Civil Watchdog in Japan

情報セキュリティ強化、消費者保護、情報デバイド阻止等、電子政府の更なる課題等、わが国のIT社会施策を国際的な情報に基づき「民の立場」で提言

Saturday, September 23, 2006

米国の連邦会計検査院(GAO)が個人情報再販業者に対する機密情報安全性監督の強化策を勧告

米国連邦会計検査院(United States Government Accountability Office:GAO)は、本年6月26日に開催された連邦議会上院の「銀行、住宅・都市問題委員会(Committee on Banking ,Housing and Urban Affaires ,U.S. Senate)」において、連邦や州の監督機関が行うGLBA等個人情報保護に関する重要な法律の運用に関し、最近急成長しつつある個人情報の再販事業者(Information Resellers)(筆者注1)が行うべき安全対策に関して、有効な監督機能を果たしていないとする勧告報告を行った。
GAOの活動や権限について、本ブログでも数回取り上げたことがあるが、GAOの連邦議会への発言力すなわち上院・下院議員への影響力は極めて強く、また取扱う問題の範囲が広く米国の行政機関への横断的な影響度は大といえる。
特にGAO報告の特徴は、関係企業、監督機関、消費者等からの情報収集が徹底されており、その説得力は他の連邦監督機関が無視し得ないものといえる。以下、紹介するとおり、法律の守備範囲と監督業界間の縦割りの弊害は米国でも現実の問題であり、この分析手法はわが国でも参考とすべき点といえよう。
なお、わが国では個人情報保護法の全面施行後約1年を経過した本年7月に、金融庁は金融機関における顧客情報の管理体制に係る一斉点検の結果(筆者注2)を、また内閣府は事業者の取組実態調査結果を公表している(筆者注3)。米国における金融機関の再販事業者の利用原因の1つが、「愛国者法(PATRIOT ACT)」におけるマネロン阻止やなりすまし詐欺の防止に関する法的遵守の要請である。
わが国ではマネロン阻止強化の観点から9月22日に本人確認法施行令等が改正され、2007年1月4日以降10万円超の現金によるATM振込が原則不可となる。また、名義人へのなりすましチェックも強化されるなど、状況が類似しており、他山の石とすべきであろう(筆者注4)。

1.GAO勧告の内容
連邦議会は次の3点について具体的に検討すべきである。
(1)個人情報の再販事業者が保有する機微個人情報(sensitive personal information)の安全性対策について情報提供を求める。
(2)現行の金融機関の個人情報保護法であるGramm-Leach-Bliley Act(GLBA)や公正信用報告法(the Fair Credit Reporting Act:FCRA))の遵守監督機関である連邦取引委員会(FTC)について、法執行機関として有効な制裁手段といえる民事制裁権(civil penalty authority)(筆者注5)を付与するよう見直しを行う。
(3)保険会社の連邦監督機関である全米保険監督官協会(the National Association of Insurance Commissioners:NAIC)においてもGLBAの遵守監督を行う。

2.GAOの調査・研究の背景
米国における個人情報再販事業者は、(1)公的な機関が保有する記録(生年月日、資産記録等)(Public records)、(2)一般に公表されている情報(電話帳等)(Public available information)、(3)個人信用情報報告書のキー情報であるcredit header data(筆者注6)や加入者リスト(subscription lists)を情報源としてこれらデータの統合を行う。その結果、成果物として「本人確認報告」、「保険金請求記録報告」、「潜在的顧客情報」、「信用情報報告」が作成され、最終的に金融機関等に提供されるのである。
米国のこれら企業は米国国民のほとんどすべてといえる膨大な消費者の個人情報を収集し、その結果、この数年明らかになっているとおり、ChoicePoint,LexisNexis等大規模な漏洩事故が生じている。

3.GAOが取組んだ調査内容
(1)GAOは銀行、クレジットカード会社、証券会社や保険会社が次のような理由から再販事業者からの個人情報を入手、利用していると見る。
A. 利用者の法適合性
B.愛国者法等の法令遵守
C.なりすましなど詐欺の予防
D.自社の商品の市場性

(2)GAOは、公正信用報告法(FCRA)およびグラム・リーチ・ブライリー法(GLBA)の適用により再販事業者への情報提供は制限されていると解している。すなわち、FCRAは与信や保険契約時における法適合性判断のための第一次的情報の収集や使用時に適用され、またGLBAは同法に規定する金融機関によって取得される個人情報について適用される。
これら2法には情報保護・セキュリティに関する規定があるにもかかわらず、消費者(再販事業者からの購入利用者のこと)は再販事業者からあらゆる機微情報の入手が可能と言う拡大解釈の恩典をうけている。

(3)すなわち、FTCはこれら2つの法律のプライバシーやセキュリティに関して再販事業者が行うべき遵守に関して第一義的な監督責任を持つ連邦機関である。1972年以降、FTCは全米規模の3大信用情報機関(Equifax、Experian、TransUnion)を含め、FCRA違反を理由として再販事業者に対し、20件以上の正規の法執行行為を行っている。しかしながら、FTCは GLBAに基づくプライバシー保護に関する規定(これらの規定は、法律に基づき大量の漏洩事件 違反行為に対して有効な法執行を担保することになる)に基づく民事制裁権を持たない。

(4)米国のプライバシー保護法などの遵守状況を概観すると、銀行や証券会社の連邦規制監督機関は遵守ガイダンスを発刊するとともに検査を行い、その他公式・非公式の法執行行為を行っている。最近時にNAICの協力により行われた調査では、保険会社においてGLBAの不遵守の事例がみられたが、州の監督機関はNAICとともにこれらの問題に対応する明確な計画を有していなかった(筆者注7)。

(筆者注1) GAO報告によると、再販事業者名として本ブログで紹介したほかに、eFund(預金取扱機関に対し預金取引の履歴情報を提供)、Thompson West and Regulatory DataCorp(企業に対し詐欺やその他のリスクの軽減情報を提供)、ISO(保険会社に対し保険契約履歴情報その多詐欺要望商品を販売:http://www.iso.com/)等が紹介されている。

(筆者注2)http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/f-20050722-4.pdf

(筆者注3)内閣府は、調査結果の詳細を本年7月28日開催の「国民生活審議会個人情報保護部会」の資料として配布されている(内閣府のHPで同資料を探すに、無駄な時間がかかってしまった。特に従来から気になっている点であるが、わが国の電子政府の中核である内閣府のサイトには「検索」機能がない)。資料が全部で158頁と大部(要旨では企業の検討材料として不十分)のためか、5分冊となっており、企業にとって個人情報漏洩防止に関心の高い漏洩原因の分析は第3分冊の中にある。第3分冊のURLは以下の通り。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kojin/20th/20060728kojin3-2-3.pdf

(筆者注4)本人確認法(正確には「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」)の施行令、施行規則の改正に伴う解説URLは以下の通り。
http://www.fsa.go.jp/policy/honninkakunin/index.html

(筆者注5)GAOの資料にあるcivil penaltyとは正確には行政機関により行政手続を通じて行われるAdministrative civil penaltyであると思う。米国における法律・規則違反等の違反行為に課される罰金(Fine)であり、広義の意味ではこのほかに民事裁判手続を通じて裁判所によって算定・不可されるCivil judiciary penaltyとがある。なお、内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室が担当している「独占禁止法基本問題懇談会」の取組は、最近時、EUをはじめ海外でも研究・審議が進んでいる分野との整合性を意識したものといえよう。
「独占禁止法における違反抑制制度の在り方等に関する論点整理」参照。
http://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/
わが国の経済界もその動きに神経質になっており、経団連経済法規委員会は本年8月1日付けで『「独占禁止法基本問題」に関するコメント』を公表している。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/057.html

(筆者注6)credit header dataとは、「姓名(姓名の変更を含む)、住所(旧住所を含む)、電話番号(知られている場合、非表示の番号も含む)、生年月日(通常生年月までに限定)、社会保障番号」をいう。この情報は、個人信用情報の生成過程で発生するが、FTCはそれが顧客の取引履歴の一部でないとして、FCRAでは規制されていない。この問題は1997年1月30日の人権保護団体である「Privacy Rights Clearinghouse」でも取り上げられており、米国では従来から問題視されていたといえる。
http://www.privacyrights.org/ar/fedres.htm

(筆者注7)米国の保険監督上、「保険」は1944年以前において商業(commerce)とみなされず、連邦法の規制対象外であった。しかし、連邦最高裁判所が連邦議会に実質的に州際の保険事業についての立法権を認め、成立した法律がMcCarran-Ferguson Act(15 U.S.C. §1011)である。しかし、同法はいくつかの州の保険業規制を定めているが、Sherman Act、Clayton Actおよび連邦取引委員会法(FTCA)では州法によって規制がなされない範囲で、連邦法が適用されるというかたちがとられている。http://www.law.cornell.edu/wex/index.php/

〔参照URL〕
http://www.gao.gov/new.items/d06674.pdf

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Sunday, September 03, 2006

米国連邦金融機関検査協議会(FFIEC)、FinCEN等が銀行秘密保護法等に関する改訂マネロン銀行検査マニュアルを公表

米国連邦金融機関検査協議会(Federal Financial Institutions Examination Council:FFIEC)(筆者注1)、金融犯罪法執行ネットワーク(Financial Crime Enforcement Network:FinCEN(筆者注2)ならびに外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control:OFAC)(筆者注3)が、「銀行秘密取引の報告等に関する法律(Bank Secrecy Act)」(筆者注4)等マネロン防止に関する検査マニュアル2006年改訂版(筆者注5)を公表した。
以下においてその概要を紹介する。なお、これらの行動の背景には世界的規模のマネーロンダリング対策の責任組織であるFATF(金融活動作業部会)40の勧告に基づく対応があるのであるが、最近のわが国の対応としては、8月30日に公表された「郵便受取および電話受付」代行業の追加を始め(筆者注6)、金融庁も、具体的対応が進んでいる。米国では、実は前記監督機関連名で、金融機関の協力強化の観点から9月13日、14日の2日間にわたり(両日とも内容は同じである)1時間という短時間ではあるものの全米ベースの金融機関等を対象とするインターネット会議(電話会議も併用されている)を開催し、改訂マニュアルの主な改正内容につき説明がなされる。登録期限は9月6日であり、筆者はすでに登録手続きを終えたが、関心のある向きはチャレンジされたい(筆者注7)。

1.改訂マニュアルの構成
全体で6章および付属資料で367頁(PDF版)にわたるものである。
(1)序論
(2)BSA/AML遵守プログラムの調査に関する検査概観および手続
(3)関係法令に基づく要求内容および関連のテーマに関する基幹(core)となる検査概
 観
(4)遵守対象企業の範囲拡大および外国銀行の支店等に関する検査概観
(5)米国内外における遵守対象商品・サービスについての検査範囲拡大に関する検査概観
(6)人や企業についての検査範囲拡大の概観
(7)附属資料(関係法令、指令、参照資料等)

2.改訂マニュアルを読むうえのポイント
(1)前記(2)章、(3)章の大部分は検査官におけるBSA/AML遵守検査プログラムの基盤となる部分で「検査範囲および検査計画」(PDFバージョンの15~17頁参照)および「BSA/AMLリスク査定」(同27頁)等が中心となる。両章に共通する用語、例えば「funds transfers」「foreign correspondent banking」等であり、これらの明確化が検査官等の改訂内容の理解向上につながる。
(2)検査官は、最小限次のような手続を踏まえ検査対象の金融機関のリスク査定を均一
的に行う。
 ①検査範囲および検査計画(15~17頁参照)
 ②BSA/AMLリスク査定(27頁参照)
 ③BSA/AML遵守プログラム(34~39頁参照)
 ④検査総括および検査の終了(41~44頁参照)
(3)OFAC規則は、BSAの一部ではないが、OFACによる制裁処分の遵守確認に関し、検査
対象機関の遵守方針や検査手続に関する基幹となる各章に関するものである。このた
め、検査官は検査範囲ならびに検査計画の策定に当り、銀行のOFACのリスク査定内
容を確認するとともに、銀行のOFAC対応プログラムが検査期間中に行動を伴って行
われているか否かをチェックする(マニュアルの144~146頁にわたるOFAC基幹検査
手続参照)。
(4) 金融機関が的確な管理を欠く場合、企業・商品、顧客、企業はBSA/AMLに関する
リスクを負うと評価される。加えて、今回拡大された章は、それに応じたリスク管理責任を負うことになる。これらの基幹となる検査手続は、すべての金融機関にとって適用可能なことではないが、独立したこれらのテストによる遵守内容の品質、数量の確認が求められることは間違いない。

(筆者注1)FFIECは、米国の連邦金融監督機関である連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、全米信用組合管理局(NCUA)、通貨監督庁(OCC)、貯蓄金融機関監督局(OTS)からなる協議会である。監督機関の共通の取組み課題についての指導的機能を有しており、最近ではインターネット・バンキング取引の安全対策の観点から2006年12月末までに多要素認証(multi- factor authentication)の義務化の各金融機関に遵守を義務付けており(http://www.fdic.gov/news/news/financial/2005/fil10305.html)、わが国の都市銀行でも始まっている「トークン型ワンタイム・パスワード」もその対応例に当る。

(筆者注2)わが国の監督窓口は、金融庁総務企画局特定金融情報管理官である。

(筆者注3)外国資産管理局の内容について参考となるURLは、http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/invest_02/

(筆者注4)わが国では「Bank Secrecy Act」を「銀行秘密法」と直訳されるケースが未だに多い。
これでは何が秘密なのか、誰の秘密なのかが分からない。同法は、現在では「愛国者法」に基づく改正も行われており、テロ資金防止法(BSA/AML)と引用されることが多いが、1970年に制定された当時は脱税のための資金洗浄阻止も重要な目的であったようであり、企業に対する同法の報告義務に関し、連邦財務省内国歳入庁(IRS)が多く関与している。分かりやすく言うと「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務法」である。つまり、報告義務を課されるのは、狭義の金融機関(規制内容や罰則は金融機関の場合が厳しいが)だけでなく、現在は外国の銀行に金融資産を有する企業、さらに貴金属・宝石取扱業者もFinCENへの報告義務が課されるなど範囲が広がっている。IRSのサイトでは企業向けにBSAについて報告義務の内容や罰則規定についてQ&A等で詳しく説明している。
http://www.irs.gov/businesses/small/article/0,,id=152532,00.html

(筆者注5)わが国と同様、「検査マニュアル」は当然のことながら頻繁に改訂されるので、原本に当
る際には注意が必要である。2006年7月28日に改訂された版のURLは次の通りである。FDIC等も
同時に改訂のポイントを公表している。
http://www.ffiec.gov/bsa_aml_infobase/pages_manual/manual_online.htm
pdfバージョンのURL
http://www.ffiec.gov/bsa_aml_infobase/pages_manual/manual_print.htm

(筆者注6)わが国の金融監督機関のマネロン対策の政府機関は、金融庁総務企画局総務課特定金融情報室である。FTAF40の対応に関して、最近では金融庁が本年6月13日に「カナダ金融部門との疑わしい取引に関する情報交換枠組の署名について」を公表している。現行の金融機関監督規制の下では本人確認法や組織的犯罪処罰法により届出が義務化されているが、今後はより包括的な法規制が行われる可能性が高い。


(筆者注7)登録方法は、米国の金融機関向けに説明されているが、それ以外の場合でも可能ではあ
る。登録サイトの標題は、「FFIEC BSA/AML Examination Manual Outreach Fact Sheet」である。

〔参照URL〕
http://www.bankinfosecurity.com/regulations.php?reg_id=298&PHPSESSID=97c3860d339c70e6d50368b0e0747873

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