出来ない人間との間に新たな差別を拡げるという観点から「貧困と障害者の社会からの除外に排除」を目指して『eInclusion @EUプロジェクト』を設置した。
eInclusion@EUのURL:http://www.einclusion-eu.org/
(筆者注3)http://ec.europa.eu/comm/commission_barroso/reding/index_en.htm
なお、6月11日の閣僚宣言ではICT(Information and Communication Technologies)に取り組む上で最優先課題は国家レベルでの中高年齢労働者に対する労働環境の改善が挙げられている。
(筆者注4)W3C/WAIのガイドライン「Web Content Accessibility Guidelines 1.0」は、障害のある人向けだけでなく、使用者の利用デバイスやツール(デスクトップ、ブラウザ、モバイル、車搭載PC等)を問わず、また利用環境(うるさい場所、暗い場所、手がふさがっている等)を問わず利用できるという目標を立てている。
(筆者注5)E-GIF Accreditation AuthorityのURL:
http://www.egifaccreditation.org/introduction.html
(筆者注6)e-GIFの管理者向けにその役割と優先課題について図解ガイドがある。
http://www.egifaccreditation.org/pdfs/Manager_Guidance.pdf
〔参照URL〕
http://europa.eu.int/information_society/events/ict_riga_2006/doc/declaration_riga
http://www.out-law.com/page-7005
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