Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Tuesday, August 29, 2006

EU銀行監督委員会が商品取引業者に適切な経営・業務執行および委託者保護等に関するアンケートを実施

EU銀行監督委員会(Committee of European Banking Supervisors:CEBS)は、去る8月22日に欧州委員会からの助言要請を受けて商品取引会社および商品取引ビジネスに関するアンケート調査を10月20日締め切りで行う旨公表した(筆者注1)。筆者は、このニュースについてCEBSからのリリース・メールで読んでいたが、一般向けのニュースといえるかやや疑問もありブログに載せることに躊躇していた。しかし、昨28日に経済産業省から発せられた「平成18年度の一般委託者を対象とした商品取引の実態に関する調査委託先の公募」を読んで、改めてこの問題が、国内・国外を問わず今後金融監督面だけでなく大きな社会問題化する懸念が気になり始め、急遽まとめてみた。

 なお、筆者だけでなく多くの関係者が疑問視している点であろうが、わが国では金融サービスを広く横断的に定める「金融サービス法」ではなく、証券取引法に代る「金融商品取引法」が本年6月14日に公布され、一方、金融取引の消費者保護法である「金融商品販売法」は引続き機能している(筆者注3)。
この問題は単に法律の名称の問題に止まらない。すなわち、EUの現状は金融派生商品を取扱う業者にまで自己資本比率規制等の網をかけようとしている動向を見るにつけ、わが国でも狭義の金融機関だけでなく監督省庁、関係業界が協力しあう取組みが喫緊の課題といえよう(筆者注4)。

1.本アンケートの目的と背景
CEBSは、欧州委員会がバーゼル銀行監督委員会のバーゼルⅡ(筆者注1)に基づき、懸念材料とする商品先物ビジネス(Commodities Derivatives)や 類似の商品派生契約を業務として取扱う企業が、自己資本比率等慎重な経営・執行体制をとるために必要な事項や実態を取りまとめ、最終的に委員会報告の一部とする。

2.CEBSの分析対象機関
商品取引企業における経営や業務面の慎重性を欠くことにより生じるリスク(prudential risk)に関する基本的な情報分析を行うものであり、対象機関は商品先物取扱企業に止まらず、商品取引を子会社による業務の一部とする総合金融機関グループも対象とする。
さらに、EUの「2004年金融商品市場指令(the Market in Financial Instrument Directive:MiFID)(筆者注5)は旧来の投資サービス指令(CRD)に比べ適用企業の範囲を見直しており、これらの見直しに当ってのprudential risk問題の検討も対象とする。
なお、英国の金融監督機関であるFSA(金融サービス庁)では、MiFIDの解釈に関し、解釈用語集(grossary)作成したり、またステイクホルダーの意見を聞くため、金融界だけでなく派生商品取扱会社諮問グループ(Commodity Standing Group)に対し委託調査を行っている(筆者注6)。その理由は、EU自体がMiFIDの付属書1のC項(5)、(7)、(10)にあるとおり天候デリバティブ(climatic variables)、排出権取引(emission allowances )等その適用範囲を広げており、一定範囲で欧州委員会が解釈を変えることによりISDの適用範囲が以下のように拡大するという危機感があるからである。
①投資銀行(investment bank)
②ポートフォリオ・マネージャー
③株式のブローカーやディーラー
④企業金融会社(corporate finance firms)
⑤先物、オプション取引会社
⑥一定範囲の派生商品取扱会社

3.主たる調査項目と目的
(1)企業の規模にとらわれず、また金融グループだけでなく多種多様な業種の範囲を対象とし、現時点での商品取引ビジネスの実践内容、商品リスクの測定手法等質問項目は具体的である。特に企業内におけるリスク管理等が中心である。また、現在の規制の枠組みや将来の規制体制がどのようにあるべきか等わが国の関係企業でも関心の高い内容である。
(2)さらに、産業の特性に応じた分析(industry analysis)、経営方針、その実践内容や手続等である。

4.その他
 具体的なアンケート項目はCEBSのサイトで入手可であり、回答内容について回答者から特に断りがない場合は公表する。

(筆者注1)欧州銀行監督者委員会(CEBS)は、2003年11月に欧州委員会の決定に基づき、設置されたものである(2004年1月に第一回目の会合を開催)。EU加盟25カ国の銀行監督機関及び欧州中央銀行やオブザーバー等46機関の代表者からなるもので、主たる任務は、①欧州委員会に対する金融政策とりわけEUの金融監督立法等についての適用方法案の策定、②EUが制定する金融監督についての各種立法の適用に関し、ガイドライン、勧告や基準の策定、③金融機関監督に関する加盟国の監督機関の共同活動の推進および情報交換である。
また、現下の主たる取組み課題は、銀行経営の健全性確保のために策定されたバーゼル銀行監督委員会の自己資本比率規制に関するバーゼルⅡ(新資本要求指令(New Capital Requirements Directiveと記されている。最低自己資本比率である第一の柱(pillar1)、銀行による自己資本戦略策定と監督機関による監督面からの検証についての第二の柱(pillar2)、デスクロージャーの充実を通じた市場規律の強化という第三の柱(pillar3)からなる)。わが国の銀行の適用遵守期限は平成19年3月末である。)のEU加盟国の銀行等への円滑な適用と越境金融サービスにおける監督機関間の監督基準の強化や緊密な共同運営等である。
http://www.c-ebs.org/aboutus.htm

(筆者注2)MiFID(Directive 2004/39/EC)は、2004年4月にEUで採択されたものであるが、1993年に採択された「投資サービス指令(Investment Service Directive:ISD)」に代るものである。本指令に基づき、EU加盟国は2006年4月末日までに国内法化を進める予定であったが、実施細則案の公表が遅れたことなどから2006年4月に修正指令を発し、遵守期限は2007年11月に延期された。
 なお、EUでは投資家保護や金融の安定性保持に関する指令として「適正資本金指令(Capital Adequacy Directive(CAD指令):Directive 2006/49/EC)」、「投資信託指令(Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities Directive(UCITS指令:Directive 2001/108/EC)」、「保険仲介業務指令(the Insurance Mediation Directive: 2002/92/EC)」等がありこれらの比較も十分に行っておく必要があるといえるが、前述したMiFIDについては日本証券経済研究所の大橋善晃氏の「EUの「金融商品市場指令(MiFID)」と最良執行義務」に詳しく分析がなされている。
 www3.keizaireport.com/jump.cfm/-/ReportID=45971/
ただし、商品先物、派生商品についてのFSAの検討には十分触れられていないように思われる。
一方、金融庁によせられた商品先物取引に関する苦情・トラブルは2005年7月から9月の2か月間で47件である。2005年12月7日の金融庁の「第40回金融審議会金融分科会(中間整理)」の資料では欧米法規制の現状が詳しく分析されており、また「投資サービス業(仮称)」の範囲の対象として「商品投販売業者」が明記されている。わが国においても監督官庁横断的な本来の「金融サービス法」のあり方を巡る更なる検討・取組みを期待したい。

(筆者注3)「金融商品取引法」の名称の紛らわしさを指摘する例として、8月25日付日経新聞「大機小機」欄を参照されたい。現在、内閣官房を中心に進められている法令翻訳では同法はどのように訳すのであろうか。

(筆者注4)金融庁は2007年夏を目途に金融派生商品の取引所への上場規制を大幅に緩和する。現在は、株式や債券、為替などに連動した特定の商品だけだが、不動産投資信託(REIT)指数先物、天候デリバティブといった新商品も解禁するほか、事前承認制度も撤廃する。投資家ニーズに素早く対応する商品開発体制を整え、取引所の国際競争力の強化を後押しする予定と報道されているが、投資家保護面からの補強はどうなるのであろうか。

(筆者注5)MiFIDの全文(英文)は次のURLの通り。
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:32004L0039:EN:HTML

(筆者注6)FSAのCommodity Standing Groupに関するサイトのURLは次の通り。
http://www.fsa.gov.uk/Pages/About/What/International/basel/csg/comsg/index.shtml


〔参照URL〕
http://www.c-ebs.org/press/22082006.htm

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Saturday, August 12, 2006

ドイツ連邦政府のメルケル首相がウクライナの新首相に送ったメッセージとは?

わが国のメデイアでも報道されている通り、ウクライナの元首相であったビクトル・フェデロビッチ・ヤヌコビッチ(Viktor Fedorovych Yanukovych:フルネームではそうなる)氏が首相に復帰することとなった。同氏は親露派でありまた最大野党の党首である。ドイツ連邦政府内閣のメルケル首相が8月7日に早速祝電を送った内容は、以下の通り極めて簡単なものであるが、背景を含め細かに読むとまさにドイツが今取り組んでいる多面的国際戦略の一面が読み取れよう。
さらに、わが国のメディアでは詳しく紹介されていないが、NATOとウクライナの関係強化を巡る旧ロシア連邦の国々を巡る国際戦略の動向もその伏線に見て取れる(筆者注1)。

「わが親愛なるウクライナ国の首相殿
私はあなたがウクライナの首相職を引き継いだことにお祝いの言葉を送ります。あなたに今後待ち受ける各種の任務につき、幸運とその成功が訪れることを期待します。

わが国は、貴国が法律に基づき(筆者注2)独立、安定、かつ民主的なウクライナ国家となることに強い関心をもって見守っています。また、わが国政府は、貴国の改革を支援するとともにNATO機構(Euro-Atlantic Institutions)とのより関係強化(筆者注3)を強く希望するものです。」

ドイツ連邦 首相 アンゲラ・メルケル

(筆者注1)NATOとウクライナの最近の関係強化の推移を簡単に見ておく。
【2002年11月3日】  NATO・ウクライナ行動計画(プラハ・サミットで採択)であり、この実現化に向けた責任はウクライナにあり、そのための課題は、①民主主義、②法の支配、③人権保護、④市場経済の強化である。最大の優先課題はNATOが支援するのは防衛問題と国家の安全対策である。
具体的な内容は以下の通りである。なお、ウクライナの取組みの進捗状況につき、2年に1回NATOとウクライナの外相級が準備した報告書に基づきNATOで査定会議が開かれている。
第1節 政治および経済問題
1.政治問題と安全問題
(1)国内の政治問題
権力の分離、司法の独立性、民主的選挙、政治的多元性、言論の自由、少数民族や宗教面の廃止である。とりわけ法制度改革の中心は欧州評議会の人権条約への参加である。
(2)安全強化に向けた国際的な政策
 自由なヨーロッパの実現、テロとの戦い、兵器の大幅削減、地域の不安定性や安全面の脆弱性の解決である。
第2節以下省略

なお、米国ブルッキング研究所の副所長兼外交政策部長のカルロス・パスカル氏(Carlos Pascual)は8月3日付のヘラルド・トリビューン紙において、今回のウクライナの組閣について触れつつ、またオレンジ革命の意義、国民の意識の変化などを踏まえ、ウクライナのNATOへの積極的な加盟の姿勢ならびにロシアとの友好関係強化を呼びかけている。なにせ、同国は、本年5月の調査で年率成長率は8,5%であり、人口4,700万人を擁する国である。
http://www.brookings.edu/views/op-ed/pascual/20060803.htm
また、8月5日の朝日新聞によると、新内閣では、「我々のウクライナ」幹部のタラシュク外相が、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を進めてきたグリツェンコ国防相とともに留任。大統領に近いルツェンコ内相も留任した。安全保障分野は、これまで通り欧米圏への統合を推進できる布陣となったとある。注目すべき旧ソ連邦の国の1つであろう。
【2004年3月22日】NATO・ウクライナの目標計画:2002年の行動計画の枠組みに基づく年次目標計画である。特にNATO参加国はウクライナに対し自由・公正な選挙およびメデイアの自由の実現の必要性について強いメッセージを送った。
【2006年4月7日】NATO・ウクライナの目標計画が公表された。
http://www.nato.int/docu/update/2006/04-april/e0407a.htm
(筆者注2)ここでいう「法律」の意味は、注1で述べた民主主義や法の支配を指すことは言うまでもない。
(筆者注3)wikipediaによるとウクライナがNATOの加盟国になるかどうかにつき、2008年に最終決定が行われるとされている。しかし、同国内には加盟反対者も多く大統領の舵取りは今後も難しさが増すであろう。

〔参照URL〕
http://www.bundesreggierung.de/
BPA Press Release:Merkel congratulates newUkrainian Prime Minister

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