Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Saturday, November 18, 2006

ドイツにおける電子マネー(e-money card)の多機能化に向けた最新動向

ドイツの金融界全体の取組みとして「GeldKarte.de」がICカードによるプリペイド電子マネー(筆者注1)の本格的な導入計画が稼動し始めたのは、1996年4月であった。民間金融機関からなるドイツ銀行協会(Bundesverband deutscher Banken;BdB)、非営利金融機関である信用協同組合連合会(Bundesverband der Deutschen Volksbanken und Raiffeisenbanken;BvR)、ドイツ連邦公営銀行協会(Bundesverbandes Öffentlicher Banken Deutschlands;VöB)(筆者注2)の3団体に属する約3,800の金融機関と郵政事業(Deutsche Postamtamt)の金融事業体である郵政事業会社(Deutsche Postbank AG)が、官民金融機関の約52,000支店とポスト・バンクの約17,000の郵便局窓口のほとんどが電子マネーの取扱いを始めた。当時、わが国から多くの視察団がドイツを訪問し各種報告書が公表されたが、最近はあまり見かけない。どちらかと言うと英国の地下鉄カード(Oyster card)のe-money拡大計画の挫折といった失敗が目につく(筆者注3)。
一方、わが国のプリペイド式電子マネー・カードについてもsuicaの利用範囲拡大や銀行との提携による決済カード機能強化が図られているが、単一カードによる多機能性については、なお各関係業界の思惑もあり、難問が控えている。最近、筆者が気になっている点は家電量販店等のレジに並ぶ端末の多さである。このような現象は決して消費者や販売店の歓迎することではなかろう。
今回は、ドイツのプリペイド式電子マネーの現状を紹介するが、約6,400万枚(筆者注4)のGeldKarteが発行され、ドイツの全銀行が発行するカード枚数の70%を超えたものとされている。また、多機能性だけでなく、未成年者の年齢登録によるタバコ自販機での販売規制といった工夫も見られる。その他、セキュリテイ面の配慮を含め、ICカードの多機能性に着目した新規サービス拡大が目立つ。
なお、欧州中央銀行(ECB)が2000年のデータをもとに非現金手段による決済方法に占める電子マネー・カードの利用件数割合を作成した比較表を見ると、ベルギー、ルクセンブルグ、デンマークなどが3%から5%程度であり、そのほかの国はまだまだこれからといった感じがするが、割合の高い手段は国内外の送金(credit transfer)、口座振替(direct debit)や小切手(cheques)等比較的大口の決済方法であり、クレジットカードやデビットカードと並ぶ第三の小口決済手段としての注目度は依然高いと言えよう。
次回以降は、これらプリペイド・カードのEUにおける法的根拠の現状とわが国の法制度の現状比較、ならびにドイツ銀行協会のサイトで見るEUの統一決済システムに向けた決済カードの最新動向等を紹介する。

1.電子マネー・カード(電子財布)の現状
2005年中の電子財布への資金の移替え件数;450万回、資金の支払件数;約4千万件、移し替え金額平均25ユーロ、平均支払い金額は2.40ユーロである。

2.主な機能拡大の項目
(1)有料駐車場、公共交通機関、郵便局での切手販売の窓口・自動販売機での利用
 約400以上の市町村での有料駐車場での利用が可能となっている。バスや列車の切符の購入が可能であり、また、ドイツ全国で約13,000の郵政事業会社の窓口や6,000台の切手自動販売機でも利用できる。
(a)公共交通機関であるバス、電車での利用
現在約330社のバス、地下鉄、路面電車等の公共交通機関が同カード利用を認めており、また一部の会社は電子財布の利用者は割引サービスが受けられる。なお、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG)の近距離(blue automat)の利用が可能である。(筆者注5)
(b)郵便局の葉書・切手販売機や窓口での利用
ドイツ国内約6千以上の切手・葉書・テレホンカード自動販売機ならびにドイツ郵政事業会社の現在約13,000支店で利用可能である。なお、ドイツ郵政会社の顧客は「キャッシュ・グループ」(郵政事業会社、Deutsche Bank 、Dresdner Bank、Commerzbank 、HypoVereinsbank)のATMで無手数料でキャッシングが受けられる。

(e)受取人払い式宅配便の決済での利用
約1,700人の宅配業者の担当者は、GeldKarteの利用可能なモバイル決済端末を保持している。

(f)公衆電話での利用
全国約14,000台の公衆電話での通話のほかにSMSの送信にも使える。

(g)自動販売機等での利用
飲み物の自販機は約20万台、菓子類の自販機が約6万台でGeldKarteが利用できる。その他、大学、美術館、スイミング・プール等でも利用できる。

(h)オンライン・ショッピング時のインターネット端末での利用
ショッピング・カートが決済額を表示後、小さなポップアップウィンドウが開くのでGeldKarteを専用リーダーに差込み、「OK」ボタンを押す。次にリーダーで金額を確認して再度「OK」ボタンを押す(この場合、暗証番号の入力は不要)。引落し後、リーダーにカード利用可能残高が表示される。

(i)コインランドリーでの利用

(2)特徴的利用:未成年者へのタバコ自動販売機の販売規制
ドイツではわが国(20歳以下)と異なり16歳以下の者に対し、法律(2007年1月1日施行)でもってタバコの販売が禁止されている。この年齢チェックについて、①販売窓口の場合は16歳以上の者が保持(常時持ち歩くことまでは義務付けられていない)するIDカード(Personalausweis)またはパスポートの提示が求められる、②自動販売機で利用する場合は、まず信用協同組合、貯蓄銀行やHypoVereinsbank、comdirect bank銀行の窓口に行って「年齢証明メルクマール」情報を、カードのICチップに記録する必要(ec cardのGeldKarte化)がある(筆者注6)。

3.GeldKarteの具体的利用方法
(1)GeldKarteは新たにカード発行が不要である。
多くは大手銀行が発行しているec card 、bank card または貯蓄銀行が発行しているSparkassenCardの機能追加である。

(2)カードへの残高のローデイング
①銀行窓口やATMまたは専用端末を探す。
②カードを挿入する。
③「Load」を選択する。
④暗証番号を入力する。
⑤ロード金額を入力する。
なお、この資金のローディング取引の仕組図および販売者・カード発行銀行間の決済の仕組図は以下のURLに詳しく記されている。
http://www.geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/press/facts_and_figures.php
http://geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/press/technical_procedure.php

(3)顧客の利用時の操作
自動販売機の場合を除き、原則利用後に残高を確認する必要があるが、わが国と同様暗証番号入力等認証手続きはない。

4.GeldKarteの利用約款
(1)カードの不具合
カード自体の場合はカード発行銀行が対処する。加盟店の端末の不具合による時は、販売店の取引銀行が損害を負担する。

(2)カードの偽造・盗難・過失の問題
 わが国と同様、現金に準ずるものであり、不正コピーや偽造は偽金とみなされる。損害の補償についてはGeldKarte全体の問題として銀行が100%保証する。カード偽造につき本人が無過失の場合は、銀行がカード残高の範囲で100%補償する。なお、顧客側に過失のある場合、約款に基づき100%顧客の責任とするのが基本であるが、実際は「重過失」の場合に顧客の責任問題が生じよう。なお、カード発行銀行の倒産問題、取引内容の加盟店等によるトレースと個人データ保護の問題については1997年11月に行ったわが国調査団により詳しい報告がなされている(筆者注7)。GeldKarteのサイトのQ&Aでは上記の点(現金類似)が簡単に説明されているのみである。

(筆者注1)決済手段は通常、①プリペイド方式、②ペイ・ナウ方式、③ペイ・レイター方式に大別される。伝統的なもので例示すると、①テレホンカード、JRオレンジカード、メトロカード、ふみカード、バスカード、図書カード等、②現金、デビットカード、③クレジットカード、送金(credit transfer)等である。海外で見られる新たな手段として、ハードウェアを基礎とするものとして「Quick 」、「GeldKarte」、その他ソフトウェアーを基礎とするものもある。
(筆者注2)貯蓄銀行(Sparkassen)、州立銀行(Landesbank)が該当する。
(筆者注3) http://www.silicon.com/financialservices/0,3800010322,39158733,00.htm
(筆者注4)ドイツでは「電子マネー(elektronischen Geldes )」と言う言葉も1990年代の大学の論文等では多用されたが、最近では一般的でなくなりつつある。言葉だけの問題かも知れないが「e-payment」が一般的になりつつあるようである。
この数字は、ドイツ銀行協会の発刊雑誌「die bank」(2006年9月号)が公表している数字6,200万枚に近く正しい数字であろう。各家庭に1枚と言う数字である。http://www.die-bank.de/index.asp?issue=092006&art=322
(筆者注5)たまたま読んだ記事で、今月16日にカシオがドイツのメーカと協力してドイツ鉄道の車掌用決済端末を開発、採用された記事が出ていた。GeldKarteについては言及されていないが。
(筆者注6)ドイツの民間大手銀行であるドイチェバンク、コメルツバンクやドイツSEBバンクの顧客の場合は、これら銀行がEU域内での国際化も含め進めている「ec card」(ATMやデビットカードとしての利用が可能な銀行発行カード)にGeldKarte機能の追加を求めないと、自動販売機で利用できなくなる。ドイツのキャッシュカードのIC化(実質国際標準であるEMV仕様)対応は他のEU加盟国に比べ、①カードの切替率40%、②加盟店端末の切替率5%以下、③ATMの切替率5%と低く(フランスのIC金融カード推進グループであるカルト・バンケールが2004年末に取りまとめた結果)、ドイツにおけるこれらのカード戦略に見直しについては次回以降詳しく述べる。
(筆者注7)http://www.ecom.jp/qecom/seika/survey/wg13.pdf

〔参照URL〕
http://www.geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/geldkarte_users.php

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Thursday, November 02, 2006

オーストラリアにおける消費者金融教育と年金問題(その2:金融クイズの正解・解説)

10月8日にオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission)の消費者向け専用サイト「fido」の金融クイズを出したがその正解・解説を行っていなかった。次回のブログで正解・解説といっていたのにそのまま、別のブログ原稿の作成で多忙を極めていたといえば言い訳になるが、とり急ぎ原稿を作成したので掲載する(筆者注1)。
一方、わが国では保険金の未払い問題や掛けすぎ火災保険が大きな社会的問題化し、監督機関である金融庁も保険会社に対する行政処分、検査マニュアルの改訂、総合的な監督指針の改正、保険販売勧誘のあり方に関する検討会等保険会社に対する厳しい姿勢を強めているが、高齢化社会の共通的問題として欧米主要国やEU加盟国でも保険や企業年金のあり方について大きな問題となっている。
例えば、ドイツの連邦経済技術省(BMWi)の10月27日付ニュースでは「保険仲介業者(わが国で言えば「仲立人」に関するEU指令(Insurance Mediation Directive;2002/92/EC)」に準拠した国内法案について議会で読会に入っている旨リリースしている(筆者注2)。実は、2006年4月に欧州委員会は同指令の国内法令化が遅れた6カ国を列挙した。その中の1カ国がドイツであった。
これに関し、ドイツにおける保険契約法の約100年ぶりの全面改正や保険監督法の改正について金融監督機関であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht;ドイツ連邦金融監督庁)や改正の背景となった2005年7月の連邦憲法裁判所判決等につき別途詳しく説明する予定であるが、今回はまず金融クイズの正解・解説を紹介する。同サイトの解説は極めて簡単なものであり、下記の解説は筆者が金融実務的な観点から補足した内容である。

【設問1】正解は②である。広告文中の比較レート(comparison rate)は他の住宅ローンとの比較ではなく、ローンの表面金利(loan interest rate)に加え申込手数料(loan establishment fee)や取扱い手数料(ongoing fee)を加えたもので、実質ローン金利の比較が可能となる。オーストラリアでは2003年7月1日から施行された「改正消費者信用規則(Consumer Credit Code)」に基づき、金融機関ではこの実質金利比較表示が義務化され、金融機関のサイト上で実質金利比較計算が出来ることとなっている(筆者注2)。

【設問2】正解は①である。当然のことながらアレックスは2倍の保障が受けられるのであり、保険会社からプレミアム付きで2倍を大幅に下回るという説明を聞いても安易に信じてはいけない。消費者は保険会社から必ず見積書をとることである。約款や価格の慎重な比較は十分な価値があるといえる。

【設問3】正解は②である。この問題は実際解くとなると6問中最も難しい。筆者は豪州の大手銀行(National Australia Bank;NAB)とHSBCオーストラリア銀行のクレジット商品の説明を読んで、おおよそ次の解釈を得た。なお、豪州の大手金融機関サイトでは若干金利差はあるものの6カ月間年利0%の優遇金利が受けられる「Low Rate Credit Card」を横並びでPRしている。この優遇金利を受ける手続きについて2行の利用約款等をもとに補足する。
(1)まず他行や小売店発行のクレジットカードの決済用残高を当該銀行の専用残高に移す。その金額が多ければ多いほど金利節約額は大きくなる(HSBCのサイトの計算シュミレーションではキムのように3,000豪ドル(約266,000円)を移し替えると6ヶ月間の金利節約額は約245豪ドル(約22,000円)となる)。
(2)この専用残高は、通常の返済用(bill payment)月次決済通知(monthly statement)請求とは別管理される。3,000豪ドルは無利息融資残高として6カ月間留保(月次最低元本返済額(与信残高の3%)のみに当てられる)されなければならず、設問でキムはその後カードを利用した600豪ドルを月次通知に基づき返済してしまったため、この優遇金利を受けられる残高は2,400豪ドルに減額されるのである(この部分に関する約款の説明は極めて分かりにくい)。
また、キムが返済した600豪ドルについては通常金利(NABのキャッシング(cash advance)では17.24%)が適用される。なお、この残高はATM引出しにも利用できない。

【設問4】正解は①である。サムが融資を受けた3,000豪ドル(金利16.5%)を月次最低返済額(fidoの計算シュミレーションでは、債務残高の2%または10豪ドルのいずれか高い方を適用)で返済すると、完済には31年1月かかる。この返済計算シュミレーションは簡単である。fidoの計算サイトhttp://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/Calculators?openDocumentで「credit card calculator」の各項目に入力するだけでよい。総利息額も含めグラフで表示される。なお、このようなエクセル・シュミレーションによる説明は年金計算など消費者教育上極めて有効性が高いと思われるが欧米でも意外と少ない。

【設問5】正解は②である。ナットがまじめに1年間1,000ドルを退職年金用に追加的に積み立てると65歳時に受け取る概算の年金受給額(年額)は何もしなかった人より145,000豪ドル(政府による補助も含め)多くなる。この退職年金計算シュミレーションも簡単である(この計算シュミレーションは、あくまで概算で正確な金額等については免許を持つ年金アドバイザーと相談すべく注記されている)。

http://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/ef531319dbd6d282ca256afd001db469/fa4209304026a728ca257007001a6de3/$FILE/super_calc_v6.xls

【設問6】正解は①である。オーストラリアでも女性の方が長寿で、95歳まで生きる男性の割合は4人に1人である。

(筆者注1)2007年春から軽自動車税、公共料金、年金・健康保険料のクレジットカード決済からはじまり、その後所得税、住民税、固定資産税等への拡大予定が公表されている。これは本格的な電子政府の取組みの一環であることには間違いないが、クレジットカードはデビットカード(即時引落決済カード)やプリペイドカードと異なり、本来「与信カード」である。すなわち徴収側から見れば徴税率の向上につながるが、支払者(納税者)から見れば「金利負担」の問題があり、従来から利用されてきている「口座振替」に比べ大幅な負担増につながる懸念がある。金利負担を納税者に負わせるだけでなく、【問3】で見るように低利、または優遇金利と併用しなければ不公平であろうし、そもそも普及しないであろう。

(筆者注2)ドイツの対応は、欧州委員会が保険仲介者指令の国内法化を怠っているとして欧州司法裁判所に持ち出したことを受けたものである。
http://www.lloyds.com/Lloyds_Worldwide/International_compliance_news/Insurance_Mediation_Directive_update.htm

〔参照URL〕
http://www.fido.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/FIDO+Questionnaires?openDocument
の「try our money quiz」を参照。

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