Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Tuesday, January 30, 2007

欧州委員会が国際カルテル違反として日本企業に課徴金を科したその背景とEUの独禁法政策

1月24日に欧州委員会は発電所等で送電量を調整する主要システムであるガス絶縁開閉装置(Gas insulated switchgear:GIS)にかかる重電機メーカーによる国際カルテルに関与したとしてドイツのEU圏内の大手重電メーカーであるシーメンス(筆者注1)やわが国の三菱電機等合計10社に対し、総額7億50,712,500ユーロ(約1,200億円)の課徴金を科す旨発表した。このニュース自体すでに新聞等各紙で報道されている通りである。
また、これに比べ一部のマスコミにしか載らなかったようであるが、欧州裁判所の判決は1月25日に新日本製鉄、住友金属や欧州の企業計4社からの国際カルテル行為に関する上告を退けている(筆者注2)。
これらの背景にあるEU自体の独禁法運用強化、エネルギー政策、環境問題等に関する大きな動きについて、わが国のメデイアはほとんど触れていない。
本ブログでは、①国際化が進むわが国企業が真摯に取組む必要があるEUのエネルギー政策とカルテル規制の実情を正しく認識する、②日本企業に対する処分について単なる感情論ですまされない国際カルテル問題の背景にある諸問題について解説する、③今回は対象とならなかった「損害賠償請求」制度やシーメンスが予定している欧州裁判所(筆者注3)への不服申立てを提訴する場合の手続き、最後に④EU競争法の改正などへの取組課題について簡単に言及する。
 また、欧州委員会はこれら企業が16年間(1988年から2004年)公益事業会社や消費者を騙し続けてきたと指摘している(下記の通り1988年時点からの詳細な合意文書の存在をも確認している)。事実関係は、これから一層明らかにされるであろうが、一方これら企業は各国内における消費者や企業から民事的な責任を問われる損害賠償請求問題も残されており、いずれにしてもわが国の監督行政機関である経済産業省や公正取引委員会等の具体的かつ国際的な取組みを期待したい。
 なお、同委員会の競争政策担当委員ネリー・クルース(Nelie Kroes)は、2006年3月に日本を来訪しており、3月7日の日本記者クラブでの記者会見の中でわが国の独禁法改正問題に言及したほか、5.で触れるEUのガス・電気市場の機能不全問題に言及している。
と言うことは、公正取引委員会はすでにこの時点で日本企業への今回の課徴金問題について何らかの情報を得ていたということも考えられるが。(筆者注4)

1.課徴金決定の内容とLeniency Policy(制裁措置減免制度)の適用
各社別の制裁金の金額は新聞にあるとおりである。なお、本来処分の対象になるのは11社であったが、スイスABB1社は欧州委員会の調査に協力した場合に適用される「1996年Leniency Policy(寛大な措置方針)」に基づき100%制裁金(215,156,250ユーロ(約335億6,400万円))が減額された。ABBの課徴金額は、本来であればシーメンスに次ぐものである。EUの資料によると1996年以来80社以上がLeniency Policyの適用を申し出ているが、過去において100%免責を得た企業は3社のみであり、また一部減免が2社と言うことからみても、今回のABBの委員会への協力的対応が注目されよう(筆者注5)。

2.欧州委員会による査察・調査結果の内容
 同委員会によると、2004年前記ABBが提供したカルテル合意内容の詳細などの資料を抜き打ち査察により入手し、約25,000頁に亘るカルテル期間中の証拠文書を押収した。その内容は次の通りである。
(1)カルテルのメンバーであるEUのGISの大手供給業者は、少なくとも書面による合意を行った1988年から相互にGISの入札応募情報を交換し、かつメンバー各社の割当カルテル(cartel quotas)に従いメンバーのプロジェクト参加を保証すべく入札の調整を行った。その代わりとして、これらカルテル・メンバーは各自の最低入札価格に合意している。同メンバーは日本のGIS企業が欧州内でのGISの販売を行わず、一方で欧州の企業が日本国内で販売しないことにつき合意している。
欧州における入札募集において通常カルテル・ルールに従い割り当てられ、また欧州のプロジェクトに関する母国以外での入札成功は世界的な割当カルテルにおいて重要視された。このように日本企業は欧州におけるGIS市場でほとんどといってよいほど入札していないのに拘らず課徴金が科されたのは、これら自粛合意に基づきEU市場における競争が制限されことに直接寄与したことがその理由である。

(2)カルテル・メンバー企業は、経営者クラスが定期的に会合を開き戦略的な問題を論議し、またその下のレベルでは入札の対象となる計画の割当、本来の競争入札による影響を避けるため、当初から入札の成功を期待しない「偽」の入札を準備した。

(3)カルテル・メンバーは相互の通信内容の機密性を確保するため精巧な手段をとった。「コード・ネーム」が当該企業間、個人間で使用された。最近数年では通信上の匿名のメールアドレスを採用し、また送信メッセージの内容は暗号化した。1カルテル・メンバーから他のメンバーに送信する際、自宅のPCや簡単にこれらのPCにリンクがはれるいかなるコンピュータへのアクセスは厳禁された。また企業内のコンピュータからいかなる「匿名メールボックス」に宛てたメールの発信もカルテル間のネットワーク全体をリスクにさらすという理由から禁止された。

3.課徴金の根拠法と金額決定に至った経緯
上記の行為は、独禁行為にかかる「EC条約(EC Treaty)」81条に基づく極めて重大な違反行為である。課徴金額は関与したカルテル企業のEEA(欧州経済地域)での製造面の規模、カルテルの継続期間(16年間)等を考慮した。委員会はシーメンス(独)、アルストム(仏)、アレヴァ(Areva:仏)の3社はカルテルの機密性においてリーダーシップを取った点を考慮し課徴金額を50%まで増額した。スイスのABBも繰り返し違反行為を行ったとして50%増額を行ったが、前記の通り100%免責を得ている。
 委員会は、違法な行為を行ったすべての法人に対し責任を問う決定を行った。既存の判例法に則して仮にグループ内の親会社が商業的な活動において子会社の決定的な影響を与える行為を実行したときは、その両社を経済的な同一事業体とみなす。

4.カルテル企業に対する民事責任を問う損害賠償請求
 本件において記載した非競争的な企業活動により被害を被ったとされる個人や企業は加盟国内の裁判所に持ち込み損害賠償請求が可能であり、その場合公表された委員会決定は参加した事実やそれが違法なものであることの証拠として提出される。委員会の課徴金がカルテル企業に科されたとしても、この民事請求に関しては賠償額の減額の要素とはなりえない。これらの点に関しては「民事損害賠償請求に関するグリーン・ペーパー」に明記されている。

5.EUにおける「EU競争法」の改正および「EU競争総局」の権限強化に基づく「エネルギー分野における競争問題の調査結果」報告書
 以上が、欧州委員会の資料に基づく公表内容の概要である。しかし、EU市場への進出を目指すわが国企業にとって留意すべき点はEU競争法の強化である。
2004年5月1日にEUは法執行権の強化と分権化を柱とする「EU競争法」の大改正を行った。この点については高澤美有紀氏が国立国会図書館「レファレンス2005年5月号」で詳細に解説されており、参照されたい。
また、1月10日に公表された報告書については要旨のみ紹介するに留める。
なお、筆者はEU競争法の専門家でもないので誤解もあると思われるが、要は今EUで起きている問題は明日の日本の問題である点を理解して欲しいという点である。

(1)欧州委員会のエネルギー分野の競争実態調査の目的
EU競争総局(Competition )のサイトを読むと、2006年後半以降の動きが活発になっており、予告どおり本年1月10日に欧州委員会は「OUNCIL REGULATION (EC) No 1/2003 of 16 December 2002 on the implementation of the rules on competition laid down in Articles 81 and 82 of the Treaty」(筆者注6)第17条に基づく「EUのガスおよび電気部門に関する調査報告」を採択した。その詳細まで述べる時間がないので報告書やFAQに関するURLのみ(2)に記しておく。
筆者の意見では、今回のカルテル処分とこの報告書の採択とはまったく無関係とは思えない。マイクロソフト社問題は「EC条約(ローマ条約、1958年発効)」の第82条違反であるが、一連のこのような複数の海外の企業にまで課徴金を科すというからには、EU委員会がエネルギー問題に力を入れかつ環境問題を重要視している点を見逃してはならない。
 ここでは、委員会競争政策総局のプレスリリースにおける冒頭部分のみ紹介する。
「本報告において、委員会は消費者および民間企業が非効率かつ高すぎるガスや電気の市場により失う損失が極めて大であるとの結論に至った。特に、際立った点は①供給、産出やインフラにおける垂直統合の結果、平等なアクセス機会の欠如、インフラへ投資の不十分さをもたらす高度な市場の集中化であり、また②現職の運営担当者が相互に市場を分け合うといった談合(collusion)の可能性である。これらの問題に取組むため、本委員会は 独禁法、合併規制や国家による利支援と言った競争規則の下で個々の事案におけるフォローアップ活動を継続する。また、エネルギーの自由化をめぐる規制の枠組みの改善を図る。委員会は、すでに一部の事案については該当企業への捜査令状を得べく企業への調査を行っている。

(2)欧州委員会の「最終報告書」等のURL
①競争政策総局の最終報告書の発表:
http://ec.europa.eu/comm/competition/antitrust/others/sector_inquiries/energy/
②最終報告書:
http://ec.europa.eu/comm/competition/antitrust/others/sector_inquiries/energy/final_report.pdf
③最終報告書に関するFAQ:
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/07/15&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

(筆者注1)1月24日にシ-メンス社は次のとおり欧州委員会の課徴金処分に対し、真っ向から反論し、「シーメンス社は明確かつ拘束力を持つ倫理的かつ法的な行動規範を有しており、すでに内部調査にもとづき関与されたとされる3人の従業員を停職処分に付している。このような欧州委員会の処分に対し欧州裁判所に提訴する」旨のコメント内容を発表している。なお、余談であるが同社の英文リリースの中で「and」をドイツ語である「und」のまま使用している。かなりあわてたのか。
(筆者注2)判決文原文を確認したい方は、下線部分をクリックすると1月25日の判決一覧が出るので、さらにケース番号(C-403/04 PおよびC-405/04 P)を指定して検索していただきたい。また、解説記事が駐日欧州委員会代表サイトで見れる。
(筆者注3)EUの競争法に関する司法機関の手続きの流れで見ると、シーメンスはまず「欧州第一審裁判所(Court of First Instance)」に訴えを起こすはずであり、念のためシーメンスのサイトで確認したが、やはり「欧州裁判所(Court of Justice of the European Communities)」対し法的手段をとると明記されていた。
(筆者注4)言い訳になるが、筆者が「駐日欧州委員会代表部」の週刊ニュースを読み始めた時期が2006年3月でクルース女史の会見記事もフィルにも確かに残っていた。要注意である。
ところで、今月25日に欧州委員会は継ぎ目なし鋼管カルテル4社に関する欧州裁判所の判決(うち日本企業2社)を歓迎する旨発表している。代表部のこの2年間のトピックスを見てみたがこの種の記事はほとんどなかった。要するにEUの競争原理への取組みに関する世界戦略が変わった見るべきであろう。
(筆者注5)
ABBのサイトを見てみたが、今回の事案についてのコメントらしきものは見当たらなかった。
EUのメディアでは内部通報(whistle-blower )と言う用語を使っているところもあったが、個別企業として欧州委員会対策を意図した何かがあったのかこれ以上の詮索はできない。
(筆者注6)ここで言うTreatyとは「EC条約(ローマ条約、1957年3月25日署名、1958年1 月1日発効)」である。同条約は全314条に亘る大部な条約であるが、第6編第1章「競争に関する規則」第1節「企業活動への適用ルール」の中に第81条、第82条がある。

Copyrights (c)2006 福田平冶 All rights Reserved

Saturday, January 13, 2007

EU加盟国や米国等で急増するスパム被害と規制立法や業界自主規制の状況(前編その1)

スパム問題は、単なる「迷惑なメール」(筆者注1)問題ではすまない経済的損失、企業のセキュリティの脆弱性への脅威および個人のプラバシーの著しい侵害行為として、その違法性が大きな社会問題と感じているのは筆者だけではあるまい。
また、スパムメール問題はマーケティング活動と裏腹の問題でもあり、規制立法のみでなく業界の自主規制による対策の限界も見えてきたといえる。さらに、各国の法規制の例外規定による不整合さもうかがえるし、技術的な対策の限界も指摘されている。
 今回のブログではこれらの点を概観しながら、スパムに関する社会的・経済的な損失を危惧しかつ新たな詐欺問題に取組んでいるEU加盟国や米国の現状を紹介する。
 わが国ではスパムに対する法規制として、(1)送信事業者に対する「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(筆者注2)、(2)販売事業者に対する「特定商取引に関する法律」(筆者注3)があり、それぞれ新たな違法行為に即して法改正が行われているが、その一方で特定商取引法施行規則により義務づけられている表示の効果や罰則についての効果を疑問視する声が多い。この点は、個人情報保護法(プライバシー保護法)の規定を明確な根拠にしてスパムの法規制を行っているフランスの取組等が法規制の在り方を議論するうえで参考になろう。
 また景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年五月十五日法律第百三十四号))に関し、公正取引委員会が平成14年6月5日付けで「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」 を公表しており、これもわが国のスパム対策法規制といえる。
わが国の関係者が懸念するとおり、インターネット先進国ほど議会、司法・法執行関係者、関係省庁間で危機感をもって取組む重要課題となっている点を改めて紹介し、今後一層混乱するであろうスパム対策において効果を上げるべく施策の導入と消費者の問題認識の向上に注目したい。
 なお、本テーマについては当初2回くらいでまとめるつもりであったが、EUの主要国をまとめるとなるとさらにブログへの登載が遅れるため、前編の2回分に引続き、ドイツ、スェーデン、ノルウェイ、英国、米国の取組の現状およびわが国の取組むべき課題については、後編で述べることとした。

1.EUにおけるEmailマーケティングに対するアンチ・スパム法規制
(1)2002年7月のEU指令
EU議会および理事会はスパム等規制に関し、2002年7月12日に「個人情報の処理および電子通信部門におけるプライバシー保護に関する指令(Directive 2002/58/EC)」 (筆者注4)を採択している(施行日は2002年7月30日)。
同指令の主な内容について簡単に紹介するが、同指令に基づき加盟国は各国の国内法の立法をもって実際的な機能を果たすものであり、「指令」と言う加盟国共通の基準が作成されたに過ぎない。各国の国内法化の期限(deadline)は2003年10月31日であった。しかし、加盟国の法整備は大幅に遅れており、以下述べるとおり、法規制の在り方も国により異なるのが実態である。
(2)2006年3月の改正EU指令
 EU議会および理事会は、2006年3月15日に「公的に利用可能な電子通信サービスまたは公共の通信網サービスに関する規定におけるデータの発生または処理したデータの保持に関する指令(Directive /24/EC)」 を採択した。本指令は、データの保持に関し電子通信サービス・プロバイダーに課せられている現行の義務に関し、加盟国間の調和を図ることを求めている。その目的は、違法行為の調査、検出および起訴におけるデータの有用性を確実にすることである。このため同指令は、①保持されるべきデータのカテゴリー、②データ内容の品質保持(the shelf-life)、③保持すべきデータの格納要件、④データの機密保護に関し遵守すべき諸原則からなる。本指令の遵守期限は2007年9月15日である。

2.EU加盟国等におけるEmailマーケティングに対するスパム法規制の現状
EU加盟国ほか欧州に位置する各国別のスパム規制立法の状況について関心が高い割には一覧性を持ったデータは意外と少ない。EUのSPAM専門公式サイトである「EuroCAUSE」 でも意外に情報が古い。筆者もこだわって調べた結果、OECDの「スパム対策諮問委員会(Spam Task Force)」 の情報が最も新しくまた簡単な解説がなされており、本ブログでも引用した(筆者注5)。なお、筆者の個人的判断で取り上げる国を限定した。

(1)オーストリア
「2003年電気通信法(Telekommunikationsgesetz 2003 : TKG 2003)」 の107条(Unerbetene Nachrichten)および109条(罰則規定)がスパム関連規制に関する規定である。
【107条】1項:テレマーケティング(ファクシミリを含む)目的の通信について、事前に受信者の同意を要すると定めている。この同意は何時でも撤回可能である。
同条2項:ダイレクト・マーケティング目的を有し、かつ送信先が50先以上である場合において、事前の同意のないマーケティング目的の電子メール(SMSを含み。「消費者保護法1条1項2号」(筆者注6)に定義がなされている」)の送信を禁止する。
同条3項:次の「同意不要」の例外規定を定めている。
①送信者が、その顧客から販売やサービスに関する通信上の詳細な連絡方法について受取済である場合。
②通信が送信者における同様の製品やサービスに関するダイレクト・マーケティング目的である場合。
③顧客に対し、明確かつ明らかな方法で無料、簡単な方法により意義申立てを行うかまたは自ら保持する電子的契約の細目を適用できる機会が与えられている場合。
【109条】108条に違反した場合は3項19号から21号により37,000ユーロ(約574万円)以下の行政罰(Verwaltungsstrafbestimmungen)が科される。

(2)ベルギー
ベルギーは、EU指令に基づきEU加盟国で初めてスパム規制法を制定した国である。すなわち、受信者たる消費者が特に「オプト・イン」を選択している場合を除き、あらかじめ受信者の同意のない商業メールの送信を禁止した。受信者からの同意を得る前に商業電子メールの「subject lineの冒頭」に広告の略語である「AD」表示が義務付けられ、また接続時に受信拒否に関する有効な情報の提供も義務付けられる。
「2003年情報社会のサービスにおける司法特別法(Loi sur certaines aspects juridiques des services de la société de l’information)」 の14条および26条(刑事罰規定)がスパム関連規定である。
【14条】1項:広く広告する目的の電子メール(courrier électroniaue)の使用は、当該メッセージの名宛人による自由、特定されかつ関連する情報が提供されたうえでの事前の同意がない限り禁止される。
 前節に関し、国王(le Roi)は権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、禁止の例外とする場合をあらかじめ定めることができる。
同条2項:電子メールによるすべての広告の送信時に送信者は次のことを行わなければならない。
①広告受信後における明確かつ包括的な申込みの撤回権(droit de s’opposer)に関する情報の提供 。
②電子的手段による当該権利の効果的な遂行のための適切な方法について規定上の手筈の指定かつ明示。
権限を有する法務大臣および経済大臣の提案に基づき、国王は発信者に対し受信者がさらに電子メールによる広告の受信しない旨の意思を尊重するための方法を決定する。
同条3項:電子メールによる広告の送信時には次のことが禁止される。
①第三者の電子メールアドレスまたは識別情報の使用。
②電子メールの通信内容の原本性や通信過程の確認を可能とさせるすべての情報の偽造または隠蔽。
同条4項:電子メールによる広告を求める文字による証拠保全義務は発信者が負う。
【26条】3項:14条の規定に違反して広告電子メールを送信した者は、250ユーロ(約39,000円)から25,000ユーロ(約390万円)の罰金に処する。

(3)デンマーク
A.デンマークでは「2000年市場活動の適正化実施法(The Marketing Practices Act:Lov om markedsføring)」(筆者注7)の6条および30条(罰則規定)がスパム関連規定である。なお、同国の消費者保護オンブズマン(forbrug dk)のホームページ にはスパム規制に関するボックス(@)があり、問題意識の高さがうかがえる。
【6条】1項:業者は関係する消費者がそのような要求を行った場合を除き、電子メール、自動的架電・ファクシミリシステムにより商品、不動産その他の商品、ならびに労働やサービスの販売を売り込んではならない。
同条2項:(事前同意の例外規定)前記オーストリア法107条3項とほぼ同内容のため略す。
同条3項:取扱事業者は、1項に関し次に掲げる場合に、販売目的をもって1項に定める以外の間接的通信手段を用いて特定の自然人に働きかけを行ってはならない。
①関係する受け手が事業者からの通信を拒否している場合。
②四半期ごとに更新される市民登録中央局(CPR-Kontoret)(筆者注8)が作成するリストについて関係者がマーケティング目的の利用を拒否した場合。
③事業者が中央局との相談時において、関係者がそのような通信の受信について拒否することを予め認識していた場合。
電話によるマーケティングについても、「特定の消費者の同意に関する法律(Lov om visse forbrugeraftaler)」に定める要求されない通信に関する定めに従う。
同条4項:3項は問題となる個人が予め事業者からの通信を要求していた場合は適用しない。
以下略す。
【30条】3項:3条1項から3項、4条から6条、8条2項(中略)の規定に違反した行為に対しては他の法令によりさらに重い罰金刑の定めがない限り罰金に処する。
B.最近のデンマークのスパム有罪判決例
 forbrugのサイトでは、消費者保護に関する具体的な裁判例が紹介されている。その中でスパムに関するものを紹介する。
① 2005年10月31判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:10,000デンマーク・クローネ(約20万5,200円)
〔事案の概要〕IT企業であるN社が約100通の迷惑広告メールを拡散的に送信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、起訴に持ち込んだものである。
② 2006年4月7日判決(海事・商事裁判所)仲介・調査者:forbrug、適用法:Lov om markedsføring6条、罰金額:40,000デンマーク・クローネ(約82万円)
〔事案の概要〕2004年にワイン業者P社が約100通の迷惑広告メールを発信したとの苦情に基づきforbrugが調査し、警察に持ち込んだものである。この事案では950通のメールが発信されたとされたが、これはデータベースのリンクの誤りであると被告会社は説明した。しかし、受信者がオプトアウトした後も受信したとの苦情が出ていた。

(筆者注1)UBE(Unsolicited Bulk Email) もしくは UCE(Unsolicited Comercial Email(下線部はIPAのスペル・ミステイクである:筆者) Email)は、宣伝や嫌がらせなどの目的で不特定多数に大量に送信されるメールであり、俗にspam メールと呼ばれている。特に嫌がらせの場合には、その送信元を隠蔽する目的で、送信元を詐称したり、第三者中継を利用することが多い。また、送信先をロボットで収集したり売買されているアドレスリストを使用するほか、ツールで生成したアドレスを用いるなど、実存するアドレスかどうかを確認せずに送り付けることも多い(独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) サイトより引用)。また、経済産業省や総務省の解説パンフレット もspamを「電子メールによる一方的な商業広告(いわゆる迷惑メール)」としている。
ところが、法的ならびに技術的にみてこれらspamの定義はあまり正確とは言えない。ちなみに最近スパム等の専門家である高崎真哉氏の「迷惑なメール」 と言うカテゴリー分類を読んで目のうろこが落ちた気がした。スパムは頓珍漢な(とても顧客のニーズに即したマーケティング情報に基づくものとは思えない、ただフリーランス・アルバイター等が顧客リストや電話帳などをもとに電話をかけまくっているだけで、同一の代理業者から同一内容の電話が1日に何回もかかってくる。スパムよりさらに「迷惑」である。)電話セールス以上に社会的影響が大きい問題である。高崎氏の分類は、(1)大分類(①迷惑なメール、②ゴミメール(自嘲メール))、(2)中分類(迷惑なメール)(①嫌がらせメール(ストーカーや悪戯メール)、②ジャンクメール)、(3)小分類(ジャンクメール)(①ウイルスメール、②チェーンメール、③スパムメール)、さらに(4)スパムメール(迷惑メール:Unsolicitated Bulk Email:UBE)は①一方的広告メール(Unsolicitated Commercial Email:UCE)、②不特定向詐欺spam(内容は詐欺情報)に分類されている。同氏の指摘はこの中の(4)スパムメールを狭義の「スパム」として論じている。「スパム」の国際的に見た法的な定義は現状必ずしも明確でないが、ドイツの法律事務所のサイト で述べられている次のような定義が参考になろう。
①広告的な内容を持つこと(慈善目的の非商業目的の電子メールについては認められうる場合があり議論の余地がある)。
②受信者が欲していないこと:受信者(Empfänger)により事前の明確な要求が存在しないこと。
③あらかじめ送信者と受信者間で、例えば広告宣伝用emailニュースの申込等の商業取引契約関係がないこと。

(筆者注2)同法(平成14年4月17日法律第26号)は、これまで3回改正されており、最新の改正は平成17年7月26日第27号(平成18年5月1日施行)である。

(筆者注3)同法(昭和51年6月4日法律第57号)は、旧「訪問販売等に関する法律」の改正法である、これまで9回改正されている。同法の対象となる取引類型は、①訪問販売、②通信販売、③電話勧誘販売、④連鎖販売取引、⑤特定継続的役務提供、⑥業務提供誘引販売取引、である(平成14年4月28日に「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律」が成立し、①悪質な訪問販売等に関する規制強化および一定の場合に契約の取消やクーリング・オフ等民事ルールの整備、②連鎖販売取引等に関する返品・返金ルールや誤認による契約取消等・クレジット支払の拒否、③誇大広告・勧誘事業者に対する資料の提出など法執行手続が整備された)。
両法律は平成14年に改正され、同年7月1日に施行された。その内容は、通信販売事業者による電子メールによる消費者(受信者)からの請求に基づかない(Unsolicitated)広告の送信時における「表示義務」の内容(①メールの件名欄の冒頭に「未承諾広告※」の表示、②メール本文の最前部に企業者(送信者)の氏名・名称および受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスの表示、③任意の場所に送信者の住所および電話番号の表示)が追加された。アダルトサイト等は「受信拒否」を行うとかえって受信の事実が分ってしまうため、情報提供先である「日本データ通信協会」や「日本産業協会」のへの情報提供時に注意するよう警告が行われている。

(筆者注4)同指令の日本語訳文は「インターネットプライバシー研究所(代表 高木 寛氏)」サイト を参照されたい。

(筆者注5)OECDのスパム対策諮問委員会は、2005年3月に開催した会合で議論した文書「スパムの法執行の在り方に関する報告書」 を 4月23日に完成し、OECDの「消費者政策委員会(CCP)」および「情報コンピュータ通信政策委員会(ICCP)」に機密解除(declassfication)勧告を行っている。同報告書は越境におけるスパムに対する法執行の在り方が中心であるが、加盟国の国別公的機関の取組み方について3つに分類している。(1)消費者保護機関(日本では公正取引委員会と経済産業省が取り上げられている、欧米ではオンブズマンが一般的)、(2)個人情報保護機関(日本は該当機関なし、欧米では個人情報保護委員会またはオンブズマンが一般的)、(3)通信規制機関(日本では総務省、欧米では通信委員会や監督機関が一般的)である。国際化するスパム問題を論じるうえで、参考となる報告書であろう。

(筆者注6)同法(1979年KSchG)第1編(企業と消費者間の契約に関する特別規定)第Ⅰ編(適用範囲)の1条1項1号および2号 において「本編に定める法的な取引における「取引」は、一方で事業を行う個人企業家(Unternehmer)を含み、他方「消費者(Verbraucher)」個人には適用しない」と定めている。

(筆者注7)同法は2005年12月21日付で改正され(ACT No.1389 of December 2005)、2007年1月1日に施行された。

(筆者注8)デンマークの市民登録制度は内務省登録中央局が管理している。なお、根拠法は
「Act No. 426 of 31 May 2000 on the Civil Registration System (Lov om Det Centrale Personregister)である。


〔参照URL〕
http://silicon.fr/fr/silicon/news/2006/12/28/france-93-mails-spams

Copyrights (c)2006 福田平冶 All rights Reserved

ルクセンブルグ大公国の金融機関における法令遵守課題への取組に関する影響度調査結果

ルクセンブルグ銀行協会は、監査法人トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)の協力の下に標記調査を行い、2006年12月5日にその内容を公表した。詳細編と要約編とで構成されているが、今回のブログでは要約編を元に紹介する。なお、関心のある向きは詳細編(28頁)を参考とされたい。
これらのテーマについては、わが国の業界新聞等でも随時取り上げられているが、人口は約465,000人という極めて小国ながら、一方で極めて豊かな国であるルクセンブルグ(Grand Duchy of Luxemburg)(筆者注1)の金融機関がこれらの遵守項目について過去および今後3年間どのように点に重点を置きながら取組んでいるか、また膨大なIT投資や法令遵守にかかる費用の評価等、国際化するわが国の金融機関の今後を見据えた経営面の研究材料として参考になるものと判断し、取り上げた。
 なお、今回の調査対象項目として、例えば「バーゼルⅡとEU資本要求指令(the Capital Requirements Directive:CRD) 」(筆者注2)、「EU投資信託指令Ⅲ(Undertaking for Collective Investment in Transferable Securities :UCITS Ⅲ)」(筆者注3)、「貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(Council Directive 2003/48/EC )」(筆者注4)、および「金融商品市場指令(MiFID)」(筆者注5)等といったEU加盟国固有の課題が含まれている。EU加盟国の金融機関が取組んでいるこれらの課題についての概観・改正経緯・関連法令を理解するには「EurActive .com」サイトの「financial services」が良く整理されているので関心のある向きは併せて参照されたい(わが国では一覧性をもってこのレベルに達している資料はない)。

1.調査目的
過去3年以上にわたり、ルクセンブルグの金融部門はその堅確性の強化を目的とした新たな規制強化のうねりを経験した。銀行等信用機関や金融部門の専門家はこれらの新たな法令遵守要求に対し、①組織的な対応、②IT技術力等の強化、③資源や投資の結集を行わねばならなかった。したがって、金融機関はこれらの規制強化要求に対する率先性を優先し、また要員の新規採用、新手続き、新システムといった繰り返されるコスト負担を負った。
本調査は、これらの金融機関における法令遵守にかかる全体的な影響度を測定することにある。

2.調査対象金融機関および個人
2006年3月時点でルクセンブルグに拠点を有する153金融機関およびその他金融専門家を対象に調査を行い、うち37機関等(30機関はルクセンブルグ銀行協会会員銀行、その他の金融機関の従業員の10%に当る7名)から回答を得た。個人の意見も十分に配慮するとともに、匿名の調査を確保、調査対象金融機関の規模、業務の種類、本拠地国について区分を行った。

3.調査対象項目
 本調査では以下の8項目に限定した。
(1)マネーローンダリングとの戦い(Anti-Money Laundering:AML)
(2)適正資本(バーゼルⅡとEU資本要求指令)
(3)EU投資信託指令Ⅲ
(4)貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(UCITS Ⅲ)
(5)法令遵守機能の適用(The ≪Compliance≫Function Implementation)
(6)企業改革法(Sarbanes Oxley Act:Sox)
(7)新国際会計基準(IAS/IFRS)(筆者注6)
(8)金融商品市場指令(MiFID)(筆者注7)

4.本報告の構成
第一部:銀行における高いレベルの取組内容を調査した。
第二部:前記3.の各項目について金融機関の貢献度について調査した。
第三部:遵守内容について、金融市場たるルクセンブルグの今後について予測される法令遵守による影響とともにその経費負担について回答者から意見を集約するという質的な分析調査を行った。

5.調査に基づく分析結果
(1)過去3年および今後3年間の投資額
1機関あたりの過去3年間の平均投資額は、440万ユーロ(約6億8,200万円)でうち人事採用投資額はその約10%の47万1,000ユーロ(約7,300万円)である。さらに今後3年間に要する費用は過去3年間分の約半分にあたる201万5,000ユーロ(約3億1,200万円)と予想している。
(2)法規制に関する優先課題は次の降順である。
①AML対策
②法令遵守機能の適用(高度な知識と実行力を持った役職員教育等)
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
回答者の60%はこれらにかかる費用は地方予算でまかなうとしている。
(3)法令遵守で最も経費がかかるのは次のものとしている。
①新会計基準対応
②バーゼルⅡ対応
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
(4)非技術的な計画(UCITSⅢおよび法令遵守機能の適用)
構造的な対応課題として毎年度負担すべき経費であり、金融機関に高いレベルの影響を与える。
(5)AML対策は中規模金融機関にとって極めて重い費用負担となっている。
(6)AMLとそれに対する消費者の理解は、消極的なイメージを誘発するがゆえに最も銀行がその強化に取組んでいる。
(7)バーゼルⅡ対応は、ルクセンブルグの上位10金融機関が頻繁に投資を行っている。
(8)法規制の遵守のためには専門要員の増加が必要となり、3年前に比べ87%増となっている(法令遵守専門要員として1行平均4名の正職員の追加)。
(9)MiFD対応は、銀行の遵守計画のうち現在・今後で最も注目すべき課題である。
(10)ルクセンブルグにおける現在の法規制・監督に対する見方
①3分の2の銀行は金融センターとして同国は他のEU加盟国と比べ、過剰規制に陥っていないと見ている。しかし、回答者の63%はEU以外の国と比べ規制が厳しいと見ている。
②同国は、アイルランドやスイスに比べ金融機関にとって不利益さはないと見ている。
③大銀行は、規制強化計画はビジネスの開発に活用可能と見ている。
④68%の銀行が、AMLが最も規制に関してコストをかけるべきと考えている。
⑤3分の2の銀行が、銀行の機密保持(bank secrecy)は、最も厳格な法規制に関し両立しがたいと見ている。
(11)今後の法規制の在り方
①全回答者が法規制に関する要求に対応する費用は、今後3年以上増加すると見ている。
②62%の銀行がこれ以上の法規制は不要と見ている。
③法規制についてEU加盟国との協調については、87%、EU以外の国とは67%が必要と見ている。
③回答者の88%は、規制強化の影響は金融部門の集中化が今後進むと見ている。
④61%の銀行は、ルクセンブルグで提供されるべき金融商品やサービスは特にプライベート・バンキング分野で発展すべきであろうと見ている。

(筆者注1)ルクセンブルグの2005年の1人当たり国内総生産(GDP名目)は80,288米ドル(約924万円)で依然世界第1位である。また2006年3月の失業率はやや高くなっているが4.8%(EU加盟国平均が8.1%)である。ちなみに、米国CIAの2003年調査によるとわが国のGDPは世界第15位(34,510米ドル:約397万円)である。

(筆者注2)EU資本要求指令(the Capital Requirements Directive)は、2006年6月14日に採択されたもので、2007年1月1日施行、全面施行は2008年とされている。この指令の採択の背景には2004年6月に採択された「Basel Ⅱ」があることは言うまでもない。これを受けて欧州委員会は2004年7月に域内の全銀行、信用機関(credit institution:CI)、投資会社を対象とする「新資本要求指令」案を策定していた。本指令の特徴は、①リスク問題により機敏な内容になっており、金融機関は3つの対応レベルを選択できることとなっている。②小規模銀行や小規模金融会社のコスト負担に配慮するためEUは他地域と異なり実施を遅れさせる、③破綻リスクに関するモラルハザードの懸念に関しては、保険会社が中央銀行により最終的に保護されるの対し、保険会社や銀行に部分的に転嫁させうるとするものである。
なお、EUの金融監督規制に新体制に係る指令は本指令と「信用機関における新ビジネスの採用と事業の継続に関する指令(Directive 2006/48/EC) 」 (2006年6月14日付)である。後者は加盟国における異なる法律による障害を排除することで信用機関の域内における自由な設立やサービスの提供を可能とすることを目的とするものである。

(筆者注3) EU投資信託指令Ⅲは、正式には2001年1月22日に採択され、2004年2月施行の「Directive 2001/107/EC」(Official Journal L 041 13/02/2002) である。本指令(最初のUCITSは1985年)の目的は、越境的投資信託(across border collective investment fund )による信託規模の拡大並びにEU全体としての投資の潜在能力の最大化を図るとするものである。

(筆者注4)本指令はEUの住民が越境による貯蓄収入を得た場合、脱税を阻止する目的で加盟国間に自動的にその情報交換を行う法律制度の導入を義務付けるものである。2005年7月1日施行されることになっていたが、当初から対応できなかったEU加盟3カ国(オーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ)については開始から情報交換に代る措置として「源泉徴収」を適用する。
また、英国とオランダの属領(dependent territories)や関連領(associated territories)並びに特定のEU外の第三国については情報交換または源泉徴収を課すことになっている。
なお、英国の例で見ると「2003年財政法(2003 finance Act)」において、財務省に海外居住者に関する情報収集に関する規則等の制定権を定めている。
http://www.hmrc.gov.uk/esd/paper-11-final.htm

(筆者注5)「the Market in Financial Instrument Directive :MiFID」は、2004年4月に採択された(2004/39/EC)。本指令は1993年に採択された「投資サービス指令(Investment Service Directive :ISD)」に代るものとして採択されたが、その目的は①投資家がEU域内において一層容易に越境投資を行えるようにする、②証券会社がEU域内の単一免許を得る際の障害を除去する、③EUにおける証券取引所間の競争を促進し取引き分野を拡大する、④EU全域における投資家・サービスの利用者の適切な保護等である(詳細は日本証券経済研究所大橋 善晃氏「EU の「金融商品市場指令(MiFID)」と最良執行義務」 を参照されたい。)。なお、当初EUは2006年4月30日までに国内法化を求めていたが、実施細則案の公表が遅れたことなどからEUは2006年4月27に修正指令(2006/31/EC) を発出し、前記期限を2007年11月1日に延長している。

(筆者注6)国際会計基準(IAS)および国際財務報告基準(IFRS)を巡るわが国の金融監督・司法機関、経済・金融団体等の意見・対応は監査法人、研究者等から多くの報告がなされており、それぞれ参照されたい(しかしながら、長期間にわたりかつ国家間の多くの調整がなされてきた問題だけに全体的な動行を鳥瞰できる資料がないのが素人の筆者としては気にかかる)。

(筆者注7)EUのCESRは2006年12月15日付けで「The Passport under MiFID」と題するパブリック・コンサルティング・ペーパーを発している。その内容は、①MiFID3章「投資会社の権利」31条(投資サービス・活動に関する自由性)、32条(支店の設置) に関する通知手続き、②越境投資活動に関する効率的かつ継続的な監督を保証するのに必要な母国および受入国間の今後の協調についての共通的な取組についてである(前記筆者注5で紹介した大橋氏の論文ではMiFIDの31条は「実施期限」、32条は「指令の宛先」なっているが、これは誤りではないか)。意見の提出期限は2007年1月31日である。

〔参照URL〕
http://www.abbl.lu/informations/actualites/

Copyrights (c)2006 福田平冶 All rights Reserved